第一話 夢物語は衝動買いから
長らく放置してしまい、大変申し訳ございませんでした。半年以上前、
キャスフィと重複投稿を始めようとしたのですが、
なかなか更新できず、プロローグしか無いというもはや詐欺状態にも関わらず、
時々pvが増えると嬉しくも焦っていました。今後も恐らく不定期更新ではありますが、
安定して書くことが出来るのを目指して頑張りたいと思います。
『あなたも明晰夢が見れる!不思議な枕』
行きつけの雑貨店で、蛍光色でこんなことが書かれた
POPが貼ってある棚を見つけた。
私はアンティーク雑貨が大好きで、よく放課後この雑貨屋に来る。
ここにあるようなくすんだ金属製のライトや、色とりどりの瓶なんかは、
私の趣味に合うんだよね。
ちょっと古い感じとかに雰囲気があって、見てるだけで楽しい。
でも、今見つけたコーナーからは、それらとは少し違う雰囲気を感じた。
棚の中には、いかにも少女趣味って感じの枕が丁寧に積んである。
四角い枕は短い方の辺からその対辺へ向かって、
ピンクから紫へとグラデーションになったパステルカラーをしていた。
何となくそれを手に取ってみると、羽が入っているのか軽くて柔らかい。 そして、枕を持つ手元からはほのかに花の甘い香りがした。
いやー、きつい。
少なくとも、中二の女子らしい可愛い物体が
一つも見当たらない殺風景な私の部屋には、大分場違いな代物な気が……
ベッドはほぼ白一色だし、
勉強机には地味な文房具が散らかされてるし。
でも、その明晰夢とかいうものが、妙に気になってしまったせいだろうか。
私は気がつくと、ばっちりお会計を済ませて店の外に佇んでいた。 かっ……か、買ってしまった……三千、円が、このちっこい枕に……消えた……
西から茜色に侵食されつつある五月晴れの空を、呆然と見上げて溜め息をつく。
仕方ないじゃん、気に入ったんだもの、これ。
紙袋からはみ出た枕の縁のフリルを撫でながら、自分自身へ言い訳をする。
あーあ。とりあえず、家帰るか。
重たいカバンを背負い直し、歩き出そうとしたその時。
すれ違いざま一瞬だけ視界に捉えた人影が、
花弁となって四方に散ったのだ。
「……え?」
突然のことで思わず疑問の声を漏らしつつ
ばっと振り返ったが、あるのは紫の散った花弁だけ。 触れようと手を伸ばしても、それらは私の掌をすり抜け、空気に溶けるように見えなくなった。
どういうこと、これ?
夢か現か、頭に焼き付いた残像を必死で解析する。
私が出てきた雑貨屋の方を向いて、たった今儚げにそこに居た……
彼、女?いや、よく見てなくて性別も分からなかったし、何となくふわっとした
雰囲気の人だったとしか言いようがないな。
そのうち、どうしてか私の記憶もふわっと消えていってしまったので、
小首をかしげつつ、帰路についた。
明晰夢世界への、三千円の特別切符を小脇に抱えて。