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ラウンドリム0001

港に1艘の帆船が着岸しており、その近くを男2人が歩んでいた。

帆船から下船した者と思われる彼らは港に隣接する商業施設へと繰り出すところのようだ。


彼らの後方では船乗りと港関係者達が荷降ろしなどの雑務を行っている。

そんな彼らを放置して歩み去るということは、それなりに役職が高いか乗船客だったのであろうか?


桟橋を渡り切り港へと辿り着く。

「ふぅ、やはり陸は良い。

 揺れる暮らしには慣れんものだ」

そう1人が溢すように口に出した。


「そう言う旦那も船暮(ふなぐ)らしは(なげ)ぇでやしょうに」っと、相方の男が呆れたように。


「むぅ、確かに3年程にもなろうか…

 それでもな、やはり、陸は良いものだ。

 どうも地に足が着かぬ暮らしはな」

溜め息を吐きつつ苦笑い。


「でっやすが…本当に船を降りなさるので?」

「また、その話か」

「港へ着いて糞忙しい中、アッシが旦那に着いて来てやすのはそれしかねえでやしょうに…

 船長からも何とか留意して頂けねぇかと頼まれてやすからねぇ」


「そう頼まれて1年半は留まったのだ、そろそろ勘弁して貰いたいのだがな」

困ったように頭を掻く男に相方の男が更に続ける。


「それにでさ、ここで降りなすってどうなさるおつもりで?

 当てもないでござんしょ?」っと。


「それは何処でも同じこと。

 故郷を離れ秘境、未踏、幻の地と伝えられていた地へと辿り着いたのだ。

 どのような地か興味があるではないか」

「そら、アッシらも旦那と出会った当初は未開の地と伝わるライラムから来なすったと聞いた時には仰天したもんでさ。

 しかし…漂流なすったとしても、あの難所を、どう抜けなすったものやら…」

「それは知らぬな。

 気が付いた時には、こちら側の海域へと辿り着いておったのだから。

 しかも漂流していたボートを見付けたのが海賊共と来たのだから堪らんかったぞ、あれは」


「そうそう、その話しでっさ。

 その海賊共を制圧し船を乗っ取った挙句に近くの港へと乗り込みなすったてぇんだから」

「おいおい、乗り込んだとは人聞きの悪いことを。

 せめて辿り着いたと言ってくれぬか」っと困ったように。


「それで役人に海賊共を引き渡した際に、恩赦願ったっと聞いてやすが?」

「ああ、結局、彼らが居なければ俺は生きて港には辿り着けなんだのでな。

 こちらの言葉も彼らに教わったようなもの。

 まぁ、脅し付けてではあったがな」


「ですが…港町の領主様に気に入られて、そこで言葉を習われたっと…そう伺ってやしたが?」

「ああ、正式にはな。

 だが、片言でも話せるようになったのは彼らのお陰なのだよ。

 この話しはしたことがなかったか?」


困ったように相方が頬を掻きつつ頷いた。

「左様か、まぁ、あまり話すことでもなかった故にな。

 だが、漂流して陸に辿り着けたか分からぬし、例え辿り着けたとしても言葉が分からぬ我らが受け入れられたか…

 そう言う意味では奴らを成敗した流れで港に辿り着けたのは良きことであった」


「まぁ、そんなことが出来るのは旦那だからでやしょうがねぇ。

 ですが、港の領主が仕官を勧めてなすったとか?」

「いや、それは前にも話したであろ?

 俺には宮仕えは合わぬでな。

 もはや誰かに仕える気にはなれぬのだ」

「やはり、以前に仕えなすったことが?」

「聞くな、言わぬ。

 そのことは忘れたいのでな」


少し気不味い空気が流れるが…

「おおっと、ここでやす」っと相方の男が男へと。


「ふむ、ここが以前に御主に薦められ購入した香料を高く買い取ってくれると言う店か。

 問屋などではなく食事処のようだが?」

「そうでやす。


 ここの店主は、所謂、料理馬鹿といわれるような御仁でやして。

 食材に対して糸目を付けない性質なんですわ。

 そして料理には香料や香辛料なんぞが有難がられるもの。


 ここの店主から、この香料の購入を依頼されておりやしてね」

「ふむ、確か…あの港では1人が持ち出せる香料の量は決められておったか…

 あれでは足りなかったと?」

「そうでもないでやすが…店主からは出来るだけ多く欲しいと頼まれてやしてね」


(まぁ、路銀の足しにはなろう故、良いか)っと思い頷く男。

そんな話をしつつ扉が開け放たれていた店内へと足を踏み入れる2人。


「いやっしゃいませ」っと若い娘の声にて出迎えられる。

「おぅ、カナコ譲ちゃんじゃねぇかい。

 暫く見ねぇ内に別嬪さんになったもんさね」っと相方が。


「あや、トールおじさんじゃないの。

 お久しぶり。

 今日、港に着いたの?」

「ああ、今し方な。

 おとっあんを呼んで貰えねぇかい」

「ああ、香料ね。

 伝えて来わ。

 おとっあんたら、香料が届くのを、首を長くして「まだかまだか」ってさ。

 まるで恋人ょを待ち侘びるようなかんじだったわよ」っと。

「よしとくれ、オラぁ男には興味はねぇかんなぁ」っと二の腕を擦りつつ。

「まぁ」っと呆れたように呟いた後、クツクツと笑いつつ店の奥へと。


「その…なんだ、交渉相手は男色の毛でも?」

そう男が困ったように訊ねると…相方の男が呆気にとられたように。

「まさか、そんな筈がある筈ねぇでやしょ。

 冗談でやすよ、冗談…ねぇでやすよね?」

「いや、俺に訊かれてもだな…」


「ある訳あるかぁぁぁぁっ!」

奥から現れた屈強な大男が顔を赤くして怒鳴りつけるのであった。

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