第二十二話 戦闘開始……だけど緊張感と勝機はいずこ?
《ピロリローン♪ ミラクルキューティーマジックステッキ!》
「……」
えーっと。冷静になろう私。
妹のせいらが、
今まさに、
秘密兵器だと言わんばかりに取り出したのは、
……どうみてもおもちゃの魔法のステッキです本当に有難うございました。
「皆、ごめん。私は無力だ……」
「ココロどんまい!」
ぴかぴかとライトが灯るステッキを見つめて、せいらは納得いかない、
という表情で首をかしげる。
「おねーちゃんひどいよー、ちゃんと戦えるもん!」
「気持ちは嬉しいよせいら、うん、ウレシイヨ……」
そんなことを言っている間に、レイがふわり、と軽く地面を蹴り浮かび上がる。
『ジャマヲスルナ……ケサナ、ケレバ……』
「もう良いんだよ。君は夢の欠片だったんだから、こんなことまで
しなくたっていいさ……」
そして、素早く無駄がない動きで、滑らかな軌道を描いて飛び、
怪物が放つ黒いもやの塊のような物を避けながら、確実に間合いを詰めていく。
上から降ってきた弾を、素早く飛び抜けてかわす。
横から飛んできた幾つかの煤色も、身体を翻してかわす。
四方八方に現れた塊は、彼が手から淡い光を発して薙ぎ払うと、
私も何度か見慣れた紫の花びらに変わり、散っていった。
「へー……意外とちゃんと戦ってる」
「そーだね。しかもあたし達の所に一切攻撃がやってこない。
それも計算のうちで攻撃を何個かよけるだけじゃなく防いでるなら……
ありゃ相当のものだね~」
「よくそんなとこまで分かるね明日美ちゃん」
さすが戦闘民ぞ……ゴホンゴホン。で、そんな彼女も怪物に攻撃を
しかけるべく走り出した、と思いきや履いていた白いスニーカーをぶん投げた。
えええ!?何やってんの!?あ、こういう攻撃か!
数十メートル飛んでいった靴は怪物をすり抜け……ばすっと地面に跳ね返った。
「……ねーねーレイー!あいつ物理攻撃が通んないよー!」
「えっ本当に!?じゃあとりあえず何か魔法を使ってみるけど……えいっ」
明日美ちゃんの声を聞いたレイは魔法で花弁のような光の刃を作り出し、
怪物に打ち込んでみたが、やはりすり抜ける。
「「わーどうしよー」」
「ちょっと、二人とも詰むの早すぎない!?
戦ってない私が言えた事じゃないけど!」
「明日美おねーちゃんみたいに投げて戦うのか~、なるほどっ!」
「なるほどっ!じゃないせいらあああ今までの流れ聞いてた!?」
なんとまさかのタイミングでせいらが魔法のステッキをぽいっと投げた。
普通の小学生女子の投てき能力では当然届くわけもなく、
進路がそれてたくさんの夢現花の中にぽすっと落っこちた。
「これはまいったな~……ってうわあっ!」
よそ見をしていたせいでレイは怪物の攻撃に気がつかず、
あっけなく当たって吹っ飛んでしまった。しっかりしてくれ夢世界の管理人!
これはピンチ!!しかも、もやもやのやつ近づいて来てるし!
救いはないんですかっ!?
……。
ん?なんか光ってるね~、
せいらが魔法のステッキのおもちゃを投げたあたりに。
一応拾いに行ってみる。そして花の中から拾い上げたそれは……
鈍く光る金色の柄。先には濃い桃色の宝石が付いた、四十センチ余りの……
ステッキと呼んで良い物なのだろうか。
それが落ちていたあたりの花はまだ光っていた。
わけがわからん。でも、せいらの持っていたおもちゃのステッキは
どこにも無い。あるのは、もしこれが魔法の杖だというのなら、
まさしくファンタジー世界にありそうな一本のステッキ。
まさか、これで魔法が使えるようになるなんて都合の良い展開があるものか、
と内心思ってる私の目の前に、怪物の攻撃が迫っていた。
杖を持ったままの私は思わず目を閉じて、身を固くする。
――目を瞑ればあるのはただ暗いだけの世界のはず、だと思っていたのに、
モノクロで私とあの煙のような化け物だけがいる世界が、瞼の裏に映った。




