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戦国武将の問答とガードマン三部作 3朝野長政

作者: 小野口英男

戦国武将の問答とガードマン三部作

3 浅野長政


         一

 場所は見慣れた大阪城の広間。五奉行の一人である浅野長政は、五奉行の一人として活動する筈が逆に詰問される側に。彼は一年半前に、関白豊臣秀次の奥方様のお側付きとして一人の女を紹介する。自身の家臣の娘である。彼女を前に、

「そなたは本日より関白様の奥方様のお側に使える。そなたは女ながら武道に優れていると聞く。これからは奥方様をしっかりお守りするように」

 彼女の役目は今で云うガードマン、要するに女ガードマンである。それから数ヶ月後の1595年6月末に降って沸いたように関白豊臣秀次の謀反の疑い。関白の家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元に使わす。その上で誓約を交わし連判状を作る。これが原因で太閤に対する謀反の疑いをかけられる。関白は無実を訴えながら聞き入れられず、今年七月に高野山で自害する。続いて関白の妻子、お側付きの女人など計三十九人も三条河原で惨殺される。浅野長政の紹介した女ガードマンも殺される。それに止まらず長政も五奉行の役を解かれた上に五奉行から詰問される。

 大阪城に呼ばれ石田三成、増田長盛、長束正家、前田玄以、長政の代わりの宮部継潤の五奉行の前に座る浅野長政。正面に三人、両脇に一人ずつ。正面の中央に石田三成。まず三成が口火を切る。

「浅野殿は最近迄同僚として共にやってこられた方。心苦しいが問わねば成らぬ」

「関白方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。関白の奥方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」三成が再度激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」再度沈黙の長政。

「最後にもう一度だけ聞く。関白の奥方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」三成が再三激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」三成が新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」再び三成が新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政。

「最後にもう一度だけ聞く。女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」三成が再三新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「関白と家臣との繋がりはどうか」三成が三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。関白と家臣との繋がりはどうか」再度三成が三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政

「最後にもう一度だけ聞く。関白と家臣との繋がりはどうか」三成が再三の三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「女人の役目はどの様なものか」三成が四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。女人の役目はどの様なものか」再度三成が四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政

「最後にもう一度だけ聞く。女人の役目はどの様なものか」三成が再三の四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「一旦休憩する」

         二

 石田三成は長政が口を開かず詰問がいっこうに進展しない事に苛立ち詰問を一旦打ち切る。長政を残し石田三成以下五人は別室で相談を始める。

「これでは埒が開かんな」三成も長政の強情さに根を上げる。

 五奉行の内、石田三成を除く四奉行は今回の長政に対する詰問には長政に同情的である。中でも増田長盛は特に長政に同情している。長盛が発言する。

「本来五奉行の一人である浅野殿はこの様な詰問をされ、さぞ屈辱を感じておられ様な。誠お気持ちをお察し申す」

「嫌同情は一切禁物で御座る。罪無き身成れば正直に話せばそれですむ事で御座る。それが出来ぬは後ろめたい事があると疑われても仕方あるまい」三成が座の雰囲気を打ち破る。

「それでは石田殿は浅野殿に罪有りとお思いか。これは驚きで御座る」前田玄以が三成に詰め寄る。

「嫌々私も浅野殿に罪有りとは思ってはおりませぬ。あまり難しく考えなさるな。正直に話せばそれですむ事だと申しておるので御座る」三成も四奉行に攻められ焦って居る。

「これだけは肝に銘じておいて下され。我我がもしこのまま浅野殿から何も聞き出せ無ければ、我らの責任が問われ兼ねませぬ。太閤様は今回の関白様の事では予想以上に苛立っておられる。我々の首が掛かっているとお思い下され」三成の厳しい話に座は一瞬静まり返る。

 五奉行による浅野長政に対する詰問が再開され、増田長盛がまず口火を切る。

「浅野殿は最近迄同僚として共にやってこられた方。心苦しいがそれでも役目柄問わねば成らぬ。先程と同じ事をお聞き申すなにとぞ口を開きお答え下され」

「関白の奥方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」三成が激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。関白の奥方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」三成が再度激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」再度沈黙の長政。

「最後にもう一度だけ聞く。関白の奥方のお側付きの女人は誰に頼まれたのか」三成が再三激しく問い掛ける。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」三成が新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」再び三成が新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政。

「最後にもう一度だけ聞く。女人は浅野殿の家臣の娘と聞く。家臣とは誰の事か」三成が再三新たな問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「関白と家臣との繋がりはどうか」三成が三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。関白と家臣との繋がりはどうか」再度三成が三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政

「最後にもう一度聞く。関白と家臣との繋がりはどうか」三成が再三の三番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

「女人の役目はどの様なものか」三成が四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」沈黙の長政。

「もう一度聞く。女人の役目はどの様なものか」再度三成が四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再び沈黙の長政

「最後にもう一度だけ聞く。女人の役目はどの様なものか」三成が再三の四番目の問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」再三沈黙の長政。

 依然口を開かない長政に流石の三成も半ばさじを投げる。激しい言葉を長政に投げかける。

「口を開かずばそれでも良い。但しどの様な罪が下ろうと全てそなたの責任ぞ。我々には手だてが御座らん。先に進まねば成らん」三成は長政を睨みつけ吐き捨てる。

「次の問に移る。これまでの問と違い言わば本題であり、何が何でも答えて貰わねば成らぬ」座には一瞬緊張が広がる。

          三

「そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は一言一句はっきりと言葉を選ぶ様に問い掛けを行う。

「・・・・・・・・・・」三成の顔をじっと見つめたまま口を開かない長政。

「事は重要で有りそなたが口を開くまで何度でも問い掛ける。そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は一段と声も大きく張り上げる。

「・・・・・・・・・・」目を閉じ三成の話に聞き入るも再度口を開かない長政。

「何度も同じ事を申す。事は重要で有りそなたが口を開くまで何度でも問い掛ける。そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は長政を睨みつけ一段と声も大きく張り上げる。

「・・・・・・・・・・」目を開け三成の話にじっと聞き入るも口を開かない長政。

「やむを得んが何度も同じ事を申す。事は重要で有りそなたが口を開くまで何度でも問い掛ける。そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は長政を睨み、声を張り上げる。

「・・・・・・・・・・」三成の話にじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「同じ事を申す。事は重要で有りそなたが口を開くまで何度でも問い掛ける。そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は長政を睨み付けたまま声を張り上げる。

「・・・・・・・・・・」三成の話にじっと聞き入るも依然として沈黙のままの長政。

「本当にやむを得んが何度も同じ事を申す。事は重要で有りそなたが口を開くまで何度でも問い掛ける。そなたは先に亡くなられた関白様の家臣の白江備後守と昵懇であると聞く。白江備後守とは抑も関白様の元でどのような事をしているのか」三成は長政を睨みつけつつ一段と声も大きく張り上げる

「・・・・・・・・・・」目を閉じ三成の話にじっと聞き入るも沈黙の長政。

         四

 依然口を開こうとしない長政に

「この侭では相当の厳罰になるがそれでも良いのか」三成が半ばあきれた様につきはなす。三成が再び話し出す。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」

「・・・・・・・・・・」三成の話にじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「問は益々重要なものになる。何度何十回でも同じ問を繰り返す」念を押す三成。更に話を続ける。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」

「・・・・・・・・・・」三成の話にじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」やはり同じ問を繰り返す三成。

「・・・・・・・・・・」再び目を閉じ三成の話に聞き入るも口を開かない長政。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」四度目の同じ問を繰り返す三成。

「・・・・・・・・・・」再度目を閉じ三成の話に聞き入るも口を開かない長政。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」依然として同じ問を繰り返す三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「問は益々重要なものになる。何度何十回でも同じ問を繰り返す」再び念を押す三成。更に話を続ける。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」

「・・・・・・・・・・」三成の話にじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」七度目の問を繰り返す三成。

「・・・・・・・・・・」再び目を閉じ三成の話にじっと聞き入るも沈黙の長政。

「関白秀次様は昨年六月末に、家臣の白江備後守を五大老の一人である毛利輝元様に使者として使わせた。その目的を存じていれば包み隠さず話す様」八度目の問を繰り返す三成。

「・・・・・・・・・・」再度目を閉じ三成の話にじっと聞き入るも沈黙の長政。

         五

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を語り掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」再度の三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」再三の三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」再度の三成の話に目を閉じ聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」再三の三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「その際白江備後守と毛利輝元様が交わしたとされる誓約書。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に再びじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

          六

「問はこれが最後と成るものになる。最後だけに尤も重要で或。何度何十回でも同じ問を繰り返す」再び念を押す三成。更に話を続ける。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「先程から申す様に、問はこれが最後のものになる。何度何十回でも同じ問を繰り返す」再び念を押す三成。更に話を続ける。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

「誓約書と交わし同時に連判状を作成したと云われる。その内容を存じていれば包み隠さず話す様」新たな問を話し掛ける三成。

「・・・・・・・・・・」三成の話に目を閉じたままじっと聞き入るも依然として口を開かない長政。

          七

 長政は三成の問掛けに最初から最後まで全てに亘って、目を開けているか、目を閉じてじっと聞きいっての違いはあるものの、決して口を開く事はない。長いそれこそ長い沈黙のままである。同じ問を何度も繰り返す三成に、終始口を開く事なく沈黙を続ける浅野長政に、三成は堪忍袋の緒を切り、詰問を終了して長政を別室に残し裁可を下す事に。

「もはや我々の我慢もこれ迄で御座る。どの様な裁可が下ろうと全て彼の責任。我々には一切責任は御座らん」吐き捨てる様に怒りを込める三成。更に言葉を続ける。

「打ち首。嫌三条の河原で打ち首の上晒すか」あまりに恐ろしい三成の言葉に座は極度に静まり返る。

「その様な恐ろしい裁可は許しません」

 静まり返る広間に響く声の主は太閤秀吉の正室北政所である。

「先程長政から私宛の手紙を受け取りました。手紙には遺書と有り、読んで聞かす程に良く聞くが良い」北政所が読み始める。

「北政所様にはご健勝の事心よりお喜び申し上げます。

 関白秀次様謀反の嫌疑により、不肖浅野長政は今般奉行の役を解かれ、逆に五奉行より詰問される身となりました。私の家臣の娘を関白様の奥方様のお付きとしてご紹介致しました。可哀想に娘は関白様の妻子など三十九人と共に三条の河原で斬首となりました。関白様の妻子は兎も角、子の無い側室やおそば付きの女人まで、何故惨くも三条の河原で斬首されねば成らないのでしょうか。親後の悲しみと苦しみを考えれば、私は娘の親後に地に頭をこすりつけ許される迄詫び続けなければ成りますまい。

 私は罪を犯しました。但し今回の関白秀次様の件ではありません。朝鮮出兵の件です。抑も朝鮮出兵は朝鮮が目的では無く背後の明と戦う事でした。朝鮮は勿論明にも勝利し大明帝国を征服すると云う壮大なものでした。しかしそれには膨大な戦費と兵力が必要となります。事実我が国はこれまでも膨大な戦費と十数万の兵力を投入しました。しかし戦果は双方ともそれ程無いばかりか沢山の戦死者を出すに至りました。現在講和の話が進んでおりますが、双方とも最早戦う気がありません。五年前に朝鮮出兵の話が太閤様から出た際、止める様に進言するべきでありました。その際何故体を張ってでも阻止しなかったのかと悔やまれます。人は歳を取れば判断力も衰えましょう。太閤様と云えども例外ではありますまい。今回関白様の沢山の女人が三条の河原で斬首になった時は奉行をはずされておりますが、朝鮮出兵の際の私は奉行でした。沢山の死者を出した事は慚愧に堪えません。よって私は一切の弁解をせず死をもって責任を全うする所存であります。北政所様には若い頃より言葉に言い尽くせぬ程お世話になりました。この先ご健康であらせられます様に」

 読み終わる北政所。更に話出す。

「五奉行の中には心ある者は居ないのか。ならば長政の爪の垢でも煎じて飲むが良い」広間にビンビンなり響く北政所の声。

 この後浅野長政は五奉行によりお咎め無しとなる。

                                   <了>


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