第114話 秘密の会話
次元の穴の中は真っ暗で何も見えなかった。別次元とは一律でこうなのか、はたまたこの次元だけがそうなのかは分からない。気になる所ではあるが、今はそれどころではない。
俺は周りを確認して、真斗がいないかを確認する。ここはいわば真斗の真斗のホームグラウンドだ。いつ、どこから襲われるか分からない。だが、意外にも真斗は堂々と真正面から歩いてきた。
「よう、ツカサ。俺の世界へようこそ。ここなら何を喋っても、俺たち以外には聞こえないぜ」
「なぜ俺をここに連れてきた?わざとだろ?」
「その通りだ。俺はわざとお前をここに連れてきた。理由を知りたいか?」
「別に聞かなくてもいい。というか、どうせ言うんだろ?」
「ああ、よく分かってるな。さすが元相棒だ」
「うるせえ。早く言えよ」
「はいはい。お前をここに連れてきたのは他でもない。お前に協力を要請するためだ」
「協力?何を?」
「それはもちろん俺たちをここに連れてきた張本人、天使クラリエルの討伐の、だ」
「……は?」
「は?じゃないだろ。お前もあいつの計画を知ったから転生という禁忌を犯したんだろ?」
「まあ、そうだけど……。え?お前も知ってたの?」
「偶然な。だけど、俺はお前と違って知らないフリを続けたさ。そして今この時を待ち望んでいたんだ」
「どういうことだ?」
「もうすぐあいつがこの世界にやってくる。お前を殺すために、だ。だけど俺はあいつの召喚陣にちょっとした細工を施した。それを使えば、俺たちの力で勝てるはずだ」
「状況がうまく飲み込めないが……ひとまずあの野郎を逆に倒すってことでいいんだな?」
「そういうことだ」
「でも、なんでわざわざこんな所に連れてきたんだ?普通に向こうでよくないか?」
「ダメだ。向こうでの俺らの会話はクラリエルに筒抜けなんだ。だからここに連れてきた。ここの空間は俺の支配下であり、たとえクラリエルでも好き勝手にはできない」
「なるほどな。分かった、お前に協力しよう」
「助かる」
「もともと俺もそのつもりだったしな。構わないさ」
「じゃあ作戦を伝えるぞ。まずは――」
俺は真斗からクラリエルを倒すための作戦を聞いた。それにしても真斗も知っていたとは。あの悪虐非道な天使の所業を。もっと早く教えてくれても良かったのに。
◇
「以上だ。異論はあるか?」
「いや、それでいこう。日取りは?」
「明後日だ。お前のいる所に迎えに行く」
「分かった」
「よし、じゃあひとまず話は終わりだ。ちょっと剣を前に構えてくれ」
「?わ、分かった」
俺は言われた通り、グレイスとロスト・イグニスを前に構える。その時、真斗からなかなかの魔力を感じた。
「頑張って踏ん張れよッ!!」
「え!?ちょ、ちょっと待」
「滅技 金碧輝煌」
とてつもない速さと質量を持って放たれたその一撃は軽々と俺を後ろに吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁ!!!!」
大声を上げながら後ろに転がっていく。そして、ついにどこかの壁にぶつかった。目を開けると、そこは王城だった。どうやら真斗が俺の後ろに次元の穴を開けていたようだ。
それから真斗が戻ってくることはなかった。おそらく俺が向こうの世界で弾き飛ばされたようにしたかったんだろう。割と徹底してるな。
俺はひとまず王城の壊れた壁を直した後、準備に出かけた。全ては明後日にかかっている。気を引き締めないと。




