表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダイハン・スレイヤー  作者: 神田川一
1/3

プロローグ

ベトナム戦。

今も昔も、人類は不毛な争いをしています。進歩なし(^^;

 強姦してから殺す。それがヤツらの、いつもの手口だ。

『共産主義者は人間ではない』とヤツらは教わっているそうだが、その非人道的なやり口を見る限り、どちらが人間なのか分からない。

 虐殺、強姦、放火、略奪。

 血生臭く、正視に耐えない。

 この村は、米軍と友好関係にあったはずなのだが……。

 ヤツらは歯牙にもかけないらしい。

 陳腐なたとえなのかもしれないが、ファンタジーで出てくるオークやゴブリンが村を蹂躙すると、こんな感じになるのだろうか?

 いくらなんでも「戦争だから」で許される有り様ではない。

 化学兵器使用の噂まで聞く。

 オレがクライアントから受けた依頼は、ヤツらの戦争犯罪の証拠を集めてくるというものだったから、仕事自体は簡単である。

 しかしこの、皆殺しにされた村を見ていると――。

 仕事以上のことをしたくなってくる。悪い癖だ。

 オレは決して善人ではない。ただの傭兵だ。金さえ貰えば、大概のことはやる。

「とはいえ。こっちから金払ってでも殺りたくなる相手ってのは、いるもんだよな」

 見上げると、夜の帳が下りようとしていた。

 オレはため息をつき、生き残りを探して歩き始めた。


   *******


 1968年2月、南ベトナムクアンナム省――。

 ジャングル戦はオレの最も得意とするところであり、武器弾薬も充分にある。

 相手が十人――いや、十匹までなら、一人でも何とかなるだろう。

『金にもならないのに、バカじゃないの?』

 と、今は別の地域に調査へ行っている相棒からは言われそうだが。まあ、たまには馬鹿をやってもよかろう。

 だいたい、賢ければ今どき、傭兵なぞやってはいまい。

 先日の皆殺しにされていた村だが、アメリカ軍と南ベトナム軍の調査によれば、やはりダイハンの仕業らしい。

 しかもヤツらはそれを、自分らの軍服を着たベトコン(南ベトナム解放民族戦線)による陰謀だと、主張しているらしい。

「どこまで腐ってやがる、畜生が」

 と吐き捨てたくもなる。

 少なくとも、人の所業ではない。鬼畜にも劣る。

 おっと、あまり感情的になってはいけない。判断を誤る。

 オレは深呼吸をした。

 さて――。

 情報収集した結果、ヤツらの進軍ルートは検討がついている。

 オレは振り向き、背後の方角に位置する村に目をやった。

 もうじき日が暮れる。

 パン!

 オレが仕掛けておいた打ち上げ花火が、打ち上がった。

 何ごとかと、ヤツらは確認に向かうはず。

 ちゃちなトリックだが、オークやゴブリンには有効なはず。

 あと数分で、交戦状態に入るだろう。

「オレは空気だ……」

 自己暗示をかけ、気配を消すのに努める。

 ――己を殺して自然と同化する。

 それがジャングル戦の基本にして、奥義である。

 五分後。

 ヤツらが、花火が上がった地点に近づきつつあった。

 五匹だ。偵察部隊だろう。

 その動きは索敵というより、まるで獲物を探すけだもの。凶器を所持した怪物モンスターだ。

 あと数十メートルで、射程に入る。

 奇襲の成否は、最初の一撃にかかっている。

 重要な局面だ。集中する。

 息を止めた。

 発砲。

 AK47(ソ連製のアサルト・ライフル)が火を噴き、7.62×39ミリ弾が襲いかかる。

「アイゴーッ!」

 絶叫して、二匹が血塗れになって転がる。上々の出だしだ。

 残りが何かを喚いて散開したが、何を言っているのか分からない。耳障りな雑音だ。

「人間の言葉喋れよ」

 内心で毒づく。

 ガガガガッ!

 慌てふためく残りの三匹を、間断のない銃撃で追い詰めてゆく。

 一人で戦うことの利点は、同士討ちの恐れがないことだ。四方八方、お構いなしに撃てる。

 おまけに地の利は、こちらにある。

 三匹がキル・ゾーン(殺傷有効範囲)に入った。

 今だ!

 ピンッ! 仕掛けておいたクレイモア(M18対人指向性地雷)を、ワイヤーで作動させる。

 直後、無数のベアリング(鋼鉄製散弾)が扇状に吐き出される。

 威力は絶大。ヤツらはことごとく、肉塊と化した。

「汚ぇ死体だな」

 舌打ちする。鬼畜に同情なんてしない。

「この調子で、残りも片づけちまおう」

 ヤツらはチキンだ。敵前逃亡癖がある。

 あと五匹も派手に殺れば、撤退を始めるだろう。

 ヤツらがかつての日本兵のように勇猛果敢だったなら、撤退に追い込むのは難しかっただろうが。

 チキンは嫌いだが、こういう時は楽ができていい。

「せいぜい派手に殺って、ビビらせてやるとしよう」

 オレは舌なめずりをしてから、再び気配を消した。


   *******


 翌日の夜。

 オレはタムキー市内にあるホテルの一室で、相棒に電話していた。

「ああ、明後日にはそっちへ合流する」

『ちょっと遅れてるじゃない。なにやってたのよ?』

「いや、ちょっとヤボ用」

『ヤボ用って?』

「写真撮ってただけだよ」

『どんな写真よ。特ダネ?』

「アメリカ側の青龍部隊ってのに損害が出てな。いいのが撮れたよ」

 別に嘘はついていない。情報操作はしているが。

 昨日の戦闘の後、オレは写真撮影をしていた。

『で、儲けになるわけ?』

「大した儲けにはならんだろうけど。表の顔であるフリー・ジャーナリストらしいことも、一応やっとかないとさ」

『襲ったのは、ベトコンなの?』

「多分そうだろ。青龍部隊は米軍も持て余すような、極悪部隊だったらしいからな。恨みを買ったんだろ」

 実際、強姦部隊と言われて悪名を轟かせていた。

『他に、ニュースはない?』

「兵士の間で、M16(アメリカ製のアサルト・ライフル)の動作不良が話題になってる。製造元のコルト社は、立場を悪くしそうだな」

 話していたら喉が渇いた。

 近くあったコニャックソーダを、一口あおる。

『アメリカの撤退も、近いのかしら』

「ああ。もともとアメリカがベトナムの農民を殺すのに、何の大義もないからな」

 ましてや、アメリカから小遣い(援助金)をもらって参戦した従属国には、大義なんて欠片もない。

 それから五分ほど話をしてから、電話を切った。

 疲れた。電気を消してベッドに横になり、何となく天井を眺める。

 そのまますぐに、泥のような眠りに落ちていった。

「ライダイハンのための正義」を応援します(^^/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ