第二十四話 夢の終わりがやってくる……のか?
まるで、初めから何もなかったかのように、静かになった。
ゆっくりと目を開けると、あるのはただ、淡い紫が広がる世界。
後ろから「何が起こったんだ!?」「ココロ大丈夫ー?」という声がする。
「何が起こったって、こっちのセリフだよ。この杖拾って、目を閉じたら……」
振り返ると、レイと明日美ちゃん、せいらが駆け寄ってきていた。
「あれからどの位経ったの明日美ちゃん?」
「あれからって……万策尽きたかなーってなって、
せいらちゃんがステッキぽいってして、で、気がついたら一瞬で化け物が消失した」
「一瞬?マジで?じゃあ……」
あの時思わず目を閉じて、違う世界が見えてから今までの間の時間は、
こっちではごくわずかだったってことか?もうよくわからん。
「夢宮さん、もしかしてその杖、妹さんのものが?」
「レイ、あんた吹っ飛んだんじゃなかったのか?……そうだけど」
「あーー-!!せいらのステッキが古びたあああ!!!」
「こらこら、古びたんじゃない、アンティークと呼ぶのだ。
ありがとうせいら、確かに使えたよ、魔法。今度新しいの買ってあげるね」
わーい!と、一瞬で笑顔になるせいら。レイは「ああ、大丈夫大丈夫!」
と特に怪我もない様子である。こいつ弱いのか強いのか分からん。
「そのステッキ、夢現花の上に落ちなかったかい?
もしかしたら花の魔力を吸収して魔法具になったのかも」
「どんな現象だよ!……まあ、いいか。今度こそ、帰ろう」
足下には、あの怪物を出現させる媒体となった空間の欠片と、
水晶を細かく砕いたようなキラキラした光の粒が少しばかり、残されていた。
……これで、あいつは幸せな夢を見られるのだろうか。
「夢宮、出口消えたってよ」
「ノオオオオオオ!!?」
明日美ちゃんお前、そんなどっかのタイトルみたいな言い方してる
場合じゃないって!アカンって!!
「さっき怪物が暴れまくってた影響でね、ここにあった現実世界への道が
消えちゃったみたいだねー。あはは、困ったな」
「あははじゃねーよ呑気二号!!」
呑気二号もとい夢人は、苦笑いしながら元々出口があったとされる
場所に佇んでいる。あのモンスターめ、せいぜい悪夢でも見てろやああ!!
「どうしよ……」
不安そうに瞳を潤ませて私を見上げるせいら。
「もし、かえれなかったら、見たかったテレビ見れないよぉ……」
「それかい!」
「あ、おとーさんとおかーさんも、かえってきちゃうね」
そっちの方が重大だよ!まいったなー、今何時ぐらい?
っていうかここまで来て帰れないなんて……
[……レイ様。そして夢の世界へのお客様方。
私がご案内させていただきましょう。]
「その声は!ヴィオレかい?」
「え、それってあの、もう一人の夢人っていう?」
物腰の柔らかそうな青年の声がして、目の前に青紫の花びらが宙を舞い、
長い薄紫のローブを着た長身で細身の男性が現れた。
彼はローブのフードを被っており、顔はよく見えないけれど
黒髪で右目にだけ前髪が長くかかっているのが見て取れる。
「私はレイ様の部下である、ヴィオレと申します。以後お見知りおきを。
それでは、夢と現の境目に参りましょう」
彼がそう言うと、私達の足下に大きな魔方陣らしきものが組み上がり、
視界が水色の光に包まれていった。




