第十六話 森と少女とセキセイインコ
せいらはもしかしたら、森の中にいるかもしれないと推測し、
私とレイは花畑の中にぽつんとあった森へと入っていった。
小さな森の中で、私は辺りを見回してみる。
普通に日本に生えてるようなブナや桑の木が目につき、
地面にはどこにでもあるような雑草も生い茂っている。
さっき居た花畑も静かであったが、
ここもしんとした空気の中で、遠くから小鳥の囀りが
聞こえてくるばかりの場所だった。
森……と形容したけれど、面積や雰囲気からして
中から見ると雑木林に近いかもしれない。
ふいに、人の背丈ほどの高さをしたつむじ風のように軌道を描いて、
目の前で紫色の花弁が舞い散った。
それから一秒も経たずに、緑髪紫眼の美少年が花弁の中に出現し、
しとやかに雑草の上に降り立った。
「ただいま帰りましたー夢宮調査隊員っ!」
「今までの何となく静かな雰囲気が台無しじゃんか。
今更だけど、やっぱり私が雑貨屋の前で見た
花びらが浮かんでた現象はあんただったんだね」
すちゃっ、と敬礼するレイにため息をつく。
あの時は超常現象だと思ったけど、それどころではなかったのが現実だ。
「その花びらが舞うやつ……移動魔法って便利そうだね。
ところで、何か分かった?」
「うん、人の気配はある気がするけど、
探してる二人らしき人は見当たらないなあ」
「そうか、ありがと。ここに来たのも勘だけじゃなくてね。
せいらは植物とかが好きでさ、ピクニックや森林浴によく家族で出かけさせられてたから、
こういう森とかに入って行きそうだと思ったんだけどな」
「そうなんだ、楽しそうだね〜」
出かけさせられて、というのがポイントである。
まあ、白い空間の回想で見たくらいだから、それなりに楽しかったんだけどね。
休日の朝起きるのは超だるかったけど。
「明日美に関しては、たまたませいらを追いかけて
森の中にダッシュしてきたとかいうことがなけりゃ、ここには居ないだろうな」
「夢宮さん、見て、セキスイインコだよ、可愛いよね」
家でも建てるんかい。
それにしても、確かに近くの桜の木の上には黄色いインコが止まっている。
「……いや、青々とした葉桜の上に
セキセイインコってどうなんだろう」
「ん〜、綺麗だからいいんじゃない?
ヴィオレもこの森を造りたいって言ってた時、
僕がいいならこの鳥もここで飼っていいって言ってたしさ」
そのヴィオレって誰なんだと聞くと、どうやらその人はもう一人の夢人のようだ。
「で、ここはそのもう一人の夢人がここを作ったのか」
「うん、大体は魔法でね。」
「魔法で造園が出来るという」
そんな会話をしていると、なんだか元気そうな感じの足音と、
草木をかき分ける音が聞こえてきた。




