文字を教えて欲しいんだけど?
誤字脱字は諦めて下さい。
ビラビラのドレスの裾を翻して僕は郷の中を疾走していた。
「嫌だぁっ!来りゅなっ!あっち行けっ!あうあうあう~~~」
「待て待て~!」
「そっ…そっちに行ったよ。キャスカ……」
「おっしゃあっ!絶対に捕まえてみせるぜっ!」
僕は現在2人の少年から逃げているのだが、それにはもちろん訳がある。
遡ること数時間前。
「にぇ、にぇ、イグー………お願いがあるにょ!僕に字を教えて欲しいにょ!」
僕を膝の上に乗せながら手元の紙に目を通していたイグーに、字を教えて欲しいとお願いしてみた。
ここ最近、改めて字の大切さが浮き彫りになって来ていたからだ。
「シャワはまだ幼いのだから、そんなに急いで字を覚えなくても良いんじゃないか?」
イグーは手元の紙から僕に視線をうつすと、僕の頭を軽く撫でながらそう言った。
ふぅ……。確かにちびっこボディに引っ張られて、たまに言動や思考回路が幼くなっている自覚はあるけれど、これでも僕は38歳なんですよ。
確かに200歳オーバーのイグーと比べると、幼い部類に入るのだろうけど、字ぐらい覚えられますよ。
「ありぇ?イグーには言ってにゃかったっけ?僕は38歳でしゅけど?」
ドヤァーーーー!!みたいな表情で言ってやったのだが、イグーはキョトン顔だ。
やだ………外した?
「ええ~?」とか「はあっ?」みたいなリアクションを期待していたのに、正直肩透かしを喰らったよ。まさかのノーリアクションとはね。
「えっ……ええっとぉ……。イグーは僕にょ年齢を聞いても、余り驚かにゃいね?」
「ん?まあ、それ位の年齢ではまだまた子供の部類だからな。竜族では……だけどな」
へぇ……そうだったんだ。いや、待てよ?ならばエルフは30歳越えたら大人って事にすれば………って、無理あるな。
だってこのちびっこボディでは、大人だって主張しても説得力に欠けるからね。
「だが確かにシャワは、普通の竜族の38歳よりは大人びているとは思うがな」
「ふえっ!!ほっ…ほんと?」
「ああ。俺がお前位の時は、遊ぶ事と食べ物の事しか考えてなかったからな」
「そうにゃんだ………」
イグーって割りと大人びているから、クールな幼少期を過ごしているとばかり思っていたけど、結構普通な感じだったんだ。
「う~ん……それを踏まえて考えると、字を覚えさせても問題は無いのか?シャワ自身も覚えたいって言っているし…………」
おお、イグーが葛藤している。これはもう一押しって所かな?
「そうなにょ!僕は字を覚えたいにょ!良いでしょ?教えてイグー!!」
必殺っ!!上目使いでウルウルお目目攻撃だっ!
こ狡いって?知るかっ!こちとら必死なんだよ。
えっ?38歳のキモオタが何やってんだって?安心してください。現在の僕の見た目は(自分で言うのもキモイですが)美の女神に寵愛を受けたような、麗しい美貌のエルフ幼児ですよ? なので 全く問題無い訳です。
「うっ…………………。シャワよ、そんなに純真な瞳で俺を見詰めるな。駄目だと言えなくなるじゃないか………」
ふっ……。やはりイグーには効果抜群だったよ。
悪いねぇ…今の僕は純真じゃなくて、狡猾なんだよね。ふっふっふ。
「お願~い!!」
「分かった……分かったから……ふぅ………」
だめ押しに懇願したら結局は折れてくれたイグーって本気でチョロ過ぎない?
って事で、最初はイグーに字を教わる事になったんですが、ハッキリ言ってイグーは人に教えるのは余り向いていないらしく、恐ろしく説明が下手であった。
おまけに僕の理解力は人並みだと思っていたのだが、どうやら人並み以下だったらしく、一向にこの世界の文字がミミズがのたくった姿にしか見えない。
流石にこれではいつまで経っても僕が字を覚えることが出来ないと判断したイグーによって、とある場所に連れてこられたのであった。
それは、この竜族の郷の中にひとつだけある、教育施設……まぁ、いわゆる学校みたいな場所に連れてこられた。
どうやらここで文字を教えてもらうみたいだ。
「おい。フィアー居るか?」
遠慮も何もない感じでイグーが学校の扉を勝手に開けて部屋にズカズカ入って行く。
うわあ……。不法侵入罪とかは、きっとこの世界には無いんだろうけど、常識的に考えてまずはノックとかしないで良いのかな?
因みに僕はいつもの定位置である、イグーの腕の中からちゃっかり周りの様子を確認しちゃっていたのだけど。
「ちょっと、イグニス?貴方がここに来るなんて……。一体何の用かしら?」
片目にモノクルを掛けた女性が、腕を組みながら冷静にこちらを値踏みしてくる。
「ん?ああ、俺は別に用は無い」
「では出てけ」
イグーが用が無いと言った途端に間髪をいれずに、出て行けって言われてしまいました。
違うんです……確かにイグーがここに用がある訳じゃないのですが、僕には用があるんです!!
「フィアーはいつもツンケンしているな。確かに俺は用は無いが、シャワにはあるんだ」
フィアーさんの塩対応にも全く動じないイグーは、そう言うとフィアーさんの視界に僕が入るように抱き位置をかえた。
「あら?あらまあっ!この子の尖った耳、白磁の肌に銀糸の髪………間違いなくエルフね。しかも幼体!珍しいわね?どうしたの?」
「あー………拾った」
さっきまではまるでこちらに興味が無い様な塩対応だったのに、フィアーさんは僕がエルフだと分かると、目を輝かせながら近付いて来た。その変わり身の早さに若干イグーも引いていた。
「どっ…どこで拾ったのかしら?まだ他にも居るのかしら?ねぇ?ねぇ?」
「…………‥落ち着けフィアー」
どんどん近付いて来る笑顔のフィアーさんを、イグーが腕力で押し止める。
「あん。………イグニスのケチ野郎!」
「シャワが怖がってるから本気で止めろ!いいな?」
そのイグーの言葉に、僕は自身がピルピル震えていた事に気付いた。
自分でも気付かぬ内に笑顔のフィアーさんに恐怖を感じていたみたいだ。
「あら残念。うふふ…貴方はシャワちゃんて言うのね?お姉さんはフィアーって言うのよ。ヨロシクね?」
「はっ……はひっ!よろしくお願いしましゅ……」
はっ…恥ずかしい。声が裏返ってしまった。
それにしても……フィアーさんは顔は笑ってるのに、目が全く笑っていない気がする。やっぱりちょっと怖い。僕の苦手なタイプかも。
「それで?このエルフのシャワちゃんがここに用があるって何かしら?」
やっとフィアーさんの視線が僕からイグーへと戻り、ホッとひと安心だ。
「ん?ああ、シャワが文字を覚えたいって言ったから、ここへ通わせようと思ってな」
「ええっ!?この子まだ幼体じゃない。後……そうね、2、30年後でもよくないかしら?この位の年齢じゃあまだ字を覚えるのは無理だと思うし?」
うひゃっ!またフィアーさんの視線が僕に向けられて、背中がゾワゾワします。咄嗟にイグーにしがみつく。アワアワアワワ……。
「知能云々ならば問題ない。滑舌は悪いがこちらの言う事はちゃんと理解しているし、学びたいという気持ちもちゃんと持っているからな」
「ふーん。じゃあまずは試しますか。こんなに幼いのに部屋で静かに座って居られるかを確認させてもらうわ。それが出来るようでしたらここで文字を教えて差し上げます」
うん……まぁそうだよね。もちろん試すよね。学ぶための場所で騒がれたりしないかって、そりゃあ心配ですよね。
でも本当の子供じゃないから、ただ静かに座っているってのは僕には楽勝だよ。
「シャワ?静かに座ってられるよな?」
イグーがちょっと心配そうに聞いて来たので、高らかに返事をしてやった。
「あいっ!!」
シュバッと片手を上げて元気に返事をしたが、決まらなかった………「はい」って言ったつもりだったが、僕の口から出たのは「あい」だったからだ。
恥ずかしっ。
顔を紅潮させながらも僕は取り合えず空いている席に座らせてもらい、家から持ってきていたお絵かき帳とクレヨン(みたいな物)で、静かに絵を描いて時間を潰したのであった。
予想外に長くなってしまい、やむなく話を分断しました。
次回はこの続きからです。
最初に出てきた少年2人組は、以前にもチラッと出て来ていたあの2人組です。
若干小生自身も忘れかけて居たのは内緒です。




