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駄エルフさんと無限袋

「そう言えば聞きたかったんだよねー」


日が傾き、あたりが薄暗くなった頃。

ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。


駄エルフがポケットから本を取り出した少年に聞く。


「少年のポケットは、無限袋なのかな?」


無限袋とは、その名の通り無限に物を入れれるとされる袋だ。

もっとも、実際のところは有限であり、その総量は込められた魔力による。

地下迷宮等で見つかる物だが、その出来方は既に判明している。

それは非常に簡単で、一部の迷宮内に長時間袋を放置しておくだけである。

異空間である迷宮の魔力を長時間受けることで袋自体が迷宮化、異界化するのだ。

なので見つかる無限袋は、過去の冒険者達の持ち物だった事が多い。


現代では自らの手で無限袋を作る者たちもいる。

ただし袋の異界化には100年単位の時間が必要とであり、その100年程度では容量が倍になる程度でしかない。

そこから更に容量を増やそうと思うと、また100年単位の時間が必要だ。

容量も100年単位で倍に増えていく感じだ。

また、迷宮の魔力に馴染めず破けてしまったり、逆に馴染みすぎて魔物化する袋もある。

そんな風に時間と手間がかかるため、作っているのはエルフをはじめとした長寿種族が殆どである。


「ええ、500年物の無限袋です。ちょっとしたトランク位、物が入りますよ」


「ポケット以外もその服は魔力を感じるね。『保存』『修復』『身体強化』……他にも幾つかあるけどちょっと分からないかな」


「凄いですね。魔力を感じるだけなら兎も角、その内容まで分かるんですか」


魔力を感じたり、その魔力が何の属性かまでは分かる人は多い。

だが、魔力でどのような効果があるのか分かる人は極端に少なくなる。

古代秘宝(アンティーク)課でも二人いるだけだ。

それも、効果の方向性が分かるだけで、効果そのものは分からないのだ。

分かるのならDEシリーズにこれ程苦労はしない。


「駄エルフさん、そんな能力があるのならあなたの古代秘宝(アンティーク)、自分で調べませんか?」


「嫌だよー、面倒くさいし。それにあげた時に、調べるのは少年達に任せたよね。思い出した分だけでも教えてるんだし」


駄エルフの古代秘宝(アンティーク)は今の生活と引き換えに殆ど譲渡した。

使い方を忘れた物ばかりだし、覚えていた物も個人で持つべきではないと駄エルフ自身が判断したからだ。

使い方は忘れていても、どういう意図で集められた物かは覚えていた。

あれらは各々が特定の魔物と戦うための物だと。

だから、2000年経っても呪いの影響下にある自分……もう戦えない自分が持つべきではないと判断したのだ。


「でも、こんな位で驚かれるなんてね。難しくはあるけど、珍しいものではなかったんだよ」


「時間は発達だけでなく、取りこぼすものもあると言う事ですね」


少年の今言ったことは良くある事だ。

自然に廃れたものから人為的に排除されたものまで。

効果感知の場合、会得が難しい故に一部の人達で受け継がれる技能となっていた、


「じゃあ、こういうのはどう?『ーーーー』」


少年は駄エルフが何かを唱えたのを見た。

いや、魔術に必要な『魔詞(のりと)』だと言うことは分かる。

少年も多少は魔術を使うことが出来る。

今の世の中、全く使えない方が珍しい。

なのに理解できない『魔詞(のりと)』。

恐らくは唱えた本人にしか分からない、特殊な『魔詞(のりと)』なのだろう。


「これが魔法……」


駄エルフと過ごすようになって半年。

魔法を使える事は知っていたし、使った所も見たことがある。

しかしこうやって、少年にも分かるように使うのは初めてだ。

普段はちょろと使う。

出かけるのを嫌がって、蔦を生やす魔法で自分を縛ったり。

起きるのを嫌がって、氷魔法の棺に閉じ籠ったり。

……ろくな事に使っていない。


それにしてもこの魔力量はなんだ?

駄エルフが唱えたのは自分達からすると非常に短い『魔詞(のりと)』だ。

だが、自分が使う魔術なんかとは魔力の流れる量が違いすぎる、

少年は目の前の事が信じられなかった。

ありえない事だと思った。

幻覚じゃないかとさえ疑った。

だって普段はあんなに駄エルフなのに。


魔法を使う姿が格好いいだと?


そして駄エルフの魔法が完成する。

目の前に浮かぶ黒い何か。

見たことがある物だ、主に自分のポケットで。


「異界の穴ですよね、それ」


「そう、これこそが本当の無限」


この世界で異空間収納の技能を持つ者は、最新の情報で12人だと言う。

しかしその殆どが魔術で再現した物であり、魔術のそれはとても無限とは言えない物だった。

無限と言えるのは『最東の賢者』と12人目の『白い少女』。


そして13人目の駄エルフさんですか。

いえ、王女と言うべきなのでしょうか。


初めて会ったときに見た寝顔。

先程の『魔詞(のりと)』を唱えていた時の姿。

うん、自分から名乗ったとは言え、いつまでも駄エルフでは酷いですかね。


「凄いですね……いえ、流石ですおうj……あれ?」


駄エルフは真っ青になっていた。

プルプル震え、今にも気を失いそう。


「だ、大丈夫ですかっ」


「……あ……あのね、怠惰の呪い……嘗めてた……」


「え?」


チャリンと音がした。

異界の穴から何かが落ちるた音だ。

金色の丸い物体……それは見たことのない金貨だ。


「えっ、ええーっ」


二枚三枚と金貨が落ちる。

チャリンチャリンがヂャラヂャラに。

金貨だけでない。

短剣やゴブレット、燭台、絨毯と色々落ちてくる。


「まさかこれは落ちてるんじゃなく、こぼれてる?」


そう、異空間収納でしまってあった物が、異界の穴からこぼれていた。

駄エルフが意識を失いかけたことで、制御も失っていたのだ。

ちなみに、金貨は異空間収納の魔法を覚えた後の物で、ギルドに預けてあったものとは別だ。

たぶん駄エルフが忘れているだけで、もっと色んな手段で、色んな場所に、駄エルフのお金は眠っている。


「ちょっとっ。駄エルフさん、ちょっとーっ」


少年は駄エルフを揺する。

おっぱいがバインバインだ、眼福である。

って、そんな場合じゃない。


「気絶するならその前に、異界の穴の制御をーっ」


結局、駄エルフは駄エルフだあり、駄エルフでしかなかったのだ、

少年も駄エルフの呼び方を改める事はなかった。

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