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13.

「あの、エリオット様。やはり私一人で行きますので……」

「いや、私も行く。いい、機会だしな」

 溝が無くなった……かと思えば、私とエリオットは今度はとあることで揉めている。喧嘩とかそういうのではない。

 エリオットがハリンストン家のミランダの元と、ハイゲンシュタイン家のライボルトの元へ行くと言って、その意思を頑なに曲げようとはしないのだ。それだけならいい。日々、疲れて帰ってきているのにわざわざ手間をかけさせて悪いなぁ……程度にしか思わない。問題はエリオットの姿勢が明らかに私の身内に会いに行く様子ではないことだ。気のせいでなければ、彼はピリピリとした緊張感にも似た何かを発している。改めて言うが、エリオットと私が今から会いに行くのは敵でもなんでもなく、身内だ。そんなに嫌なら私一人で行くのだが、エリオットは一緒に行くと言って聞かない。

 かれこれこんな問答は、貴重なエリオットのまる1日の休暇のうち、2時間も消費してしまうことになった。

 結局、私が折れる形となり、今はブラントン家所有の馬車でハリンストン屋敷まで向かっているのだが、なぜだろう。エリオットの顔は戦に赴く戦士のように強張っていく。

「あの、ここまで来ていただいてこんなこと言うのもなんですが……。エリオット様は馬車の中で待っていてもらっても構いませんよ? これをミランダに返すだけですし……。何ならミランダに頼んでライボルトから借りた分も返してもらうというのも……」

「私も行く」

「……そう、ですか」

 いくら私の勘違いが全て泡のように無くなっていったとはいえ、この様子のエリオットとミランダを会わせるのは少しだけ戸惑う。あの、心配性のミランダのことだ。エリオットに向かって何を言い出すことか……。

 ――そしてその心配はわずか5分も経たずに現実のものとなった。

「お姉様、おかえりなさい!」

 私が帰ってきたと知るや否や、熱烈な歓迎をしてくれたミランダだったが、初めてハリンストン屋敷を訪れたエリオットには人見知りでもしているのか、野良猫のように鋭い視線で威嚇をしていた。

「ミランダ。結婚式の時にも会ったと思うけど、こちら私の旦那様のエリオット様よ」

「知ってますわ。エリオット=ブラントン様でしょう?」

 ミランダは私よりも可愛らしいだけではなく、賢い子なのだ。もちろん身内モードとお外モードは切り替えることはお手の物で、いくら私がブラントンに嫁いだからといって、エリオットにこんな失礼な態度をとるなんてことは普段のミランダならありえないことなのだが……。どうやら今日のミランダは随分虫の居所が悪いらしい。

 エリオットの休暇に合わせて来てしまったのだが、ミランダには悪いことをしてしまったようだ。そして機嫌の悪いミランダはそれからもエリオットを威嚇し続ける。

「姉妹というものはこの世に生を受けたその瞬間から熱い絆で結ばれている者達のことを指すのです。よもや、政略的な結婚をして夫となったあなたが、妹であるこの私よりもお姉様と仲良くなれるなんて思っておりませんよね?」

 なぜか途中から姉妹の素晴らしさについて語りだしたのだが、相変わらずミランダの発する威圧感には驚かされる。

「ミランダ、いきなりどうしたのよ?」

「私、エリオット様にお会いしたら絶対に言おうと思っておりましたの。なのに、牽制するよりも先に私からお姉様を取り上げようとなさるなんて……ひどいお方だとは思いません?」

 思いません? と言われても、エリオットは何もミランダから私を取り上げるつもりなど全くないだろう。

 そりゃあ、まぁ思いを通じ合わせたし、今後は今までより親密な関係になることもあるだろう。けれどそれは妹の関係と比較するようなものではない。だというのにこの子は……。もしかして最近顔を見せなかったから落ち込んでこんな考えに至ったのだろうか。私もなかなかシスコンだけど、ミランダもミランダでお姉ちゃんっ子だからなぁ~。嬉しいけど、嬉しいけどエリオットに八つ当たりはしてほしくはないのだ。

 どう説明すればいいかしら? なんて考えていると、なぜかエリオットは妙に神妙な面持ちでミランダの瞳を覗き返していた。

「……あなたの要望を聞こう」

「私の要望はお姉様と私の交流を邪魔しないこと、ただ一つですわ。もちろん、お姉様から本を取り上げるのも許しませんわよ。感想の交わし合いというのも、引き離された姉妹の貴重な交流ですから」

「……わかった」

「ああ、後もう一つだけありました。……お姉様を大切にしてください」

「もちろんだ」

 だがどうやら私がどうこうすることもなく、サクッと話はついたらしい。2人は何かの交渉を成立させると、その証として熱い握手を交わしていた。


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