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11.

 馬車降り、落ち着きのない気持ちをギリギリまで抑えつけた私は再びあの場所、Fの本棚へと向かった。以前とは違い、ポツポツと穴が空いている。さすがはロマンス小説。たった数日にしてここまで売れてしまうとは……。それだけ王都には同士が多いということだろう。隠しているだけで、貴族のご令嬢の中にも結構な数がいるだろうということは想像に容易い。だが変に詮索をするつもりはない。物語の前では皆、一様に読者なのだから。

 その同士が作り出した穴の左右を中心に、いくつか興味のあるタイトルを取り出してはパラパラと数ページめくってみる。そしてこれは! という作品を4冊ほど見つけ出した。そのうち1冊は作者が被っていたため、タイトルを頭に刻み込んで本棚へとお帰りいただいた。もちろん、1冊が気に入ればまたお迎えにあがるつもりである。

 他の3冊はお母様の希望通り、シェリー=ブロットのものを。今回は余裕があることからシリーズものを選び抜いて、手元に番号以外タイトルが同じものを積み上げる。こうして合計6冊もの本が私の腕へとのし掛かる。それと同時に本へ対する思いもまた積もり積もって行く。

 特にシェリー=ブロットの作品以外の3冊は初めの数ページを読んでしまったものだから、早く読み出したいと気持ちばかりが急いているのだ。会計を終え、気持ちだけなら今すぐにでも空の彼方へと飛んでいきそうになりながら馬車へと足を運んだ。

 帰りの馬車の中、6冊の本が入った袋を抱えながら首をひねる。城下町から遠ざかる度に、何か物足りないような気持ちが胸の中で膨らんでいくのだ。今回の目的である、小説はお母様の希望通りに買えた。先ほど見送った1冊は熟考の末に棚へと戻したし、その作者が気に入った時に再び手に入れられるよう、タイトルだって覚えている。

 だというのに、私の心は城下町から離れがたく思っているのだ。理由は私自身もよくわからない。わからないからこそ想いは膨らんでいく。

 やがてその想いは本をいち早く読みたいという気持ちさえも押さえつけていった。

「なんだろう、わかんないとイライラする……」

 そして私は深く息を吸い込んでリラックスをしてから、今日の出来事を1つ1つ思い出すことにした。

 まず初めにお母様から呼び出されて、その後にお父様とミランダに城下町に行くことを伝えた。

 うん、特に引っかかることはない。

 そして馬車に乗って城下町へと向かい、前回と同じように本屋さんへと入った。

 ここも以前と同じ。

 本屋さんで満足のいく本を購入した私は馬車へと戻り、今に至る――とここまで辿って、ああと1つのことに気づいた。

 今日はエリオット=ブラントンに出会わなかったのだ。

 毎回毎回会っていたものだから会わないと違和感を覚えてしまっていたのだ。

 そうか、エリオットかと彼のことを思い出すと空いていた穴は徐々に小さくなっていった。だが屋敷に着いてからも、楽しみだった本を読み始めてからもその穴が完全に埋まることはなかった。


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