第108話 徹底的に叩きのめそう
俺はヒューズさんと決闘するため、王城の中庭に向かった。
「さあ、ここでいいかな」
「ええ、いいですよ」
「じゃあ早速始めようか。……来なよ」
「それじゃあ遠慮なく」
俺は魔力の残量が心許ないので、ロスト・イグニスで直接斬りかかった。
「ほう、なかなかの踏み込みだね。まあ、あいつも身体能力だけは高かったから当然かな」
「ああ、そうですか」
「ちょっと冷たくないかい?もっと楽しくいこうよ」
いちいちうるさい人だ。ここ最近出会った人は喋りたがりが多い気がする。
「はぁッッ!!」
俺は尚もロスト・イグニスで斬りかかるが、ヒューズさんはのらりくらりと躱してくる。正直、俺自身も疲労から全力を出せない。
「でも、こんなもんか……。まあ想像通りだね」
何故か上から目線なのが俺の頭をイラつかせる。これ以上上からこられてもイラつくだけなので少し本気を出すことにした。
「漆黒の刃」
ロスト・イグニスが黒く輝き、魔力を帯びる。さっきまでとは段違いに強力になっている。
「お、やっと本気できてくれたかな?」
彼は腰から蒼い剣を引き抜いて俺の一撃を受け止めようとした。だが、ロスト・イグニスが蒼い剣に触れた瞬間、蒼い剣が綺麗に真っ二つに斬れた。
「へ?」
ヒューズさんは情けない声を出す。さっきまでの威勢はどこへやら。
「ちょ、ちょ、タイム!タイム!」
彼は俺に止まることを要求する。
「勝負の途中に止まってくれる敵なんていませんよ」
そう言って俺は再び魔力を込めて攻撃する。
「暴嵐の連撃ッッ!!」
風の斬撃が幾度となくヒューズさんを斬り裂く。さらに俺は攻撃の手を止めない。
「氷結の連撃ッッ!!」
「ぎゃふんッッ!!」
今度は氷の斬撃が彼を襲う。彼はまたまた情けない声を上げる。
「閃光の連撃ッッ!!」
「痛いッッ!!」
さらに光の斬撃を繰り出して彼を痛めつける。
「業炎の……」
「ちょ、ごめん!分かった分かった!僕の負けでいいからッ!もうやめてッ!」
ヒューズさんは手のひらを返したように謝ってきた。潔く負けを認めたようだ。だが、これで終わるわけがないだろ?
「連撃ッッ!!」
炎の斬撃が彼を襲う。俺はまだまだ攻撃を止めない。
「なんでッッ!僕の負けだって!!だからやめてッッ!」
「漆黒の連撃ッッ!!」
俺はヒューズさんの言葉も聞かずにロスト・イグニスを振り下ろそうとする。その時、クレアが割って入った。
「リース様ッッ!もうおやめください!!彼は負けを認めてます!もう戦う必要はないでしょう!」
俺はクレアの姿と声を聞いて我に帰る。つい昔のようになってしまったみたいだ。怒っていたとはいえ、気をつけなければ。
「すまん、クレア。ありがとう」
俺はクレアに礼を言って剣を元に戻す。ヒューズさんはまだ放心状態のようだ。
「もう、心配させないでください……」
クレアは涙目で俺の元に駆け寄ってきた。俺は頭を撫でてニコッと微笑む。
それにしてもヒューズさんは何故こんなに調子に乗っていたのだろうか。後で話を聞いてみるか。




