ラウンドリム0018
工房の募集に採用されてホッとしたダリュートなのだが、こんなにすんなりと採用されるとは思ってもいなかった。
っと言うか、まともな面接もなしと言う感じなので色々と情報が足りない、いや、足りな過ぎる。
そこで思わず尋ねてしまった。
「採用して頂け幸いではあるのだが…何も分からぬのでな。
色々と聞いても良かろうか?」っと。
「なんじゃい?」っと、親方が反射的に
そんな親方へダリュートが確認で告げる。
「親方の名はガナンで合っておるのだろうか?」
地図を頼りに辿り着いたが…違う工房と言う訳ではあるまい。
だが、まだ口入屋からの紹介状も渡してはいないのだ。
ノリと勢いで採用された感じであり、正式な手順無視も甚だしい。
「おう、確かにガナンだが…名乗ったか?」っと不思議そうに。
「口入屋の店主が名を告げていたのでな。
そうそう、これが店主が認めた紹介状だ」
そう告げて紹介状をガナン親方へと。
「どらどら」そう言いつつ紹介状を受け取り一読。
「ふむむ、昨日の朝方にトーラットのリオル号にてこの町へか…
ライラム地方の出…ライラム?…ま、まさか…」
マジマジとダリュートを見た親方が困惑顔で彼を見て訊く。
「おめいさん、本当にライラムの出なのか?」っと。
「そうだが…そのことが認めてあると?」
頷く親方に、思わず紹介状を渡して貰い一読。
そこにはダリュートが口入屋へ告げていないダリュートの経歴が書かれていた。
っと言え、昨日トールへ告げた内容は含まれてはいなかったが…
コチラ側へ漂流にて辿り着いた頃からの簡易経緯が認められていたのだった。
(ふむ、この程度の経歴なれば、船に問い合わせれば判明するか…)
そう思った彼は親方へと。
「俺が告げておらぬ内容を口入屋が書いておったが、この内容なれば乗船してきた船の者に尋ねれば分かる経歴だな。
しかし…昨日の夕方近くに口入屋を訪ね、今日の昼過ぎに伺ったと言うのにだ、既に俺の経歴を調べ終わっておるとは…
口入屋とは凄まじいものだな」そう告げつつ紹介状を親方へと返す。
紹介状を受け取った親方が再び紹介状に目を通し…
「凄まじいのは、おまえさんの方じゃわい。
なんじゃい、この経歴は…
こんな歴戦の戦士が鍛治の真似事を…いや、一流の戦士なればかのぅ」っと溜息1つ。
「俺のことは知って貰えたようだが、ついでに書かれておらぬ経歴も話しておこう」
そう告げたダリュートは昨日トールへ告げた己が経歴を親方へと。
「なんとも…凄まじい経歴じゃて…
それなのに19じゃと?有り得ぬわっ!」
「いや、有り得ぬと言われてもな、事実としか言えぬのだが…」
困ったように告げた後、続けて告げる。
「こちらのことは告げた訳だが、次は、こちらが知りたいことを尋ねたい」
「なんじゃい?」
「こちらのケット・シーのライナとクー・シーのトルトも鍛治仕事を?」
愛らしいファンシー系獣人としか見えない2人が鍛治仕事をしているイメージが沸かずに尋ねる。
「ミィとトルトは接客担当にゃ~ん。
むさい鍛冶師にゃ接客にゃ雑にゃんね。
にゃので店の接客担当として雇われているにゃんよ」
(ああ、確かに彼らが接客した方が客入りが…)
カラ~ンっと店の扉が開いたことをカウベルが知らせる。
すると女性客が2人ほど店内へと入って来た。
「いらっしゃいにゃぁ~ん」っとライナが接客へと。
空かさずトルトもフォローへ回っていた。
「なるほど、接客係りねぇ…」
思わず呟くダリュートへ親方が告げる。
「奥へ行くぞぃ、此処は落ち着かんわい」
(いやいや、それで良いのか、店主?)っと思わず内心で突っ込むダリュート。
まぁ、そんなことは、おくびにも出さずに親方へと続き店の奥にある従業員専用扉へと。
扉を潜り、更に廊下を進んだ先の扉を開けると直ぐに扉が。
(はて?)っと疑問に思っていると…
「早く、そちらの扉を閉じてくれぬか」っと親方が促してきた。
促されたダリュートが扉を閉めると親方が閉まっていた方の扉を開け…
鍜治場特有の騒音が鳴り響く!
「なっ!?」
突然の騒音に仰天するダリュートにニンマリする親方。
「ふむふむ、やはり魔導具には慣れておらぬようじゃのぅ。
なれば聞きたかったことはじゃ、鍜治場が此処へ在ることかえ?」
そう告げられ、思わず頷くダリュート。
そんな彼へと親方が説明を。
「魔導具が出来る前は郊外の川辺へ鍛治工房が造られるのが常であったわい。
じゃがの、魔導具が普及してからは様相が変わってな。
まず音を魔導具で遮断できる故、騒音で周囲に迷惑を掛けることも無うなったのぅ。
熱も遮断するでな、熱気が外へ漏れることもないわい。
逆に魔導具で工房内は適温に保たれておるほどじゃて。
そして何よりも水が魔導具にて得られ、炉も魔導具仕様じゃ。
周囲に熱を漏らさず、対象のみを熱する優れものでな。
しかも炉内部にて打ち付け形成も遠隔で行えるのじゃぞ。
儂が若い頃とは全く違う有様になっておるわなぁ~」っと。
ダリュートが知る鍛治工房とは、余りにも違う鍛治の様相に彼は困惑して呟く。
「なんと、まぁ…これが、ラウンドリムの鍛冶屋か…」っと。
「いや、そのな…
そう思っておるところ済まぬが、これだけの設備を整えるには金が掛かるでな。
此処までの工房に仕上がっておるのはウチだけだろうて。
それに全てが炉内形成しておる訳でもない。
アチラでは弟子達が手作業で鍛治をしておるからの。
炉内形成は魔素食いでな、そればかり稼動させておっては金も馬鹿にならぬ。
なので高温にて造らねばならぬ品の場合に使うことが多い炉じゃ。
普通の品はアチラじゃて」
そう告げられて奥の作業場へと。
因みに炉内鍛治を行う魔導具は別に入り口付近に設置する必要は無い。
入り口付近に設置しているのは、来客の度肝を抜くと言う親方の悪戯である。
ダリュートは、まんまと親方の思惑に嵌ったのであるが、それに気付くことはなかった。




