嫁さんと食事
「うへっへーい、もっともってこ~い」
顔を赤くさせ、楽しそうに踊っている嫁さん。
「遥花、飲み過ぎだって」
俺はそう言って、遥花の杯を奪おうとするが。
「こうちゃん、私のお酒が飲めないの」
ブスーと頬を膨らませ、上目遣いで俺を睨んでくる。
素晴らしい。じゃなくて、これ以上飲ませる訳には、って、もう遅いか。
嫁さんはいつの間にはおかわりをしていて、更にそれを飲んでいた。
やってしまった。
まさか俺の嫁さんが酔うとこんな素晴らしく、危険な生き物になってしまうとは。
まったく、どうしてこうなった。
―――
「とりあえず生を二つ。あと、シーザーサラダにから揚げ、今日のお勧めの三点盛りにホッケの炭火焼きと、遥花は何かあるか」
「うーん、あっ。じゃあ、アサリと海老のアヒージョをください」
元気で爽やかな声で、確認の為の注文を繰り返してから、店員さんは厨房へと向かって走り去った。
随分と活気のある店だな。
「ここ、あっちの世界のお店と似てる」
俺の対面に座っている遥花が、期待と喜びにソワソワしながらそう言った。
その姿がまるで遊んでくれるのを待っている子犬の様だ。
かわええのぉ。
にしても、むこうの話か。少し興味があるな。
むこうで遥花は、どんな生活を送って、何を思い、過ごしていたのだろうか。
俺はその事を聞こうと思い、しかし口にするのを止めた。
なにも、焦る必要はない。注文が来てからでも遅くはないのだから。
飯を食べ、酒を飲みながら、ゆっくり聞けば良いさ。
だから、今は嫁さんの楽しそうにしている姿をしっかりと目に焼き付けておくことにした。
―――
俺と遥花は現在、近所にある大衆居酒屋に来ている。
『今日はもう無理! 暑い! だるい! こうちゃんご飯食べに行こう』
そんな風に駄々をこねた嫁さんが、あんまりにも可愛いものだから、つい了承してしまった。
しかしこのところ、結婚指輪やその他の出費で正直、貯蓄が危ういという事もあったのも事実だ。
そこで今日は比較的リーズナブルである、この居酒屋にやって来たのだ。
てか安すぎだろ。生一杯、300円って。
この店、料理の味しだいではまた来ようかな。
遥花もどうやらこの店の雰囲気が気に入ったみたいだし。
そんな嫁さんは現在、左手の薬指にはめている指輪をニマニマと眺めては、照れる様に、だが嬉しそうに笑っていた。守りたい、この笑顔。
先日、俺達二人は晴れて籍を入れた。
式はまだだが、これでお互い、正式に夫婦となったのだ。
「生二つお待ち!! あとこれは、新婚ラブラブなお二人さんにサービスです」
元気のいい声で、店員さんが生ビール二つとお通しの小鉢をを持ってきてくれた。
ただのお通しでもそう言ってくれると嬉しいものだ。
遥花はそれを聞いて、恥ずかしがっていたが、まんざらでもなさそうに「えへへ、新婚さんだ~」と呟いていた。
店員さん、マジGJ。
俺と遥花はビールの入ったグラスを受け取り。
「「かんぱーい」」
と、グラスを打ち合わせる。
ガラスのぶつかる綺麗な音が店内に響き渡った。
「げふー。苦い。もう一杯」
勢いは良かった遥花だが、ビールを一口飲んで、直ぐにそんな事を言う。
そんな青汁じゃないんだから。
それに、もう一杯って、まだ一口しか飲んでないし。
しかし、苦いの所だけやけにキメ顔だったのが最高に可愛かった。
そういえば子供の頃、やけに流行っていたよな、それ。
「でも、こっちのお酒、向こうよりもぜんぜん美味しいね」
「ちょっと待て。遥花、お前二十歳だろ。なんで酒の味がわかるんだ」
正直、俺も未だにビールの味が旨いとは思えていない。今日は旨いがな。
「なんでって、向こうじゃ15歳から飲んでもいいってなってたから、つい興味本位で」
そうだった。遥花は別世界に居たんだった。日本とは常識が違って当然だ。
「私、これでもお酒強いんだ。たぶんこうちゃんよりも」
……ほう。
俺よりも強いと来たか。
ウワバミと恐れられ、“大ザルの公平”と呼ばれたこの俺よりも。
「舐めるなよ。俺だって高校でヤンチャな事だってしたし、大学では幾多の飲み屋を回って数多の酒豪を潰してきた」
勿論、その理由は遥花を探すためだがな。
酒はその手段の一つだった。
「じゃあ、飲み比べでもする?」
遥花は顎を引いて、こちらを挑発するように不敵に笑う。
どうやら、本気なようだ。
いいだろう。そっちがその気なら。
「上等だ」
「よーし。勝った方がここの支払いね。負けないよ」
それ、勝っても負けても、俺が結局支払うんだが。
まあ、いいか。
「ご注文のシーザーサラダと刺身の三点盛りをお持ち……」
「「追加注文で、一番強い(お)酒を頼む(お願いします)!!」
俺と遥花は揃って、料理を持ってきた店員さんに注文する。
店員さんはビックリしていたが、何かを察したようで。
「ふ、わかったよ。ちょっと待ってな」
と、格好良く決めて店の奥に入っていった。
「遥花、覚悟はいいか」
「こうちゃんこそ。やめるなら今の内だよ」
今、決戦の火蓋が切って落とされる。
―――
「うへっへーい、もっともってこ~い」
そしてこの惨劇である。
なんだこのかわいい生き物は。
テーブルの上には強めの酒を飲み干したグラスと、頼んだ料理の皿だけが残っている。料理はなかなかに旨かった。
そのせいもあってか、俺達は結構なハイペースで食べ飲みをしていたと思う。
てか遥花。
「お前言うほど強くないのな」
俺も正直キツいが、記憶が無くなるとか、歩けなくなる程は飲んでいない。
いわゆるほろ酔いと言うやつだ。現に今もこうして冷静に、飲んでいるのはウーロン茶だったりする。
それに対して、嫁さんのそれは明らかにほろ酔いを越えているのだ。
めっちゃ顔赤いし。
遥花はまた頬を膨らませ、不機嫌そうに目を半開きにしながら言った。
「こうちゃんのくせに生意気。私は全然酔ってないよーだ」
「嘘つけ、この酔っぱらいさん」
まったくこの嫁さんは、言い方も可愛すぎる。
それでも少し腹が立ったので遥花のおでこを人差し指で、ツン、と軽く突いてみた。
嫁さんは「アウッ」と、かわいらしい呻き声をあげて、後ろに仰け反る。
そんなに強くはしてないのだが。
と思った瞬間、遥花はウヘヘと、可笑しそうに笑い出し。
「はい! 私はずーっと、飯田公平に酔っております」
と、一際大きな声で言った。
周囲からピー、ピー、と口笛を吹かれ、拍手を受け、微笑ましい目で見られる。
やかましいわ。
……まったく、俺の嫁さんは一瞬で俺の心を奪って行く。
最高じゃないか。
気がつけば、店員さんが何処からか持ち出したギターを弾きだし、それに合わせて、常連と思わしき人達が歌を口ずさむ。
遥花がそれに合わせて楽しそうに踊って、それを他のお客さん達が手拍子をしたりと盛り上げている。
俺はだって?
俺は嫁さんの楽しそうに踊る姿を眺めながら、たまに遥花に手を出そうとする不埒な輩に殺気を飛ばしつつ、その様子を楽しんでいたさ。
―――
散々飲んで、踊って、笑っていた遥花だったが、どうやら限界が来たようだった。
今は大人しくチビチビとウーロン茶を飲んでいる。
そろそろ帰るか。
そう思って店員さんに会計を頼むと。
「お金は要りませんよ」
店員さんが笑顔でそう返した。
俺はその言葉に疑問を浮かべるが、店員さんがこっそりと。
「実は二人のあんまりのラブラブっぷりに他のお客さんがカンパをしてくれましてね」
と、教えてくれた。
周りのお客さんは、どこか微笑ましい物を見るように俺達に親指を立てている。
これは、ありがたく頂戴しておこう。
しかし、それでは余りにも俺の気持ちが治まらない。
「ありがとうございます。では、少ないかもしれませんが、これで皆さんにご馳走してください」
と、財布を取り出そうとしたが、店員さんは首を振って。
「結構ですよ。それはまた次のご来店の時に」
と、言ってくれた。
他のお客さんも、グラスを片手に、いい笑顔でこっちを見ている。
みんな、良い人過ぎるだろ。
俺は精一杯の感謝の言葉を店員さんとお客さんに言った。
「また来いよ、ボウズ」
「いつまでも仲良くな」
「喧嘩すんなよ」
「歯磨けよ」
「宿題しろよ」
「風呂は入れよ」
「またのご来店を待ってます」
いろんな人たちが笑いながら、楽しそうにそう言ってくれる。
遥花はそれに手を振って、満面の笑みで応えている。
酒も料理も旨いし、店の雰囲気も最高でいい人達が集まるいい店だ。
また来よう。俺はその様子を見て、密かにそう思った。
ーーー
「♪ に~しのさば~くを~ゆ~うしゃが旅す~る」
「♪ 目指~すは魔王の打倒 せ~かいのへいわ~」
遥花は聞いたことのない歌を口ずさ見ながら、手を広げバランスを取りながら塀の上を歩いている。
猫じゃないんだから、そんなとこ歩くなよ。
「酔ってるんだから危ないぞ」
俺はそう言ってみるが、遥花は「平気、平気」と、笑いながら返して、また歌を口ずさみ始める。
「♪ 勇者は純潔その身は清く め~がみのよう~」
「♪ 勇者は剛腕その力で ふ~はいを誇る~」
「♪ 戦女神はきょ~うも旅する 愛しきあの人のたーめ~」
あっこれ、遥花のテーマソングっぽい。
確か嫁さん、向こうで“純潔剛腕の戦女神"って異名だった様な。
ちょっと聞いてみるか。
「遥花、その歌は遥花の歌?」
「うん、そうだよ。向こうで一緒に旅した人の中に、ギンユウシジン? って人がいて、その人が作ったんだ。何でか耳に残ってるんだよね」
それたぶん、こっちに似たテンポの歌があるからだと思う。
まあ、何処の世でもそういうのはあるよな。
「遥花は強かったんだな」
俺は何気なく聞いてみた。
「軽くクレーター作れるくらいには」
マジかよ、俺の嫁さんは隕石だった。そりゃ剛腕で戦乙女なわけだ。
「なんたって私、勇者様だし」
そう言って、遥花は塀の上から体操選手顔負けの捻りを加えたジャンプを見せながら飛び降りた。
しかし酔っているからだろう。ビシッと鮮やかな着地はできず、よれよれとふらついて。
「ウウ、気持ち悪い」
と言って、その場で蹲った。
「酔ってる時にそんな事するから」
俺は嫁さんの側によって、背中を優しくさすってあげる。
しばらくして、嫁さんは立ち上がろうとするが、その足取りは頼りなく、歩くこともままならいようだった。
「こうちゃん、おんぶ!」
遥花は辛そうに体を揺らしながら、有無を言わさぬ表情で言ってきた。
やれやれ、仕方がない。
俺は遥花に背を向けながら屈んだ。
「わーい!」
と、勢いよく嫁さんが飛び乗ってきた。
やったぜ、俺得!
夜空を照らす優しい月明かりの下、俺は遥花を背負って歩き出した。
「重くない?」
心配そうに、恥ずかしそうに訊ねられた遥花からの問いに。
「全然、だぜ」
と、実は結構足に来ているのを悟られ無いように応える。
遥花の両腕が、俺の肩口から胸の辺りに来て絡まる。
首筋に、遥花の息がかかる。
背中には、慎ましいながらも程よい柔らかさを持つ物が当たっている。
これは、あの伝説、“当ててんのよ"ではないか。
最高だな。しかもそれを遥花にされてる。
絶頂だな。
「こうちゃん、私ね、こっちに帰ってから幸せだよ。まるで夢みたいに」
遥花は静かに、けれどうれしそうに言った。
あ、これマジなやつだ。
遥花のその可憐な雰囲気に、俺の中の煩悩は姿を消した。
「私ね、頑張ったんだよ」
遥花は呟くように、独り言のように、俺の背中で静かに言い始める。
「向こうに行って、右も左もわからかった」
苦労してきたように。
「生き残るために色んな事を覚えさせられたし、覚えてきた」
苦しそうに。
「魔物に襲われて死にかけた事もあったし、いろんな人に騙された事もあった」
悔しそうに。
「帰る方法なんて見つから無かったし、周りもそんな事無理だって言った」
怒っているように。
「助けた筈の相手が、実は裏切っていた事だってあった」
そして、辛そうに。
「そんな人達を私は手にかけた」
遥花の呟くその言葉には、どれもが感情に溢れ、まるで遥花の心をそのままに表しているようだ。
「もちろん、辛い事だけじゃなかったよ。私とこうちゃんの事を応援してくれる人だっていたし、助けてくれた人だって沢山いたよ。弱音を吐いた時に励ましてくれた人もいた。その人達のお陰で、私は帰って来れたから」
懐かしむように遥花は言う。
その人達には感謝しないとな。今こうして遥花を背負ってられるのもその人達のお陰でもある。
「沢山の命を奪って、沢山の人を裏切って、それでも私は帰りたかった。でも、いざ、貴方の元に帰って、こうちゃんの顔を見たら急に怖くなったの」
泣き出しそうになるのを堪えるように、淡々と、悲痛の音色を伴って声を上げる遥花。
「私は向こうで酷い事をしてた。それは理解してたけど、仕方がないって、無理矢理正当化してた」
「こうちゃんのお嫁さんになるためだって、向こうのことは関係ないんだって。でも、こっちに帰って、こうちゃんの顔を見たら、その時の事を思い出して。……ごめんね、こんな話、急に。重かったよね」
「遥花……」
俺は静かに呼ぶが、聞こえてないのか、それとも意図してか、遥花は空元気に言葉を繋ぐ。
「けど、今は大丈夫! こんな、重い女でも、こうちゃんは私をお嫁さんにしてくれた。もう、本当、夢みたいだよ」
うれしそうに言う彼女。
心の底から嬉しそうで、そこに嘘偽りはなさそうだ。
ならその涙は何だよ。
遥花は涙を流していた。まるで、恐怖を恐れるように。
悪夢に魘される子供の要に。
遥花は応えない。
ただ、背中がポツリポツリと、濡れていくのを感じる。
「……あーあっと、軽いなぁ。このくらい」
俺はそう言って遥花をおぶり直す。
敢えてもう一度言っておこう。俺の膝は限界である。
「まったく、俺の嫁さんは軽過ぎるぜ、もっと肉着けた方がいいんじゃないか」
正直、今の遥花の体系がベストだし、何よりこれ以上体重が増えたら担げる自信がない。
体、鍛えてたんだけどなぁ。
ちなみに、遥花は太ってる訳じゃないぞ。服を脱いだら凄いんだからな。
腹筋が。
まあ、お前らにはぜってぇ見せねーけどな。
「こうちゃん、それ、女の子に酷いよ」
あ、やべー。
ちょっとガチな感じで怒ってらしゃる。
ええい、南無三。ここが男の見せ所なり。
「俺は今、遥花を背負っている。自分の事を“重い"と言う遥花を、俺は背負って歩いている。
なんて事は無い。俺はお前を背負って歩いて行けるんだ」
「どんなに遥花が重かろうが、俺はお前を背負っていける。
もし、それが嫌なら、俺がお前を支えて一緒に歩く。
だから、もう一人で抱え込むな。遥花の悩みは俺の悩みだ。
俺達はもう、夫婦なんだから」
ふっ、言ってやったぜ。
前から思ってたが、嫁さんは自分の過去をよく思ってないらしい。
それも酷くだ。
だが、それが何だと言うんだ。
暗い過去? それが何だ。
遥花だって望んでやったことじゃない。それは本当に仕方が無かったのだから。
確かに仕方が無い、じゃ許されないだろう。
だけど、遥花はその事を後悔し、今でも苦しんでる。
もういいじゃないか。
過去に罪を犯した人間は、これからの幸せを得てはいけないのなら、俺はその事に真っ向から否定してやろう。
そんな事は無いし、させないと。
「こうちゃん、そんな事言われたら、私、甘えちゃうよ」
涙声になりながら、そう言ってくる遥花に俺は堂々と言ってやる。
「甘えればいいさ。遥花はずっと頑張ってきたんだから。
それに、妻に我慢をさせる夫になりたくないからな」
遥花が許されないなら、その罪を俺も背負おう。
遥花が苦しんでるなら、俺がそばで支えよう。
遥花が甘えてきたらうんと甘えさせてあげよう。
そして出来れば、俺がへこんだ時は支えて、甘えさせてほしい。
「本当、夢みたいだな」
遥花がクスクスと、小さく笑いながらそう呟く。
「馬鹿を言うな、これは夢じゃないぞ。
今日も明日もこれからも、ずーとそうだ。
悪い夢も、いい夢もない、ただ俺と遥花だけの幸せな現実だよ」
夜道は以前変わらずに、月明かりと、それに加えて星々までもが夜を優しく、美しく照らしている。
「こうちゃん、私、今がとっても幸せだよ」
そう言った遥花は、どうやら寝てしまったらしく、後ろから寝息が聞こえてくる。
「これからもずっとだ」
俺は一人そう呟いて、夫婦の家へ、夫婦の明日へ続く、優しい夜道を歩いていった。
ーーー
次の日、嫁さんが甘えてきた。
内容はこうだ。
「こうちゃん、スッゴく頭が痛いんだけど。あと、お腹も気持ち悪い」
片手で頭を、もう片方でお腹を抱え、目を細くして、必死に痛みを堪えている遥花。日頃は見せない、弱々しく無防備な格好、実にいい。
そう、嫁さんは現在二日酔い中である。
昨日、あんなに飲み過ぎるから。
「はい、取りあえず薬と水飲んで。お粥でも作るからさ」
「こうちゃん、何か冷たい。甘えても良いって言ったくせに」
確かにそう言ったけども。とは言えなかった。
「ウウ、吐きそう」
「じゃあ、トイレに行こうね」
そのまま遥花の介抱になってしまったからだ。
嫁さんや。甘えても良いとは言ったが、始めての甘えがこれって。
僅かに残念な思いになりながらも、まあいいかと思う。
「は、はずかしい」
涙顔で、口に手を当て、恥ずかしがる遥花。
こんな顔、あんまりしないからなぁ。
「こうちゃん、ニヤニヤし過ぎ! もーう、次はおんなじ目に合わせるんだから!」
遥花は大きな声を出しては頭を押さえる。その様が可笑しくて、つい吹き出したら、向きになってまた大声を出して、案の定、頭を押さえる。
こんなかわいい遥花が見れるならまた行こうかな。
まあ、潰れるのは俺じゃなくて嫁さんなんだけどな。
「勘違いしないでよね。私の本気はあんなもんじゃないんだから」
頭痛を堪えながら、なんとか作った不遜な笑みで遥花は言った。
だが、残念だったな遥花よ。
「飲みに行くのはいいが、今月はもう無理だぞ」
そう言って、俺は財布の中身を見せる。
中にはカードしか入っていなかった。
「今月は遣いすぎたからな。後は今月の残り日数分の生活費しかない」
俺はどや顔で言う。威張れる事でもないがな!
自分で言っておいて情けない。
遥花は見てわかるくらい、落ち込んでいた。
「だから、また来月にでも行こうか」
それを聞いた嫁さんは一気に元気になった。
『状態異常:二日酔い』は継続しているので、尚も頭を押さえているんだがな。
「絶対に行こうね」
今朝一番の眩しい笑顔いただきましたぁ!
そうだな、また行こう。
次は遥花が飲みすぎないよう、しっかり目を張っていなくては。
そんな事を思いながら、俺は遥花の介抱を続けた。
居酒屋行きたい! 酒のみたい! うまい飯食いたい! 異姓の相手が欲しい!
そんな事を思いながら書きました。