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ラウンドリム0009

朝餉を終えたダリュートは席を立つ。

(しかし…初めて見たが…食べれるものだ)っと。


納豆と呼ばれる糸を引く不思議な豆を醤油と和芥子なる物へ葱と言う香草を刻み入れ混ぜた代物…

生まれから少々痛んでいても生きるために食べて生き抜いた経験があるダリュートに食材に対する忌避感は薄い。

警戒しつつ口にいれつつ…(意外とイケルか、これ)っと。


納豆と白米に味噌汁、一夜干しの焼き魚に香の物、これに卵焼きと海苔と言われる板状の代物が付く。

食べたことのある料理もあるが初めて食べる物も多かった。

特に海苔と言われる板状の代物が何でできているのか、どのように食すのかっと首を捻ったものだ。


まぁ、周りで食している者達の真似をして食した訳だが…

(醤油を軽く付けた海苔てぇので飯を包んで食うとはな。

 だが…意外とイケたわい)


そんな感想を抱きつつ食堂から出て女将を探す。

今日の予定として、取り敢えず身形を整えることとしているダリュート。

だが、そんな彼には土地勘が無いため何処で身形を整えて良いのやらと。


そこで彼が思い付いたのは知らぬのらば知る者に尋ねれば良いと言うことだ。

むろん、この町に知り合いが居る訳でもない彼が物を尋ねれる者は限られる。

そうなると、一番尋ね易い宿の女将となる訳で…


「おお女将、ちょうど良いところへ」っと。

「おや、お客様。

 どうかなさいましたか?」

声を掛けられ立ち止まりダリュートの方を見る女将。


帳場から移動している所だったようである。

おそらくは旅立つ宿泊客の見送りを兼ね宿賃の清算などを行っていたのであろう。

まぁ、帳場を管理している番頭も居るので女将が態々出向く必要は本来はない。

常連客か大事な客の旅立ちにでも当たったのてあろうか?


一仕事終え、次の仕事へと。

そんなタイミングにて呼び止められたにも関わらず嫌な顔もしない女将へダリュートが尋ねる。

「いやね、身形を整えたいのだが…散髪屋と服屋を教えて貰えぬだろう?」


そのように尋ねるダリュートへ女将がニコヤカに応じる。

「散髪屋とは床結いのことでしょうかねぇ。

 以前に来られた方が床結いを散髪屋と申されておりましたし…


 床結いなれば数件御座いますが、御武家様は髷を結いなさるので?」っと。

「髷?ああ、不思議な頭髪をしておる者達の姿を見掛けたが…あれかい?」

「不思議な頭髪と言われるのが、どのような頭髪を刺しておられるのか分かりかねますけれど…

 仕官された御武家様がなさる頭髪と考えてよろしいかと」

そのように告げられ困ったように

「いや、その髷とやらは勘弁願いたいところだ。

 別に仕官する気もないのでな。

 単に髭を剃り落とし、髪を整えたいだけなのだよ」っと。


「左様ですか…そうなると庶民が使う床結いとなりましょう。

 最近では若い世代の者達は髪を結わない頭髪としております。

 そのような者達が通う洋装床結いと言われる店であるならば、東通りの方に心当たりが御座いますよ」っと。


「では、そこを訪ねてみよう。

 して、服屋の方なのだがな」

「呉服屋でしたら近くに御座いますが…若者が好む洋装店でしたら洋装床結いの近くですわね。

 グランドラムの外から来られる御武家様も好んで使われているようですよ。

 今、地図をしたためますわね」っと

帳場へ取って返した女将は番頭からわら半紙と筆を受け取ると、筆先を墨壷へ浸した後でサラサラと紙へ。


女将がしたためた地図を受け取ったダリュートが

「済まぬな、助かる」っと礼を。

「いえいえ、しかし…ほんに丁寧な御武家様ですよぉ。

 大概の御武家様は、成されることになれなすってますから礼も言われませぬから」

「それは、人としてどうなのであろう?」っと小首を傾げるダリュートであった。


その後、宿を出たダリュートは受け取った地図を頼りに町を歩く。

朝早いと言うこともあり、開いてない店なども。

途中で終わり掛けの朝市を認めたので、軽く冷やかした後で移動を。

そのお掛けか、ちょうど良い時間帯となったみたいで床屋は開いていた。


ダリュートは開店と記載された札を見た後で店の木戸を開ける。

早い時間であるためか客の姿は無い。


「いらっしゃいませ…

 っと、御武家様で?」

戸惑ったようにダリュートを出迎える床屋。

まぁ、2m近い大男と言うだけでも威圧感が。

鎧下では見っともないと鎧も着込んでの外出であるため、(つるぎ)を携えた出で立ちは威圧感がある。

そんな者がヌッとばかりに店へと分け入る訳だ、驚かぬ訳がない。


「うむ、此処は散髪屋…洋装床結いで間違いないかね?」っと。

そう返して来た大男の声は優しく穏やかであり、此方へ害を成す者ではないと思われる。

そのように判断した床屋がダリュートへと

「は、はい。

 此処は床屋であっておりますよ」そう返す。


「なれば髪を整えて貰えぬか?

 髭も落として剃って貰いたいのだ」

そのように言うではないか。


「御武家様がですか?

 その見事な御髪(おぐし)なれば、床結いにて仕官に相応しい髷として貰えましょうに…」っと戸惑っている。

ザンバラ髪にて髷が結える状態まで髪を伸ばす浪人は多い。

また、浪人ともなれば稼ぎも少なく、頻繁に床結いを使用する余裕などないものだ。

つまり、威圧感を与え仕事を得易くする髭をあたるのも、仕官する武家が行う儀式に近いと言う。

そのような者は床結いへと赴くものなので、間違えで訪ねたのでは?っと思ったようだ。


「いやいや、俺は昨日船でこの地へと辿り着いたものでな、仕官などは毛頭考えてはおらぬ。

 実はな、武家仕事以外にも興味があってな。

 そうなれば身形を整えるべきと口入屋の店主に告げられてのぅ」


そう告げるダリュートを暫しシゲシゲと見てしまう床屋。

どう見ても立派な武家としか見えぬ彼が武家仕事以外を?

戸惑いつつも…


「左様でしたか…では此方へ」っと。

どうやら腹を決めたと見える。

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