第54話 神器との対話
今回は少し長くなっています。
ん……。ここはどこだ?
俺はどこを見ても真っ白な世界にいた。
何もない、どこまでも続く白い世界。
少し不気味な気もした。
俺が周りを見渡していると、
「ねえ、君」
誰かに呼ばれた。
「こっちだよ、こっち」
「いやいや、こっちだよ」
俺はどうやら二人に呼ばれているみたいだ。
「……悪いが、一人ずつ話してくれ。二人同時はさすがに厳しい」
「ごめんね、それは無理なんだー」
「うんうん、僕たちは二人で一つ。別々には、なれないんだよ」
二人で一つ?どういうことだ?
少し考えて、一つの結論に至った。
「お前ら、『クロス・イグニス』か?」
「そのとおり〜〜〜」
「だいせいかーーい」
どうやら当たってたみたいだ。だが、なんだこの状況は。
前世でも俺は『クロス・イグニス』を持っていたが、こんなことは一度もなかった。何か理由があるのだろうか。
「なあ、なんで俺をここに呼んだんだ?」
「別に呼んだわけじゃないよ」
「君が神器に近づいたから、ここに来ちゃったんだ」
「神器に近づく?」
どういうことだ?わけが分からない。
「気をつけないと、よくない事が起きるかもよ」
「あと、人工神器も危険だよ。しっかり見ておかないと、取り返しのつかないことになるかもよ」
「それってどういう……!?」
急に目の前が歪んできた。
「残念だけど、もうお別れだね」
「また会えるかもね。その時はよろしく。ーーー君」
「お前、俺の名前を」
俺は意識を失った。
あいつがあの時言った名前は、前世の俺の名前だ。やはり、あいつらは俺を知ってるみたいだな。
◇
「彼、頑張ってるみたいだね。」
「そんなことくらい分かってるよ。何年の付き合いだと思ってるの」
「それもそうだね。でも、だからこそ彼には僕たちみたいになってほしくないな」
「どう思おうと、僕たちには口出しはできない。だから、今は彼に力を貸すだけだよ」
「うん、そうだね」
◇
「ん……。んん」
俺は目を覚ました。どうやらベッドに運ばれたようだ。
それにしても、さっきのは何だったんだろう。俺はなぜあの世界に行ったのか。あいつらが言ってた言葉の意味は。
分からないことだらけだ。また、調べてみるか。
そんなことを考えていると、誰かが部屋に入ってきた。
それは王女、クレアだった。
「リース様っ!目覚めたのですね!……よかった」
クレアは泣いていた。そこまで致命的なダメージは負ってなかったんだがな。倒れたのも、魔力が著しく無くなってただけだし。
「あのー、王女様?別に命に関わるほどの傷でもなかったと思うんですけど……」
「何をおっしゃってるんですか!リース様は少しの間ですが、呼吸をしてなかったんですよ!命に関わります!」
まじか。魔力の欠乏ぐらいでそんなこと起きたっけな?
まあ、偶然かもしれないけど。 もしかすると、神器のことと関係があるのかもしれない。
クレアの声が聞こえたのか、ステラ、レイナ、ミルもやってきた。
「リースくん!大丈夫!?」
「良かった、本当に良かった……!」
「……心配した」
「ごめんな、心配かけて。もう大丈夫だよ」
俺たちが集まったところでクレアが口を開いた。
「みなさん、この度は私と父を救っていただき、本当にありがとうございました。この恩は絶対に返させてもらいます」
「大丈夫ですよ。当然のことをしたまでです」
「またいつでも頼ってください」
「……私たちならいつだって力を貸す」
「……ありがとう、ございます」
クレアはさらに泣いてしまった。よほど辛かったし、嬉しかったんだろう。
俺は立ち上がり、クレアの頭を撫でて、
「大丈夫だから気にしなくていいよ。辛かったら、いつでも言ってきな」
俺がそう言うと、クレアは下を向いてしまった。三人の方を見ると、なぜか全員呆れた顔をしていた。
「ほんと、リースくんは……」
「そういうことを平気でやるのがダメなところね」
「……ずるい」
俺は何かやってしまったんだろうか。女の子を慰めるのなら、これが一番いいと前世で聞いたことがあるのだが。
クレアは下を向いたまま、部屋を出ていってしまったので、俺たちは国王に挨拶をしに行った。
国王もとても感謝していた。褒美をくれると言っていたのだが、特に欲しいものはなかったので、また後日ということにした。
俺たちは学校の寮に戻った。それにしても今日は充実した一日だったな。明日はゆっくり休もう。
そう決めた俺は部屋で眠りについた。




