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ラウンドリム0010

床屋の店主に案内されて店内の椅子へと。

背凭れの無い丸椅子へと腰掛けたダリュートにマントのように身を隠す布を身に付けさせた床屋は髪を切ることに。


「それで、どのような髪型をご希望で?」っと。

尋ねられたダリュートは床屋へ「短めでサッパリとした感じにしてくれ」っと。

「短めですか?」っと困ったように返す床屋にダリュートは頷き告げる。


「そうだな。

 町で若い衆がしている短髪で店主が良いと思う髪形で頼む。

 髪型なんぞ気にしたことも無い故に、どのような型が良いか分からぬのだ。

 頻繁に整えるのは面倒ゆえ、ある程度持ち奇抜でなければ良いな」


そのように告げられ困惑顔の床屋。

要するに、お任せっと言うヤツな訳で、床屋店主のセンスが問われる仕事とも言える。

(少々気が重いですね)などと思いつつ髪へ鋏を入れる…入れる…入れる。


(なっ、切れない…)困り顔の床屋。

だが、高価である鏡などは店内にはなく、後ろへ回って髪を整えようとしている店主の様子など伺える筈もない。

普通ならば。


何やら店主の様子が変だと感じたダリュートが店主へと尋ねる。

「どうなすったね?」っと。


「いや、鋼製の鋏なのですが…どうも御客様の髪に刃が立たぬようでして」っと。

「ううむぅ、そうであるか…

 そう言えば、以前に利用した散髪屋でも似たようなことを言われたことがあったな。

 あの時は特殊金属で作られたナイフで仕立てて貰ったものだが…」

「左様ですか…

 つかぬことをお尋ねしますが、御客様は純粋な人族以外の血が混ざっておられますかな?」っと。


「それは、どうなのであろうな?

 俺は乳飲み子の時に捨てられた捨て子よ。

 故に(おの)が出自に疎くてな、その辺りのことは分からぬのよ」

溜息を吐きつつ告げるダリュートに「左様でしたか…」っと床屋が相槌を。


「そうなると…ミスリル…いや、恐らくはアダマンタイトとミスリルの合金製である鋏が良いか」

そんなことを呟く床屋。


「ホアァッ!!」っと、思わず驚きの声を上げるダリュート。

そんな彼に驚き声を床屋も驚きの声を上げる。

「ど、どうなされましたぁっ!」っと。


「どうなされましたでは無いわっ!

 ミスリルとかアダマンタイトなどと言う幻の希少金属が実在しておるのかぁっ!」

慌てたように尋ねるダリュートにキョトンとした感じで床屋が応える。


「いやいや御武家様。

 ミスリルやアダマンタイト、陽緋色金にオリハルコンと、その2金属合金であるダマスカス鋼などは高値ではありますが一般でも無理すれば手が届く品で御座いますよ?

 希少金属と言えばプラティオンやドゥーヤルてぇのですな。

 まぁ、ドゥーヤルてぇのはドゥーヤ遺跡に行けば手に入ると言う話ですが…危険過ぎて立ち入って無事に帰って来た者は稀なのだとか。 プラティオンっと言うのはドゥーヤ文明時代に創製された希少な魔法合金らしいですね。

 まぁ、解読された文献でしか窺い知れない代物らしいですが…」


店主の話しを聞き呆気にとられるダリュート。

此処いら変では巷で一般人でも入手可能と床屋が告げた金属…

ミスリル、アダマンタイト、陽緋色金、オリハルコン、ダマスカス鋼…

コレラはアチラ側では伝説と言われる部類の代物である。


っと言うか御伽噺レベルでの代物で実在するとは思われていない架空金属と言われていた代物。

そのような代物が当たり前に流通しているとは…呆気にとられるダリュート。


「まぁ、錬金術師が精錬せねば手に入らぬ代物ではありますがね。

 此処数百年の間にドゥーヤ文明時代の調査が進んでまして。

 その中には廃れた魔術関連の資料も多く見付かっておるのです。


 まぁ、流石に書物は朽ちており解読は不可能らしいですが、石碑や希少金属の板に刻まれた文字の解読でドゥーヤ文明の知識が明らかにですね。

 その恩恵が魔導具であり希少金属である訳なんです。

 まぁ、スプリンガルフィール大学と言うドゥーヤ文明解明を行う機関が中心となってドゥーヤ文明解明を進めているのだとか。


 そこでは失われた魔術や錬金術の技を学ぶことも可能だと聞き及んでおりますよ」

そんなことを床屋は告げつつ、別の鋏を手に取る。


その鋏であればダリュートの髪に負けず刃先が通ったようで髪が切り落とされて行く。

(カルナ鋼製の鋏が通じて良かったですねぇ。

 流石に高価な陽緋色金やオリハルコン、ましてやダマスカス鋼製の鋏なんかは入手が困難ですし、店が破産ですから…)

そんなことを思いつつダリュートの髪を整え始める床屋。


バサリ、バサリと切り落とした髪と髭。

大まかに短くした後で髪型を整える。

少し癖毛であるダリュートの髪質を生かし、ウルフカット風短髪へと整える。

少々ワイルドなヤンチャ系っと言ったところか…


髭を剃るのもカルナ鋼で造られた髭剃り用の剃刀(かみそり)である。

これらは鬼人族や虎獣人の客用に用意している品である。

それらの人種に属する方々には通常の道具では刃が立たないため取り寄せた一品であった。


(一見人族にしか見えない方に、この鋏や剃刀を使用する日が来るとは…いやはやね驚きです)

そう思いつつもダリュートの髭を剃り整える。


(ほぅ、なんとも良い男振りではないですか…

 この顔を髭で隠してなさるとはね。

 いや、逆に言い寄る者が現れ大変なこととならねば良いのですが…)


髭を取り去りザンバラ髪を整えたダリュート。

それはイケメン、ハンサム、男前…ワイルド系の美男子としか言えぬ様相の青年へと。


入店して来た時には中年以上と思っていたがね整えた後では違うと分かる。

意外と若々しい彼の顔に、頻りに感心する床屋である。


(これられば、服飾のモデルでも通りそうですぞ)などと。

蒸しタオルでダリュートの顔を拭った後でマントのような代物を外す床屋。

「御武家様、終わりましたよ」っと。


「左様か…しかし(おの)が身を知る故がないのが不安ではあるな」っと。

「ああ、少々お待ちを」っと離れた床屋が何かを手に近寄る。

「此方をどうぞ」っと渡されたのは鏡。


「こ、これは…ギヤマンをしようしておるのか?

 金属(きょう)以外の鏡を見るのは初めてであるぞ」っと。

「これもドゥーヤ文明時代には、有り溢れていた代物らいしですね。

 それを再現した代物が流通していると言うことです。

 私が生まれる以前には普通となっていましたが、昔は色々と不便だったそうですよ」

そのように告げる床屋を呆れたように見るダリュート。


この町へ辿り着く前は、その不便な暮らしが普通であったのだ。

(まるで別世界にでも来た気分だわい)

そのように思うダリュートであった。

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