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ラウンドリム0004

女将から鍵を受け取り従業員の1人に部屋へと案内される。

トールはダリュートの客として部屋まで着いて来るようだ。

呆れるダリュートの視線をシレッと受け流し平然と後に続く。


案内する従業員も苦笑いしつつも容認して案内してくれた。

案内された部屋は1人部屋ではあるが、無理をせずとも2人は留まることは可能な広さはある。


ベッドと椅子が備え付けられた机、衣装棚にサイドテーブル。

トイレは各階で共用となり、風呂が1階に男女別で存在するとのこと。

そう、風呂である。


「風呂があるとは…コチラ側では贅沢な部類ではないのか?」っとダリュートが告げるとトールが応える。

「いやいや旦那、ここら辺では普通に備え付けられてやすよ。

 っと言うのも、ここら辺では魔術に対する禁忌感が薄いでやす」

「んっ?

 魔術に対する禁忌感とやらが、なにかかんけいするのかね?」

首を捻り訊ねる彼へとトールが告げる。


「そら大いに有りやすよ。

 なにせ魔導具が普及してやすからねぇ…

 アッシも昔は魔術を道具にってこって眉を潜めたもんでっさ。

 ですがね、便利さを知ると容認せざるをえないってもんでしてねぇ」

「魔導具、かね?」

「そう、魔導具でっさ」

「それは…どのような物なのだね?」

意味が分からないと首を捻る彼へトールが説明を。


「アッシも詳しくは知っては()ぇんですがね。

 魔術を使用した道具で、魔術で火を熾したり水を湧き出させたりするそうなんでっさ。

 いやね、仕組みてぇのを一度説明して貰ったんでやすが…異界の言葉を浴びせられた気分でやしたよ。

 全く理解できやせんでやした。

 なんで、そういう(もん)って思ってやす。

 っでやすから、アッシに詳しく訊ねられても…ねぇ」


「ふむ、故国にはガスや液体燃料を使用した機器なる物が存在したのだ。

 それを使用して風呂を沸かす技術が確立しておった。

 まぁ、貴族や軍で活用されておって一般には普及してはおらなんだがな。


 水は水道を引いて活用しておったなぁ。

 一般の者は水道が引かれた公共の水場へ水を得に行っておったが…貴族や軍施設へは水道から管で水が引かれておったわ。

 故に栓を外すだけで水を近場で得られておったが…何もない所から水がかえ?」


「そうでやす。

 まぁ、それは風呂場でも確認してくだせえ。

 しかし…旦那がアチラ側の話しをするのは珍しいでやすねぇ」

「うむ、先ほどな、これ以上、アチラ側のことを引き摺っておっても詮無いことと気付いてな。

 故に偽名を使うのも止めることにしたのよ」

「そうそう、そのことでっさ。

 どうにも、なんで旦那が偽名なんぞを使ってなすったのか…それが気になりやしてねぇ」

トールが切り込むように。


「ふぅ~むぅ…これは告げても御主が合点できるかだが…

 コチラ側では孤児の扱いは寛容である故にのぅ」

そう彼が告げるとトールがキョトンとした顔に。


「孤児の扱いでやすか?

 アチラがどうか分かりやせんが…孤児なんぞ当たり前に居やすからねぇ。

 誰かが面倒をみつつ育てるのが普通でやしょ?

 そう言うアッシも幼い頃に両親がアッシを逃がしつつ獣のに立ち向かってから1人でやすから…

 先代が船員が拾ってきたアッシを受け入れてくれたから生きてこれたようなもんでやすからねぇ…」


「ふむ、御主も孤児であったか…」

「っと言うと…旦那もでやすか?」

「うむ、だがな、コチラとは違い、アチラでは孤児は下賤者として扱われる。

 俺はな、生まれも知らぬ下賤者でな。

 しかも孤児を引き取り育てると言う考え自体が無いのだ。


 俺が生きておれたのは孤児が集まるスラムの一角で拾われた故。

 弱い者は身を寄せ合い生きるもの。

 そして、スラムに紛れ込んだ獣の乳を飲み、それで生き延びた子のみが育つ…そんな環境であった」

「じ、地獄ですかい…」

「うむ、今考えるに、まっこと地獄よの。

 そして、俺の血には亜人か鬼か…特異な血が流れておったとみえる。

 乳飲み子の俺は5年程で小柄な成人男性並みにのぅ。


 知恵も他の者を凌駕しておったようでな、7つの頃には大人を含む近隣の者共を従えておったわい。

 野党の真似事をしつつ力と知恵を蓄え、討伐に現れた者共を蹴散らしたものよ。

 そんな中、商家の不良息子と懇意となってな、ツルんで悪さをしたものさね。


 そんなことをしていた頃に俺の住まう国が隣国に攻められ併呑される事態にのぅ。

 俺を信じておった不良息子が一緒に逃げる途中に息絶えてしもうてな。

 そんな奴の身分を頂いて隣国へと逃れたのだ。


 そう、その不良息子がリューマムと言う訳だな。

 なにせ孤児は何処まで行っても孤児であり身分は得られぬ…そう言う世界であった。

 故にリューマムの身分は渡りに船と言う物でな、それにて俺は軍へ潜り込むことができたと言う訳だ。


 9つの子とは誰も気付かれず、19のリューマムで通っておったわい。

 そしてな、最初の下積みを経て色々と経験をしつつ階級も上がった。

 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)というやつだな。


 当時の上官も良い方でなぁ、その方が隊長であった頃は過不足なく暮らせておったものよ。

 それが行き成り隊長が左遷され、現れたのが馬鹿貴族息子ときたものよ。

 俺は副隊長にまで伸し上がっておったのだが…何が災いするか、彼奴の尻拭いの日々にとな。


 そして致命的な不正を彼奴が行っており発覚する前に俺へ罪を擦り付けようとしておることがな。

 そうなれば平民である俺は有無を言わされず打ち首よ。

 漏洩前に知った俺は軍を出奔、追われる身にな。


 後に馬鹿貴族息子は打ち胴となったそうだが…国の面子か知れぬが俺への追っ手は絶えぬでな。

 故に逃げに逃げておった訳よ。

 他国では俺が逃げるておる故を知っており表立ってではないが見逃してはくれてのぅ…

 そしてアチラで最後に乗った帆船が嵐で沈み…後は、御主が知る通りと言う訳だな」


「まさに…波乱万丈と言う奴でやすねぇ…」っと唖然としたように。

「ついでに言うとな、俺は、まだ19だ。

 実は御主より年下なのだが…まぁ、そこは許せ」

そうダリュートが告げるとトールは顎が外れんばかりに口を開いて彼を見るのであった。

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