第十七話 ナイフかジャムか
背の高い草をかき分け、肩までの艶めく黒髪を揺らし、
植物も石も踏み越えて一人の美少女が道なき道から私とレイの立っている道に踏み込んだ。
「おひさーココロっ!」
「明日美ちゃん!?」
何事も無かったように、明日美はニカッと笑う。綺麗な私服は葉っぱと泥だらけだけど。
「無事で良かった……けど、何してたの?」
「ココロも無事みたいだね!あたしは森で妹ちゃんを見たから、追いかけっこしてたよ」
「ホントにここに来てたんだ……追いかけっこって」
「あれっ?ココロの隣にいるのって……」
明日美は目を丸くして、私のそばで佇むレイを見る。
それで豪快且つ突然の明日美の登場に呆然としていた彼だったけれど、
「あ、僕は野藤レイって言うんだけれど……覚えてたりするかな?」
と、明日美の様子に気が付き何事もなかったかのように笑顔で話し始めた。
うーん、空気読めるのか読めないのか、よく分からん奴だな~。
「えっと……あっ思い出した!!明晰夢に居た……」
「うん、そーだよ。幸乃さん……で合ってるかな?
君も明晰夢を見てたらしいけど」
「物語なんかでは良くあるパターン、謎の美少女転校生っ!!」
「……僕男だよ~……」
ちょっとしょんぼりする彼の円らな瞳に、長いまつ毛が影を落とした。
かくかくしかじか、明日美にさっき分かった明晰夢世界のことや
今の状況なんかを説明しつつ、私達は森の奥へと分け入っていった。
明日美の目撃情報によると、せいらが向かったのも森の奥であったためだ。
「まじか。色々すごいね~、ファンタジーだなあ!」
「にわかには信じがたいけどね。でも魔法とか現実にあるなら
やってみたいな。明晰夢ではそれっぽいこと出来たけど」
あまりにもあっさりと全てを信じ込む明日美に、相づちを打ちつつ腕を組み考える。
ファンタジーねえ……確かにそうなんだけど、空間の崩壊とかの話も聞いてるんだから、
もうちょい危機感持とうよ……
「ねえココロ、その手に持ってる欠片っぽい奴、貸して」
「うん分かった。もしかして何か知ってる?」
「僕もあんまりこれの事良く分かってないんだよね……」
私は明日美に空間の欠片を手渡す。それは今は無色透明で、ガラスの破片のようだ。
欠片を受け取った明日美は、手のひらにそれを乗せ、注意深く観察する。そして、
「おお!いい武器になりそう!」
何かナイフみたいにシュッて突く練習してる! 何やってんだこいつ。
「ちょ、ちょっと幸乃さん止めて、割れたら大変だし、ちょっと貸してみて」
明日美、渋々レイに欠片を渡す。
「んゅ……何か甘い匂いがする! ジャムのお砂糖の代わりに使えるかな?」
何言ってんだこいつ! 未知の物体をそんな扱いしていいのか!?
「返して、やっぱ返して! このままじゃ今後見つかる空間の欠片も
碌なことにならない気がしてきた……」




