第105話 誇りに思う
ウェルグにとどめの一撃を与えたのは俺の昔の知り合いの藍澤真斗だった。こいつも俺と同じ転生者だ。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「そりゃ決まってるだろ。お前を探してたんだよ、ツカサ」
「え、なんで俺を?」
「お前が天使様に楯突いたからに決まってるだろ。まあ、今日は挨拶に来ただけだ。もう帰るさ」
「楯突いたって大袈裟な。俺はただ…」
「天使様は怒っている。お前が何をしたかなんて関係ない」
「なんか変わったな、お前」
「ふんっ、それはお前もだろ。まあ、いい。次会ったら命はもらうぞ」
「できるもんならな」
「ぬかせっ!」
真斗は黒い渦を作ってその中に消えていった。あれはワープゲートみたいなものだろうか。
「ははっ、やっぱ勝てなかったな……」
ウェルグの声が聞こえた。真っ二つに斬られながらもまだ生きているみたいだ。さすが悪魔と言うべきか。
「ウェルグ、聞こえてるか?」
「あ、ああ、ギリギリだけどね」
「さっきは言いすぎたよ。お前はとても人間らしかった。『暁の翼』にいた時もまったく気づかなかったしな」
「あはは、君にそう言われるとなんだか嬉しいな」
ウェルグは心の底から笑っているみたいだ。今死にそうなんて思えないほどに。
「ねえ、ツカサ」
「なんだ?」
「僕は君を誇りに思うよ。どんな時でも冷静で聡明で諦めない君を。生涯出会った中で唯一尊敬できる人だ」
「大袈裟だろ。俺はそんなに凄い人間じゃない。今回もやばかったしな」
「でも勝ったじゃないか。君はちゃんと勝った。それで十分でしょ」
どんどんウェルグの声が小さくなっていく。もうそろそろだろうか。
「レイナに君がこれから必要になるであろう本を託した。彼女が目覚めたらもらってくれ。僕の、君の古い友人からの最期の贈り物だ。大事にしてくれよ」
「……ああ、約束する」
「ふふっ、なんだか眠くなってきた。僕は寝るよ。おやすみ、ツカサ」
「ああ、おやすみ」
ウェルグは眠るように死んだ。その顔はとても満足気だった。
俺は手を合わせた。『暁の翼』の一員、ウェルグ=グラスカの冥福を祈って。
「お疲れ様、ゆっくり休んでくれ、ウェルグ」
ウェルグはそのまま塵になって消えてしまった。悪魔は死んだら塵になってしまう。出来ることならしっかり弔ってやりたかった。
「よしっ!」
俺は後ろを振り返らない。後ろを見たって何も良いことはない。ただ悲しくなるだけだ。それなら前を向いて少しでも次に繋げるべきだと俺は思う。
だけど忘れてはいけない。一緒に戦った彼らのことを。あの日々を。時間を。俺が忘れてしまったら誰の記憶にも残らない。人は死んだら人の記憶でしか生きられない。だから俺は心に深く刻み込む。彼らの勇姿を。
俺はみんなを、『暁の翼』を誇りに思う。




