第六話 夢見る妹、捜索開始
身体に鈍い痛みを感じつつ、私は目を開けて起き上がる。
せいらの姿が消えた直後、私はとっさにベッドの上に空いた
多角形とも呼べない歪で角張った形の、向こう側が真っ白でよく見えない穴へ飛び込んだ。
私の身体はその穴にすぐに落ち込んでいくことはなく、ゆっくりと降下しつつ、透明になっていった。
え?何コレ?と、透けていってしまう自分の手や肢体を見て戸惑っているうちに、
目の前が真っ白になって、それから真っ暗になったのが最後の記憶だった。
あー、そのうち普通の速度で落っこちたんですね分かります。
死ぬような高さじゃ無くて良かった。
で……ここは、どこだろう?なんか、嗅いだことがある香りがするんだけど。
辺りを見回すと、キラキラした……花畑?
マジで?私、やっぱり死んじゃったの? っていうかせいらは!? 私がお陀仏ならあの子もまさか……
一瞬青くなる私だけど、おそらく違うだろうなと思い直した。
花は花でも、全部が全部少し大きめのラベンダーのような形の、
紫色の花。それも、ラメでも振りかけたように輝いている。
空を見上げると、雲があるわけでもないのに、重苦しい灰色をしている。
とにかく、現実世界とは違うみたいだ。
ん? 向こうに倒れてるのは誰だろう……明日美、じゃない?
私は膝の関節がまだ少し痛んでいる気がしたが、構わずに
艶やかな黒髪を地面に広げて横たわる明日美の方へと駆けだした。
そしてあと数メートルという所で、
彼女は「おっはよー!」勢いよく起き上がった。私は地面にずっこけた。
空気読め。頼むから、命に別状が無いか確認しようと駆け寄ってあげた
私の気持ちを汲んでくれ……
「ココロをさっき見つけた時さ、まだあたしに気づいてなかったから、
ステンバーイしてみたんだけど、ビックリした?」
ああそうか、確信犯か。なぜかドヤ顔の明日美に、
恨めしそうな視線を向けるも、どうにもならない。
触れた地面は、さっき起き上がったのは花の中だったので
気づかなかったけれど、軟らかい土のようだった。
だけど不思議と服や手が汚れることは無く、さらさらと落ちていった。
今転んだ所は人二人通れるくらいの道で、それ以外は明日美が倒れていた
所も含めて、全て花が咲いている。
あ、この花って雑貨屋で買った枕の香りじゃない?
どういうことだろうと考えていると、明日美が
「ココロ、どうしてこんな所にいるの?ネグリジェで」
と話しかけて来たので、私はようやく自分がまだ着替えてなかったことを思い出した。
今着ているのは、白地にピンクのフリルがあしらわれた、部屋着としても
着られるような感じのネグリジェ。変に露出したり透けてないのでご安心を。
ちなみに、明日美は流行の色合いのオレンジをした薄いパーカーを白いTシャツの上に羽織り、
紺のジーンズ生地の短パンに黒いレギンスを合わせたカジュアルな普段着を、
ファッション雑誌の表紙のように完璧に着こなしていた。
しっかし……寝間着兼部屋着で人と会ってしまった。ちゃんと着替えれば良かった。
そもそもせいらが消えたのも私がだらけてるせいだし……今頃どうしてるんだろう。
親は確か今日朝から出かけてたけどラッキーってわけにもいかないんだよね、
家の手伝いとか任されてるし。もし私達が居なくなってるのに気づいたら……
あーあ、あの時ちゃんとベッドメイキングしてればこんなことにも……ぐだぐだぐちぐち…………
「ねえってば、ココロ?」
いけない、悪い癖が。私はすぐに無駄な思考を止めて、
かくかくしかじか、これまでの経緯をしびれを切らしそうだった明日美に話した。
「あー、大変だね。妹ちゃん探すの手伝おうか?」
「いいよ、悪いし……と言いたいところだけど、バラバラに行動しても
どうにもなんないし、私もちょっと手を貸して欲しいんだけどさ、いい?」
「もっちろん!大丈夫、ちゃっちゃと見つけちゃうよ!」
彼女は二カッと根拠の無い自信に満ちた笑みを浮かべる。
それでも、こういう所はやっぱり助かるな、色々と。
「ところで、明日美ちゃんは何でここに?」
「え?ほら、あたしも明晰夢見てるあの枕で、何か寝てたらここに迷い込んだんだ!
しっかし、ココロも楽しそうだったね、あたしは雰囲気で
あっこれ本物のココロじゃんってすぐ気づいたよ。
……ココロ?顔色悪いよ?後、もしかしてあたしが明晰夢の中にいるの、知らなかった?」
「……黒歴史が……」