第三話 飛行後の人間にタックルするのは止めてください
心地よい浮遊感と風を切る爽快感。
鳥よりも速く、私の体は学校の遥か上空へ飛び上がっていた。
いやホントだって、私も信じられないけど。
ま、夢で細かいこと考えてもしゃーないか……風が気持ちいいな、結構
半信半疑の気持ちが重荷となるわけでもなく、私は重力を無視して
ソーダ水のような爽やかで雲ひとつない空を翔る。
地球は…青くないな、まだ建物とか見える高さだし。
夢の中では何でもできるはずだ。実際こうして飛んでる訳だし。
だけど、いざ明晰夢に目覚めた私がやりたいと思ったことは……
上手く、まとまらなかった。
普段から欲望まみれの私だけど、いざ何でも出来るとなると、ね。
ぐちゃぐちゃに色んな願望が浮かんだけど、辻づまが合わなさすぎて、
上手く想像出来なかったわけだ。
結局、いつもと同じように生活すると、どのくらい現実と違うのか
試すことにした。我ながら慣れた日常から抜け出せない
志が無い人間だなーって思ってますよー、どうせ凡人だよ、私なんて。
そんなわけでとりあえず学校へ行った私だけど……
意外と楽しいんだなこれが!
例えば私は数学大っ嫌いで、うわーやりたくね〜時間飛ばないかなって思ったら
ホントに一瞬で時間が進んで授業終わったし、
昼休みにケーキでも食べたいって思ったらいきなり空中から机に出現してた。
変なこと間違って考えて実現しないか心配だったけど、そんなことも無かった。
結論。明晰夢マジ最高!!
日常に非日常が混ざり混んだ感じがいいよね。
で、私はふと学校の屋上で、風が気持ちいいな〜
あ、飛べたりしないかな、いやいやまさかねーって
考えてたら宙に浮かんでました。
……そろそろ、降りよう。
ジェットコースターとかで内臓が浮き上がる感じがずっと続いてて酔いそう。
胃液が逆流しそうな不快感まで、リアルにこの夢は再現してくれちゃっている。
それだけではなく、五感、時間感覚まで現実そっくりだ。
明晰夢。現実のようにクリアで、自分の思い通りに出来る夢。
ネットで調べておいた情報と、この世界の様子は確かに一致してはいる。
でも、こんなに精巧な世界は、本当に私の平凡な脳みそが
作り出した幻なのだろうか。
胃の辺りを押さえながらコンクリートの屋上にふらふらと降り立った。
瞬間、背後に強い衝撃を受けた。
げふあっ……!?
は、吐きそう、っていうか何が起きたの?
まさ、か、夢だからって怪物とか襲ってきた感じのやつ!?
「やっほーココロ!!」
「え、あ……明日美ちゃん?」
恐る恐る振り向くと、黒髪セミロングの友人が
思いっきり肩にのしかかってるだけでしたとさ。
飛行後の人間にタックルするのは止めてください……