ラウンドリム0017
食事を終えたダリュートは口入屋の店主より手に入れた地図を元に歩み始めた。
鍛治工房と言うことで郊外かと考えていたのだが、意外なことに街中のようだ。
鍛治仕事と言うものは作業時に大きな音が発生するため騒音が住人に迷惑がられるものである。
また火を扱うことから煤汚れが近所迷惑となったりもする。
夏場は工房からの熱が迷惑と嫌う者も多いと聞く。
更には鍛治仕事には水も多く必要となるため川辺へ工房を設けるのが常なのだ。
なのにだ、ダリュートが受け取った地図を頼りに歩みを進める付近には川がない。
しかも町の中心地と言ってよい立地条件である。
(本当に、こんな所へ鍛治工房が存在するのか?)
訝しく思いつつ目的地へと。
地図が間違ってなければ鍛治工房が在るという場所へと辿り着いたのであるが…
(鍛治工房っと言うより…明らかに店だな、此処は…)
間違えたのかと地図を確認するも、明らかに此処が目的地である。
困ったダリュートは、取り敢えずは件の店へと。
扉を明けて店内へと入ると様々な武具が陳列されている。
武具屋であるようだが鍛治場とは思えない。
(此処で鍛治工房を尋ねよと言うことかね?)
そう思い入店したダリュートは店員を探す。
しかし店内にはペットと思われる猫と犬の姿しか見受けられない。
無人の店内を無用心だと思いながら見回していると椅子の上で蹲っていた猫が起きて…二足歩行にて近付いて来た。
(ファッ!?
チンチラ系描人なのか!!)
驚いた顔でファンシーな描人をダリュートが見ていると…
「いらっしゃいにゃのにゃ~
何きゃご入りようにゃのにゃきゃ?」っと。
「あ~っと、買いに来たのではなくてだな。
口入屋から鍛治工房の募集案内斡旋を受けて来た者なのだが…
受け取った地図では此処が鍛治工房となっておるが、何か存じておらぬか?」っと。
「あにゃぁっ?
ああ、親方が募集したにゃと言ってたかにぁ~
店の裏手が鍜治場にゃん、親方を呼んで来るにゃよ」
そう告げる猫人に犬が…ヨークシャー・テリアだと思っていた犬が立ち上がり告げる。
「拙が呼んで来るわんね。
ライナは相手してるわんよ」っと。
どうやら犬人だったようだ。
「描人に犬人とは…」
「ミィはケット・シーにゃんね。
トルトはクー・シーにゃんよ。
親方に雇われてるにゃん、先輩にゃんよ、敬いたにゃえ」っと。
(先輩の威厳っと言うよりもホッコリなのだが…
可愛い過ぎて扱いに困るぞ、これは)っと困惑顔。
そんな彼らが敬う親方とやらが、どのような者なのか…
またファンシー系人物が現れないかと戦々恐々と待っていると、クー・シーのトルトに呼ばれた親方が現れた。
また意外なファンシー系かと身構えていたダリュートの前に現れたのは髭面の筋肉達磨、ドワーフであった。
如何にも無愛想で頑固者と言った感じの職人である。
これぞ鍛冶師ドワーフっと言えば良いであろうか…
ある意味テンプレ的人物が現れて、ホッとしたダリュート。
そんな彼へ親方が告げる。
「口入屋の紹介で来たのは…テメェかい?」っと。
「ああ、ダリュートと言う。
鍛治仕事は素人だが、武器の手入れや補修程度なれば経験がある。
鍛治仕事を手伝わせて頂ければ幸いだが…可能だろうか」っと。
「ほぅ、武器の手入れや補修がかい?
それは、何処で習いなすったね?」そのように尋ねてきた。
それに対しダリュートは隠すことなく告げる。
「昔、兵士として雇われていてね、その時に習ったものだ。
一応は武威を用いて、たつきを得て生きて来た者でね。
コチラへ来て希少金属であるミスリルやアダマンタイトにオリハルコン、カルナ鋼とかダマスカス鋼が存在すると知ったのだ。
それらの武具をいずれは扱いたいと考えてはいるのだが、その成り立ちも知っておきたいと思ってだな」
「ぬっ?テメェ…武家者けぇ?
なれば素直に出来上がった武器を振り回してりぁ良いじゃねぇか」っと。
そんな親方へダリュートが尋ねる。
「そう言う親方は随分と出来るように見えるが…
鍛冶屋なのに武威を誇るのは、おかしくねぇのかい?」っと。
そんなダリュートの言に親方が
「馬鹿こくで無ぇっ!
鍛冶屋が武器の扱いを知らねぇで、まともな武具が造れるかよっ!」っと怒鳴るように。
「なればっ!
武家者も武器の成り立ちを知らぬで戦えるかぁっ!
武具の特性を知り適切に扱えてこそ戦士足りえるもの。
それを知るには造られる工程を最低限でも知ることだ。
故に、それを知るためにも此処で手伝いながら知りたいのだ。
俺は鍛冶師になるつもりなどない。
あくまでも己の戦いに対する糧とするために此処に雇って貰いたいのだ」
そのように告げるダリュートを惚けたように見る親方。
そして…
「ガハハハハハハッ!
こいつぁ、面白ぇヤツが来たもんだっ!
戦うために武器の成り立ちから知っておきたいなんてぇヤツぁ初めてだぜぇ。
気に入ったっ!てめぇを雇おう。
だがな、なる気がなくとも鍛冶師として仕上げるつもりで雇うかんな。
そうでないと大勢しねぇし、こっちの仕事の足しにもなんねぇ。
分かったかぁっ!」
「望むところ。
では、よろしく頼む」
どうやらダリュートは、この鍛冶師に雇われることと決まったようである。