第3章
(なーにがBLの主人公だよ。オレと上野にしてみたら、全国に醜態晒されてるようなもんだ。いい加減に…)
「いい加減にしてくれよ?」
東屋から出ようとした時、背後から声がした。つーかエスパーかよ、おまえはっ!
「市川くん、心の声が洩れてるよん、背中から〜。でも、本当にいいのかなぁ?消しちゃったりしてさ」
と、オレの怒りなどお構いなしの白鳥は、持っていたスマホの画面をオレの顔に突き付けてきた。
「な、何が?てか、何なんだよ一体…」
遠慮を知らないお嬢様の勢いに押されて、思わず画面を覗き込んでしまったのがあとの祭り。
オレの正論など、一瞬にして吹き飛んだ。
「えっと何なに……最優秀ノミネート作品1位、真昼の薔薇、ブラックスワンさん……しょ、賞金100万円⁈」
驚異的な数字に、ゴクリと喉が震える。
(ぶ、ブラックスワンさんって…まさか)
恐る恐る顔を上げると、おそらくブラックスワンさんであろう人物が、フフンと形の良い鼻を鳴らして得意げに立っていた。
ブラックスワン。何も知らなければ、一見単純でダサいとさえ感じていたであろうそのペンネーム…だが、全てを意図して付けたってなら、やはり策士か。おそろしや。
「このブラックスワンって、し、白鳥なの?」
「そうよ?でもまだノミネートだから決定じゃないの。作品もまだ未完成だし。でも、受賞しちゃったら消せないから、今の内に消去した方がいいのよね?上野くんにも悪いもん。ねぇ、市川くん」
「うぐっ……」
やっぱりコイツはブラックスワンだ。上野に悪い(もちろんオレにも)なんて、絶対に思っちゃいない。そしてオレは今脅されている、確実に。
(けど、安心しろ上野…そんな卑劣な脅しに、オレは絶対に屈しないぜ!)
そうだ、男の友情とは、女のそれとは違うんだ。
(思い知れ白鳥!そして泣け!)
しかし、現実とは世知辛い。
「50万」
金の威力に、男の友情など砂塵のようなものだった。そしてオレは泣いた。
「…は?」
「市川くん、来年車の免許取るのにバイトしてるんでしょ?それだけあれば免許取ってもお釣りくるわよ?」
「それって、その小説が受賞したら半分くれるって…」
「そうゆうこと。…ダメぇ?」
「だっ…だからっ…」
「BLの主人公って言っても、小説なんだから顔が出る訳じゃないんだし。名前も変えてあるんだしぃ。それでもダメなの?」