ラウンドリム0005
ダリュートの告白を聞いた後、トールは部屋を辞して船へと。
彼が戻った後、ダリュートは部屋を出て女将を捕まえて訊ねごとをしていた。
「私は今日、船で此処へ辿り着いたばかりでしてね。
暫くは此方へ留まろうかと考えているのですが、路銀は何時までも持ちません。
故に、此処ら辺で得られる仕事などないものかと思いまして。
何か心当たりなど御座いますまいか?」
そんなことを訊ねてきたダリュートをシゲシゲと見た女将はダリュートへと尋ねる。
「お客様は御武家様で御座いますか?」っと。
「武家と言うものが、どのようなものかは知りませぬが…戦いを生業として生きてまいりました。
故に戦うことに関する仕事などがあれば助かりますね」
彼が告げると女将が暫し考え告げる。
「では、御領主様に仕官願っては如何」っと。
そう告げられ渋い顔をするダリュート。
「申し訳御座らぬが、私は誰にも仕えるつもりはないのです。
故に仕官は考えてはおりませぬ」っと。
それを聞いた女将は驚き呆れる。
武家の者ならば仕官を試みるむものと相場が決まっており、仕官を夢見ている浪人など掃いて捨てるほど居るのが実情だ。
そんな世の中に反するように仕官を拒む者が居ようとは…
まぁ変わり者ではあるが悪い者ではないようだ。
なれば口を利くのも客商売の一環であろうと割り切る女将。
そんな彼女が次に告げたのが…
「そうですねぇ…では船の護衛などは如何?
船旅は慣れておられるのでしょ?」っと。
すると困惑した彼が申し訳なさそうに…
「いやいや、此処まで船の護衛として雇われておったのです。
その船にも引き続いて護衛を受けて欲しいと願われておるのですが…
やはり地に足を付けての生活が性に合っておりましてね。
ですから船を降りることにしたのですよ」
此処は港町、故に武家としての仕事しては船の護衛が多いのである。
その仕事が嫌となると危険な仕事となることが多い。
そんな仕事を客に斡旋して良いものか…そう困惑しつつ次に女将が告げたのが…
「そうですわねぇ…そうなると、私が御武家様に勧められるのは2つ。
1つは狩猟斡旋所にて猟師の手助け依頼を受けること。
もう一つは口入れ屋にて依頼された様々な依頼から御武家様に合う仕事を斡旋して頂く…
この程度しか、私には…」
「ふむ、困らせてしまったようで済まぬな。
だが、仕事を斡旋して貰えそうな場所が2つもあることが知れたのは朗報と言えよう。
して、それらの場所を教えては頂けぬか?」
ダリュートが訊ねると女将が藁半紙へと墨壷へ筆を漬けつつ地図を綴ってくれる。
それを受け取り、ダリュートは旅籠から出て教えられた場所へと行くことに。
先ずは狩猟斡旋所なる場所へと。
此処は元々は猟師達が獲物を卸しに来ていた場所なのだそうな。
だが、猟を行う場所によっては危険な生き物が跋扈する地も。
そのような場所にこそ狙う獲物が現れる場合もあるのだとか。
特に薬剤となり得る希少な獲物などに、その傾向が高い。
そして病によっては、そんな希少な獲物を獲る必要に迫られる場合が。
猟師は獲物を獲ることは出来るが、襲い掛かる危険生物を退ける力に欠ける場合が。
いや、それがあっても危険を退けつつ狩を続けるのは困難なのだとか。
そのために護衛が必須となる場合があるそうな。
っとは言え、護衛も危険な任務となろう。
希少生物を狩って帰ることが任務である猟師を生きて帰すため息絶える武家者も。
故に猟師の護衛に就く武家は少ないらしい。
そんな説明を女将から受けたにも関わらず、一度顔を出してみようと狩猟斡旋所へと足を向けるダリュート。
そんな彼が、そこへ足を踏み入れると斡旋所内は閑散としていた。
まぁ、昼下がりのひと時であり一番人が少ない時間帯であるのだから仕方ないとも言えるが。
斡旋所には受付などという物などない。
中央に囲炉裏が設けられ、串に刺した肉が炙られており、焼けた串を肴に仕事を終えた猟師が飲んでいる。
その近くの机で事務作業をしているご婦人が。
50畳ほどの室内に5人ほどが居るだけ…知らずに立ち入れば何の施設か分からぬであろう。
ダリュートが室内へと立ち入ると、彼に気付いた男が誰何する。
「おめぇ、誰でぇ?」っと。
「俺はダリュートと言う。
今日、船でこの地へと降り立った者だ。
宿の女将から狩猟斡旋所の話しを聞き、どのような所か見に来たところだ」
彼が応えると猟師達がシゲシゲと彼を見る。
そんな彼らの1人が。
「物好きな野郎だ」っと。
そんな彼らを苦笑しつつ諌め1人の男がダリュートの元へと。
「猟師達は無愛想でしてね、申し訳ない。
ただ、狩猟斡旋所へ猟師以外が立ち入るのは稀でしてね。
して、何用で此処を伺いに?」
そう訊ねる彼にダリュートが逆に尋ねる。
「その前に、あなたは?」っと。
「これは失礼。
私は一応、此処を任されている者でね。
カナールと言う、よろしく」
そう告げられダリュートが彼の問いに答える。
「猟師の護衛と言う仕事があると聞いた。
俺にも勤まる仕事なのか詳しく聞きたくてな。
なにせ、今日、此処へと辿り着いたばかりで稼ぐ術もないのだ。
そして叶うならば、この地を旅しつつ旅先でも稼げる活計を得たいのだよ。
故に、どのような生業なのかを知りたくてね」
そのように告げるダリュートを、思わずシゲシゲと見てしまうカナールであった。