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第四話 屋上、網、アメジスト色の瞳

 屋上を後にして、私と明日美は人気(ひとけ)のない階段を降りていった。

 カツン、カツンと階段のタイルを二足のスニーカーが

 踏んでいく音だけがしばらく響く……と思ったけど、明日美が急に


「ねーココロ、屋上なんかで何してたの?」


 と訊ねてきたため、そんなに長く沈黙は続かなかった。


 幸乃明日美(さちのあすみ)。スラッと背は高いが体つきは中学生にしては大人っぽく、

 上向き睫毛が華やかなつり目とストレートの黒髪を持つなかなかの美少女。

 活発な彼女とは小学校からの友達で、付き合いは長いんだけれど、

 今でも彼女にはよく振り回される……


「いや、何となく外の風に当たってただけだよ」


「あ、飛ぼうとしてたんだ」

 分かるんなら最初っから聞くんじゃねー!あんたは鋭いの?

 それとも超絶無神経なの??もうやだ恥ずかしいこの年で

 アイキャンフラーイなノリだと思われるのは……

 あっ、そうか。ここじゃあ意味ないか。


 私はそんな思考は一切頭に無いかのごとく振る舞い、「あ、ばれたー?」

 と明日美の言葉を軽く受け流す。


「まーね。明晰夢楽しい?」


「うん、まあまあ。何か不安な所もあるけどね」


「え?そう〜?あたしは何も無いよ。大体、これ夢だし何とでもなるって!」


 彼女は折って短くした制服のスカートをひらひらさせ、

 階段を一段とばしで降りていく。

 私もその後を追い下に降りるにつれて、休み時間の廊下の喧騒が

 だんだん耳に障ってくる。

 

 本当、良くできてるよね、この夢は。


 今、廊下を賑わせている生徒たちも、明日美も。

 私の明晰夢が作り出した幻だろう。


 でも、明日美も、街や学校も、退屈な授業も。

 夢と(うつつ)を比べると、寸分変わらない。

 ただ私がどんな魔術を使おうと、空間や時間を歪めようと、

 誰一人驚いたり、今何をしたと問い詰めたりしない。


 教室にたどり着く頃、私は心臓の辺りが網のようにスカスカなってしまって、

 そこを冷たい風が抜けていくような心もとなさと虚しさを感じていた。







 それから何日か、私は夢世界と現実世界の二重生活を送っていた。

 やっぱり、夢の中では放課後タダでケーキ食べまくったり

 アンティーク雑貨とかゆっくり見たりして(普段は帰りが遅いと親に叱られるから

 雑貨屋に長居できないけど、夢なら時間巻き戻せるしそもそも怒られないから無問題)

 わりと楽しいから、前に思った虚無感とかそんなのはどっか行ってしまった。



 ところで、現実世界で明日美に会うとなんだかニヤニヤしている

 気がするけど、そんな気がするだけなのかな……


 

 そんなある明晰夢でのある日、ひじょーにありがちだけど、

 ちょっと考えると大分不可解な、そんな出来事があった。

 

 白髪交じりの髪を真ん中で分けた担任の男の先生が、教室のドアを開けて入ってきた。


 後ろに、一人見慣れない生徒を連れて。


「すみません、本来は朝のホームルームの時間なのですが、

 転入生を紹介したいと思います」


 クラス皆の視線が、矢のように前方へ集中した。

 ワンテンポ遅れて、先生の方を向いていた『転入生』がこちらへ向き直る。

 注がれる数多の眼差しを、少し戸惑ったように見開かれた

 澄んだ紫色をした円らな瞳が受け止めた。


「こちらは今日からこのクラスに来た、野藤(のふじ)レイという子です。

 皆さん仲良くしてあげて下さいね。」

 月並みな言葉と共に、先生はレイというらしいその転入生に目をやった。


「あ、どうも。僕は野藤レイです。これからよろしくお願いします」


 それをを合図に、レイは薄緑色の緩くカールした髪を揺らして

 ぺこりと頭を下げ、薄紫の眼を柔らかく細めた。



だんだん登場人物が増えてきましたね。批評など感想お待ちしております。

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