婚約破棄~それ以上は、止めて~
「レティシア・マリディア。君との婚約を破棄する。」
愛する愛する婚約者、サイオルトから告げられた婚約破棄という言葉。
今は王家主催の夜会の途中。
きらびやかな会場に似合わぬ不穏な空気が流れた。
それもそうだ。
何しろ、私と彼の婚約破棄だから。
「ルイ、どうして!?」
ルイ…とは彼の愛称。
私に悲しそうな目を向ける彼。
一体、どういうことなの?
ふいにルイの背後に黄色のフリルが見えた。
もしかして、あれは……。
「ティア、君はなんてことを…」
「ルイ!違うわ!何かの間違いよね」
ルイが浮気するなんて……。
私、レティシア・マリディアはこの国、ルティシア王国の現国王の妹姫を母にもち四大公爵家の一つであるマリディア公爵家の当主を父にもつ、ルティシア王国の王家の血を引く公爵令嬢。
彼、サイオルト・ロージェルは隣国リトリア王国の元王女を母にもち、ルティシア王国の四大公爵家の一つであるロージェル公爵家の当主を父にもつ、リトリア王国の王家の血を引く公爵子息。
私たち二人の婚約は間接的に王家同士の婚約ともなるので国の同盟の強化の象徴でもあるし、何より私たちは愛し合っていた……はずだった。
ルイの様子が変になったのは…そう、彼女が学園に転入してきてからだ。
「ティーアー様ぁ!」
私をその愛称で呼ぶのは彼だけ。
私の愛しい愛しいルイだけ。
それなのに…。
「ビルべ子爵令嬢。お願いですから、その呼び方はやめてくださいませ。ね?」
私が困り顔をつくってそうやって正しいことを言うと彼女はすぐに。
「グスッ。いいじゃないですか別に。」
いや、何がいいのよ。
怖いなぁ。
「あの、ビルべ子爵令嬢?泣かないで?」
「まぁ、良いわ。あんた、ホントちょろいわよね。」
本人にそういうか?普通。
そして、その次の日も。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
猛獣みたいな雄叫び。
いや、私には聞こえなかったけど…。
と、思ったところ。
「ぎゃぁあ!」
耳元で叫ばれた。
あまりの声の大きさについに私は涙目になる。
「な、なんですの!?耳元でおしゃべりになられるなんて……。」
「グスン。レティー様、ひどいわ。」
えぇ!?!?
何が、一体何が!?!?
と、言うようなことがしばしば。
そして、つい最近には。
「レティシア様、良いのですか?」
「ルイ…。」
目の前には笑顔で腕を組む、ビルべ子爵令嬢とルイ。
「だ、大丈夫ですわ!きっと、何か理由があるのですわ!!」
「レティシア様…。」
そのあと、ギュウーっと、令嬢たちから抱き締められた。
そんなこんなあって、本日。
「ルイ、どうして?愛し合っていたじゃない、それなのに浮気なんか…。」
「君は、どうして…。」
ん?
「君は、僕のことを愛していたんじゃないのかい!?」
ほへ?
いや、さっきから愛していると…。
「愛してますよ?」
「嘘だ!!だって君は、困っていたじゃないか!!」
え?なんのこと?
どうしたの?ルイ。
「君は、ビルべ子爵令嬢にいじめられて困った顔をしていたじゃないか!」
うん、したよ。
っていうか、後ろのビルべ子爵令嬢もびっくりしてますよ?
「ティア、自分では気づいてないかも知れないが、君は、困らされるのが好きじゃないか。」
え!
「ちょ、ルイ。待って…」
「君はいつも、そうだ。僕が難しいお願いをすると、いつも困ったように笑ってそれから可愛く甘えてくれるんだ。」
「ちょっ!!ルイ!おねが…」
「それから、優しくキスして、困らせられるのは嫌じゃないって、顔で溶けた顔つくって…」
「ルイぃ…」
突然のルイの私の特殊性癖告発に、私は涙目。
ほら、見てよ、周りの男性たちは欲を孕んだ目で私を見て、女性たちは、可愛い愛玩動物をみるような目で私を見てる。
もう、やだ。
いっそ、殺してくれ。
「君は、君は……!!」
「ルイ!!違うわ!わたくしがそうするのはルイだけ。愛しているのもルイだけよ?」
本当に死ぬほど恥ずかしい。
反論しながらも恥ずかしくって、真っ赤になっているであろう顔を、両手で隠し、ルイを見る。
「ほんとうに?」
捨てられた子猫のように可愛く聞き返してくる。
「本当よ!!というか、わたくしのそういうのだって、元はと言えばルイのせいじゃない!」
「え!?あ、ちょっ……」
「ルイがわたくしをいじめるのが好きだから!わたくし、こんな風になってしまったのよ!?」
「ティ、ティア?落ち着こ……」
「わざと、難しいお願いをして、わたくしが困ったり、泣いたりするのをそれはもう甘い眼差しでみてたじゃない!」
「…う……ティアぁ!ストップ!!」
「どうしてよ!ルイだって、わたくしのことばらしたじゃない!」
「そうだけど、それとはまた話が…」
このとき、会場にいた、全員が結局のろけなんだね…。と思っていたとは露知らず、私たちはひたすら言い合った。
最初は婚約破棄の話をしていたのに、最終的にはお互いの可愛いところやカッコいいところを言い合っていた。
私たちの婚約破棄はどちらの浮気でもなんでもなく、のろけ話でした。
う、う~ん。
なんか、勢いで書いたら最後がこんなんに…。
お楽しみいただけたら、幸いです。
(^-^)




