第97話 真犯人
「どうなされたのですか!!父上!!」
国王に呼ばれたアルフがやってきた。相当急いできたみたいで、随分息を切らしている。
「アルフレッドよ、この城の、いや、この王国の危機だ。ハウンズが裏切って悪魔と屈託しおった……!」
「!?……くっ、分家風情がッッ!!」
「もしもの時は頼むぞ。次の国王はお前だ」
「なっ!?父上ッッ!!??何を申しておるのですか!?私にはまだ早いです!!」
「私は国王として対処せねばならん。それがどれだけ危険であろうと、だ。それにハウンズと話がしたい」
「父上……。分かりました。ですが私はまだ国王になるつもりはありませんので」
「ふっ、任せたぞ」
そうして国王が事態の収集に向かおうとした時、そいつは現れた。
「ギャァァァァ!!!」
耳をつんざくような甲高い叫び声が部屋中に響いた。そして全身を黒で包まれたような人型の生物が律儀に扉から入ってきた。
「もしや……あれが悪魔か……」
異様な雰囲気を漂わせた悪魔は俺がこの前戦ったのとは少し違う感じがした。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「アルフレッド!!お前は逃げろッッ!!」
「し、しかし……」
「早くッッ!!!」
「……ごめんなさい」
アルフはなるべく悪魔を避けるようにして出ていくが、悪魔は全く見向きもしない。狙いは国王だけみたいだ。
「来いッッ!!悪魔よ!!」
こうして国王と悪魔との一騎討ちが始まった。が、決着はすぐついた。
「グ、グギャ、ギャ……」
「これが悪魔か……。大したことないな」
国王が一瞬で悪魔を倒してしまった。それもそのはず、国王ベーガンは今の俺より遥かに強い。国王になる前は王国騎士団の団長を務めていたほどだ。そんな人が負けるわけが無い。
だが、その考えはすぐに正さないといけなくなることとなった。
「さすが国王陛下でございますね」
隅の方で国王の戦いを見ていたガルドが話しかけた。
「悪魔といえどこの程度だったということだ」
「まああの悪魔は下級ですから、倒せて当然なんですけどね。まあ下級といえどそれなりの瘴気を纏っているので恐怖心が刺激されるものなのですが」
「ほう、よく知ってるな。それも文献で読んだのか?」
「いいえ、これは常識ですよ。我々にとってはね」
「む?どういうことだ?先ほどからおかしいぞ、ガルド」
「おかしくなんてないですよ。むしろこっちが本業なんで」
そう言った途端、ガルドの姿がどんどん変化していき、角と翼が生えた全身を黒で包まれたような姿となった。まるでさっきの悪魔みたいだ。
「ガルド……?まさか貴様……!?」
「ふっふっふ……ようやく気づきましたか。全く想像通りに動いてくれてとても気持ちがいいですよ」
「ということはハウンズの一件も嘘だということか!!」
「ええ、もちろん。彼には少しの間の隠れ蓑となっていただきました。今の行方は知りませんが、どうでもいいことです。なんせ準備は整ったのですから!!」
「準備だと……!?」
「はい、この国を滅亡させていただきます。これでこの場所にも血の紋が浮かび上がる。計画に一歩近づきます」
「計画?貴様らいつからこのようなことを!」
「残念ですが教えられるのはここまでです。もちろんあなたには死んでいただきますので、ご心配なく」
「させるかッッ!!」
国王がガルドに向かって斬りかかるが、ガルドは指で受け止める。それだけ力の差があるということだろう。
「ではさようなら」
ガルドがその腕で国王の体を突き刺す。
「がはッッ!!!」
国王は口から血を吐き出し、そのままその場に倒れ込む。
「ふぅ、おや、あなたもいらっしゃったのですね」
入り口の方から新たにもう一人やってきた。ガルドの知り合いということはおそらく悪魔だろう。
「そっちはもう終わったみたいだな」
もう一人は白いローブを着ていて顔は見えない。また声も魔法でいじっているみたいだ。
「はい、完璧です。すみませんね、手伝ってもらって」
「構わないさ、思いの外楽しませてもらったしな。存外ああいうのも悪くない」
「それはよかったです。まあ最初は嫌がってましたけどね。誰が人間のパーティーになんか入るか!!ってね」
「そんな昔のこともう覚えてない。それはそうと、今回の件で分かったことがある」
「なんですか?」
「私が潜入した『暁の翼』というパーティーは危険だ。奴ら、人間のくせに強すぎる。いずれ我々の敵となるかもしれん」
「あなたが人間を褒めるなんて意外ですね。そんなに強いのですか?」
「ああ、奴らは個々が強力な力を持っている。アルフも今は恐怖心に駆られているが、上級悪魔並みの力は持っている。……そうだ、いいこと思いついたぞ」
「何か嫌な予感がするのですが」
「アルフを仲間にしよう。今の奴なら簡単に仲間にできるはずだ」
「えぇー、めんどくさいですよ。自分でやってくださいね」
「もちろん、自分でやるつもりだ。逆にお前は手出しをするな」
「はいはい、分かりました。では私は行きますね」
「ああ、じゃあまたな」
こうして俺たちは事件の真実を見た。やはりレルフランド家の者は裏切ったわけではなかったのだ。
しかし悪魔が王国に潜んでいたとは。何回か行ったことがあるが、全然気づきもしなかった。もっと警戒をしておくべきか……。
そしてもう一つ、『暁の翼』の誰かも悪魔だった。だが、誰かまでは分からなかった。これも後で調べる必要があるな。




