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この転生に異議あり!中二病に第三の眼はご褒美ですが……。

作者: 灯星

 中二病。それは、小学校高学年から、中学、高校の青春期に一部の男女が患う病である。いや、若干、大学や大人でもかかる奥深い病気だが……。

 この病気の特徴はさまざまである。急に親に冷たくなり、孤独に浸ってたり、自分は稀有なそんざいであると主張して、周りをドン引きさせたり、意味もなくマントを付けてみたり、ナイフを携帯してみたりと……。

 第二反抗期程度のモノから、意味もなく掌と額に包帯を巻き、目に眼帯を付けるなど2.5次元にいる末期症状の患者もいる。


 そしてその病状の効果的な処方箋は時間薬である。彼らの大半は『夢見る少女(少年)じゃいられない』とばかりに、現実社会に戻ってくる。

 そして彼らは完治と共に、黒歴史と言う古傷を持つ身になるのだ。


 前置きが長くなったが、なんてことない。その元患者こそ、このオレ、山咲竜斗なのだ。

 ちなみに2.5次元にいたと言う実例は体験談だ。


 今はモノトーンで統一されたまあまあセンスのいい部屋。これはオレの自室である。

 だが、1年前の部屋はオカルトじみていた。

 壁中に貼ったファンタジーな絵。おっぱいがポロリと見えそうな巨乳美女の背中から広がる真っ白な翼。もちろん、片翼である。そして、その周りには獅子だのユニコーンだのがいる。さらに、棚には丸い水晶に、麒麟の柄のナイフにドラゴンの盾。


 病気が完治後、全てクローゼットの奥へと仕舞われた。捨ててしまいたいが、廃棄分別が良く分からないし、周りの人に見られるのが恥ずかしくて臭い物に蓋をして、放置している。


 ……モッタイナイワケデハナイヨ。うん。絶対それは無い。無いったらない。


 だが、封印できないものがある。

 その最たるモノは、自分の顔についた傷だろう。額に一筋の傷。

 あれは3年前。もっとも深い闇に視界を覆われていた暗黒時代である。

 きっかけはただのドジである。ドラゴン模様のペーパーナイフを手に入れた事で気分が高揚したオレは、見えぬ敵と戦う為にナイフを構える。そして、必殺技を大きな声で叫びながら振り回した。

 その結果。

 見えぬ敵でなく自分の額を斬っていたのである。 

 それで目が覚めればいいものを、オレは『うっ!これでオレの隠された第三の目が蘇ってしまう……』などと言いながら、その傷をわざと深くしてしまった。

 最初だけであればおそらく傷跡もなく完治しただろうに、抉ってしまったせいで3年経った今でもうっすらと傷跡が残ってしまっていた。

 中二病疾患中は誇りに思っていたが、完治後はただの恥でしかない。

 必死に前髪を伸ばして隠している。間違っても、包帯で巻いたりガーゼや絆創膏を当てたりなどしない。


 こんなオレだったからだろうか……。

 テンプレのごとくトラックにはねられて死亡したオレは、中二病患者には何よりもご褒美である異世界転生することになった。

 美少女神に出会ったりはしないけど、俺TUEEEEのチート能力を貰った。

 うん、確かに貰った。

 だが、こんな来世を俺は望んでいない。全く望んでいない……。

 なぜなら……。


「ルード~。もうすぐ日が暮れるよ~。仕事終わったらババ様の所に来いって伝言だよ」


 そう声を掛けてきたのは一人の少女。オレが転生して初めて目にした人物だ。まだ2歳ぐらいの子供だったが13年経った今、すっかり成長して素朴な感じの少女に変貌している。


 とは言っても、胸は全く成長していない感じだが……。こいつの母ちゃんもまな板だから、期待薄だな。


 そんな不埒な事を考えていたが、オレの意志とは関係なく彼女に対して返事が出る。


「ありがとう、レア。でももう少しかかるかな。この薪を割ってしまいたいからね」

「じゃあ、あたしも手伝うよ。出来た薪を運ぶね」

「それは助かるよ」


 カンカンっとリズムよく木が割れる音が鳴り響く。聞き慣れた……聞き飽きた音だ。


 優しいなぁ、レアちゃん。やっぱ嫁になるのは妥当な線でこの子かな?  


 小さな貧しい村だ。同じぐらいの年齢なのは言ってみれば一クラスぐらいしかいない。大抵はその中で相手を見付ける事となる。


 お向かいのニーナちゃんの方がボンキュッボンの隠れ巨乳だから眼福でおススメなんだけどなぁ……。まあ性格は悪いけど。


 そんな事を考えているうちに薪にするべき木は無くなっていった。


「お礼に後の残りの薪はレアの家に持って帰っていいよ」

「えっ、いいの?」

「もちろん。元々おすそ分けしようと思っていたから、来てくれて助かったよ」

「あっ、じゃあさ。後片付け、あたししとくよ。ババ様の所、もう行ってきたら?遅くなったらババ様もう寝ちゃってしまうよ」


 確かに。あの婆ちゃんは日の出と共に起きて、日の入りと共に寝る。それを妨害した時、誰であろうとお仕置きを食らうと言うのが村の常識になっているのだ。

 この前は電撃がオレにまで到達したものだ。チートな存在のオレにダメージを与えるなんて、とんでもなく食えない妖怪である。


「そうだね。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな。ボクは今からババ様の所へ行くよ」


 レアちゃん見ておきたいけど、仕方ない。実在する妖怪見物でも行くか。


 オレは大きく溜息を付きながら、村はずれにある小屋へと続く景色を眺めていた。


・・・・・・・・・・・・・


「ほっほっほ。よう来たな、ルード。近こうよれ」


 小屋に入るとしゃがれた声が聞こえてくる。そちらに視線を向けると小柄な老婆が皺だらけの手を動かして手招きしている。


 うわっ、出た。いつ見てもヨー〇そのものだぜ。この不気味なお婆ちゃん。


 その姿を見て連想されるのはかなり昔の大作映画に出てくる、光の剣を使って飛び回る伝説の緑の小柄な老人騎士だ。

 近くなったオレに老婆はゆっくりとした動きで視線をしっかりと向けてくる。そしてそのしゃがれた声でいきなり爆弾発言を落としてきた。


「ルード。おぬしには未知のパワーが宿っておる」


 その視線はオレに向いたままである。それはまるで心を読もうと探っているような感じだ。


「えっ、ほ、ほんと!?ボク、ただの木こりだけど」

「ふむ。その額の傷から、この婆の肝魂を震えさせるほどの底知れぬ何かを感じるぞ」

「こっ、これは生まれた時からある傷なだけだよ。たまに掻き毟りたくなるだけで、な、なにもないって!」


 こらっ、ヤメロ。くすぐるな。


 与えられる刺激に思わず狼狽えてしまう。


「ルード、お主、こんな辺鄙な村を出て、すぐに王都へ行くのじゃ」

「や、やだよ。そんな人の多いところ、ボクはこの村で嫁さんでも貰ってのんびり暮らすのが性に合っているって」


「お主はそう定められし者じゃ。お前の意志で覆す事はできん」

「だぁ~から、婆さま。ボクは気弱なただの木こりだってば」

「喝!」


 いってぇ!このしわくちゃババア、オレの脳天をかち割る気か!その棒、何を仕込んでいるんだ!おいっ、ぐりぐりするな!


「ちょっ、婆さま、痛いよっ!」


 オレはお前の何十倍も痛いって!


 ふう、ようやくこの拷問終わったか。だが、野郎のごつい手でオレに触れるな。触れていいのはチートなオレに相応しいハーレム要員だけだぜ!


「お前のここに眠るのは未知なる目だ」


 あ~ついに宣言されちまった。認めたくなかったけど、やっぱオレは人外転生をしたようだ。

 いや、魔王、ゴブリン、スライムなどではない。


 そう、オレが転生したのは何の因果か、一人の平凡な男の額に宿る『第三の目』だったのだ。


『第三の目』


 中二病心を確実にくすぐる単語である。

 その目から放つサンダー光線、火炎弾でも氷の矢でも可だし、いやらし……癒し系をパワーでもいいし、異性を一瞬で魅了するのも捨てがたい。

 その力を宿る美少年が勇者となりハーレムをメンバーに取り入れながら、ウハウハ旅を続けていくのが転生の王道だろう。

 だが、その計画は大きな初歩的なミスがある。


 だれが、目だけになりたいと言ったのだ!そのチョイスおかしいだろ!こんなニアミスをした神、出てこいやっ!どじっこ美少女女神であっても許さないぞ!


 トラックにひかれてからオレが目を醒ますと、そこは暗い膜の中だった。良く分からないなと手探りで色々と試行錯誤すると、いきなり飛び込んできたのは全く知らない異世界の視界。

 異世界トリップでもしたかと思ったが、どうも違う。視界は勝手に動き、勝手も話をするのだ。

 まるで、3Dゲームで他の者がしているのを見ているような感覚だ。

 しばらくして状況を把握することができた。どうやらオレは子供(残念なことに野郎)の額にいるようだ。まるで寄生虫の気分である。最初はなんとかオレと言う存在を前に出そうと頑張った。だが、黒い膜は思いの他頑丈で開くことはない。見える視界も直接ではなく液晶を通して見ているような感覚である。

 なにもできないまま月日が流れ、オレは子供…今は17歳の青年であるルードの行動にツッコミを入れる事が毎日の日課だった。

 でもって今、オレはしわくちゃ婆さんの言葉で自分が眼である事を知ったわけである。どうりで手も足もないわけだ。だが、開くことができない目って存在価値皆無だよな?


「よいか。よく聞くのじゃ、ルード。お前の生きようによってこの世の行く末が変わると言ってもいいほど、その力は計り知れないものだ」

「……」

「認めとうない気持ちはよう分かる。じゃがな、そのまま見て見ぬふりはできぬのじゃ、もうすでに王都に報せを送った。お前は勇者となる為に、王都まで旅しながら特訓じゃ」


 おっ!もしかしてオレを覚醒させる為か、いいね、いいね。ルードを乗っ取る為に費やした時間は戻ってこないが、覚醒してモノを言えるようになれば下僕扱いすりゃ済むしな。自分の意志ではなく強制的にヤツのストーカーになっていたオレである。ヤツの黒歴史は山ほど知っている。


 実はオレはただただ黙ってヤツの額に引きこもっていたわけではない。ルードが寝ている間に体を乗っ取り動かす為にオレは血を滲むほど努力をした。何度、気合を入れて呪文を唱えたか。ハンドパワーみたいなものを発しようとしたことか……。結果にはまったく結びつかなかったのは悲しかったけど。努力は無駄ではない!……はずだ。


「特訓って……。ボク、一人で無理だよ!村出れば、魔物だって一杯なんだよ!」

「だれが一人だと言ったのじゃ」


 おっ!もしかして、素朴な感じの幼馴染みのレアちゃんか?いいね、いいね。


 かなり期待を持ったオレ。だが、次の一言でオレの期待は儚く散る。


「このおいぼれが付き合ってやるから、安心せい」

「ええ~!」


 ええ~!


 オレの誰も聞こえない声とルードの声が被る。声質も驚き一杯で同じだ。だが、続く気持ちは正反対であった。


「それは頼もしいよ、婆さま。勇者なんかなれるとは思わないけど、強くはなりたかったから、僕がんばるよ!」


 いやいや、旅の仲間になるのって、ツンデレ王女に堅物女性騎士にベビーフェイスの巨乳魔法使いに純粋無垢な聖女のハーレム要員だろ!でもって、最初は幼なじみの女の子のはずだ。100歩譲って同世代の幼なじみの野郎がテンプレだろ、おいおい。それなのに、ヨ〇ダみたいなしわくちゃババアがツレだと!? 

 認められる訳がねぇ! 


 オレの猛烈な反対意見。

 だが、それに耳を傾けるどころか、それを聞き取れるような者はいない。よって、満場一致で旅の仲間の一人目はグレム〇ン、もとい村の最長老である老婆に決定した。 


 こうして勇者ルードと言うストーリーのプロローグである最初の村とお別れすることとなった。

 オレの出番が来ることを願いつつ、オレは観客として主人公の額からそのストーリーを観続ける。


 まあ、このババアは言ってみれば初心者ルードに用意されたチュートリアルみたいなもんだな。だから、慣れたら猫の獣人の美少女が仲間になるはずだ!

 そうでないと、この映画は史上最低な駄作だとネットに書き込むぞ!!……って無理だけどな。


 気分的にポップコーンを貪りながら悪態をついているオレ。

 この時のオレは知らない。

 今後仲間になる三人の足の間にはルード同様のモノがしっかりと付いている事を……。それどころか、視界的にまったく優しくない容貌の者しか仲間にならない事を……。

 婆様はチュートリアルでなく、ポジションだけは紅一点なのでメインヒロインである事を……。

 中二病はあくまでもファンタジーで、世界はファンタジーであるくせにチーレムなど存在皆無でヘンに現実味ある事を……。


 第三の目(オレ)が目を覚ます時、世界が変わるのかは、まだ誰も知らない_______。



※注意:オレである竜斗がルードの額で覚醒したとき、ルードは5歳でした。そして現在はルード17歳、レナは15歳です。ババ様の年齢は……永遠の謎です。

ちなみに蛇足な設定


メンバー紹介

【1】マッチョおじさん(うさ耳付き)…ばあさん専用の足。獣人。子泣きじじいもとい、子じわばばあを背負っている姿がディフォルト

【2】巨漢騎士…騎士の癖にデブ。暑苦しさ満載。二刀流の剣を振るたびにお腹も二の腕もぷにぷにの肉が揺れる。

【3】包帯男…全身包帯だらけで素顔はだれも知らない。ゾンビやアンデッドの容姿なのに僧侶。


プラス

ヨー○ばばあ


どこにもロマンスが生まれる箇所が無い(笑)

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[一言] ハンドパワーみたいなもの・・・ ハンド?・・・どこ?
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