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第十一話 夢の世界の案内人

 ひしひしと、ゆっくりヒビが入っていた自我が元に戻り、

 見失っていた非現実の中の現実が還ってくる。

 目の前の記憶の世界は無数の花弁と散って、跡形も無くなっていた。


 危な、かった……のかな、私。消えてしまった幻は、何だったんだろ?

 一体何が起こったのか確かめようと、辺りを見回して振り返ると――


 無個性に戻った白を背景に、紫色の指先大の花弁が舞う中、

 儚げな少年の姿がそこにあった。


 ワイシャツのようでありながら袖口と裾が広がった白い服と、

 これまた裾のふわっとした水色で細身のズボンに身を包み、

 ウェーブがかかった柔らかそうな薄緑色の髪を微かに揺らす人物。 

 昨晩の夢で見た転校生が、淡く透き通る紫の双眼を安心したように細めた。


 服装こそ制服ではなく、妖精の如き可憐で柔らかな雰囲気の物を身に付けていたが、

 そこに居たのは紛れもなく彼であった。

 むしろ、今の姿の方がどこかしっくりくる。


 彼は腕をこちらに伸ばした状態で空白の世界に浮かんでいる。

 その長く白い指から今にも消えそうな半透明の花弁が数枚舞い落ちていた。


「間に合って良かった。あ……さっきのもう逃げてっちゃった……」


 さっきのって何だろ……変な声のことか?


「えっと、夢宮さん……でいいんだよね?」


「うん、あってるよ。で、あんたはその……レイって言うの?」


「そうだよ〜、朝学校で紹介した通りね」


 ――朝紹介した通り。というのは、やはり明晰夢でのことか。

 突然に明晰夢で会った人ですかと聞くのもどうかと思ったので、

 試しに名前だけ確認してみた。えっどうして知ってるの的な反応じゃないってことは、

 やっぱりこの人は夢まぼろしではなく、あの夢に実在していたんだ。


「えっと、私のこと助けてくれたみたいで、ありがとうね。

 後、あんたはどうしてここにいるのかなって……」


 最後の花弁が辺りの白に溶け込むのを見やり、私はレイに訪ねる。

 恐らく、先程の幻影が花弁みたいに消えたのは、彼が何かしたのだろう。


 すると彼は円らな瞳をぱちくりさせ、花が綻ぶようにほわほわと微笑んで、


「僕は夢人(ゆめびと)だよ。夢の世界……とか、その周辺の管理人なのさ」


 くるり、と宙に浮かんだ状態でその細身を舞うように回転させた。







「何か綺麗にまとまってるっぽいけど、ぜんっぜん答えになってないから!?」


 何秒か、首をかしげ考えた。だがやはり会話がかみ合ってないっ!


「あ、あれー?ホントだ~」


「決まったな、キリッみたいな感じでいるけど、

 わーたーしーはーな、何でここにいるのっつったんだよ?

 夢人だか何だか知んないけど、どうして自己紹介になった!! 頭のネジ足りてんのー!?」


「……」


 全く、大丈夫なのかな、転校初日からふわふわした奴だと思ってたけど。

 大体夢世界の管理人って……そりゃ素性が分からないわけだ。


 って、あ……心の声ダダ漏れしちゃった。

 彼はきょとんとした表情で目を軽く見開き、小さい口を開けている。

 やらかした……ほぼほぼ初対面で脳内ツッコミ乱射してしまった。

 これドン引きされるやつだ……終わった……


「……ふふっ」


 目の前にいる少年の薄紅色をした唇からこぼれた声に、耳を疑った。

 同時にうなだれていた顔を上げる。


「あははははっ!頭にっ、ネジって……ふふ、あはは!

 夢宮さん、そんな風にも話すんだって、何か意外だな~……」


「いや、どういう意味よ」


「実はね、教室でも見かけて思ったんだけど、夢宮さんって、

 ……どこか本音を押し隠して、ぎこちない感じに見えたから。

 そういう人の雰囲気は、その……ぱっと見て分かる気がして」


 彼は女子と変わらない幅の肩を揺らし、くすくすと子供の様に小さく笑っていたけど、

 いつの間にか、その笑みは大人びた少し寂しげなものを含んでいて。


 図星を突かれた私は、何も言えない。


「僕はなんも気にしないし、たまには思ったこと言ってもいいんじゃないかな。

 にしても……頭のネジ、って、くふぅ、頭にネジなんか無いのに、あははっ変なのっ」


「……そ、そうか。まあ、私が聞きたいことは、後でちゃんと説明してくれると助かるけれど。

 つーか、笑いすぎじゃない?ちょっとバカにしちゃったの

 悪かったと思うけど気付こうよ?」

 

 大体頭のネジって表現そんな面白いかな?

 しかし、不思議な奴もいるんだな。引かれなくて良かったけど。

 色々非現実すぎて実際の所頭パンクしそうだけど、何かどうでも良くなりそう……


 冷たく真っ白な空間が、少しだけ明るくなったような気がした。


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