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第十話 幻影は誘う 2

 白紙に360度全方位囲まれたような変な空間に、私はぽつんと浮いている。

 最初に見た割れてしまった空間の向こうは、ここなのかもしれない。

 でも違うか、私がせいらを追って飛び込んだのも白い割れ目だったし、

 ここにつながるとは限らない。

 

 見渡す限り真っ白で、どうしたらいいのか、出口も何も分からない。何も……


 ああ、何か……疲れたな……


 ……せいらはさ、いっつも私の大事な物とか勝手に持っていきやがって。

 今回だって、そうやってわー枕だーちょっと寝てみよーってノリで

 あの子はあそこに居たんだろうけど。


 大体さ、あのタイミングで何で空間崩れるとかいう超常現象が起こるわけ?


 ありえないわ〜


 ……ねえ、せいら。やっぱ片付けサボったりして変な枕を

 ほっといたりした私のせいなんだよね。

 あんたいっつもムカつく妹だけど、悪気はないんだろうなーって。


 やだなあ、こんな気分。

(ニゲタイ)


 ……はい?

(ニゲタイヨ)


 真っ白な眼前がスクリーンの如く、再び見覚えのある世界を写し出す。

 今回は、映像のようなものが目の前にあるだけで、身体はそのままだ。


 うわ、大分前だな。これって、家族でピクニックに行った時の様子じゃん、懐かしい〜

 さっきといい、ここは私の記憶を映す空間、なのか?ってことは、

 変な煙の中に倒れて、回想の世界にいた時から私はこの空間にいたのか。


 季節は今年の春辺りで、穏やかな日差しで明るい景色だ。

 若い緑が眩しい近所の公園で、奥にいる両親の方から走ってくるせいら。


 そこに私の姿は無い代わりに、手前でシロツメクサの花輪を持った誰かの手が、

 幻の向こうの妹へ伸ばす。

 すると彼女は無邪気に微笑んで、花冠に手を差し出した。


 この手はもしかしなくても、私のなのかな。


 よく花冠作って、せいらにあげたっけ、(ムコウニ)


 ……ん!?ちょっと待って、さっきから変な声が

(ムコウニイケレバ、イマノコトハ、カンガエナクテイイヨ)

 どういう、こと? 何か……洗脳、されて……?

(イヤダヨ。ツライヨネ、アスカトモハグレテ、セイラモショウソクフメイ。

 ムコウヘニゲチャエバイインダヨ)


 ……私は、ゆっくりと、幻影とシンクロするように前へ手を伸ばした。

 無責任な自分からも、煩わしい、どうにもならない現実からも、逃げてしまって、

 何事もなかったあの時へ戻れば――ニゲテシマエバ。ココニシカ、イクアテハナイ。


 全身が気だるく、心身共にどろどろに崩れていく感覚。

 後少し、数センチ手を伸ばせば、目の前の幻に手が届く。

 どうして、こんなことをしているか分からない。

 でも、どうでもいい。後、少しで……








「――そっちじゃないよ、夢宮さん」

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