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駄エルフさんとお金

「ふええええ、もう疲れたー、腕が痛いー」


今日の駄エルフは何時もと違った。

愛用のクッションを使っていないのだ。

駄エルフとあのクッションはセット。

駄エルフとあのクッションは一心同体。

むしろあのクッションが本体じゃ?

ああ、あっちのクッションが駄エルフか。

……じゃあ、こっちの駄エルフは何エルフだ?


アントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。

駄エルフはちゃぶ台に置かれた書類の必要事項を書き込んでいた。


「黙って書いてください。基本的に名前を書くだけじゃないですか」


「名前だけって、私の名前結構長いんだよ」


確かに駄エルフのフルネームは長い。

どれぐらい長いというと、キュビスムの創始者として知られる画家の人より長い。

流石にジュゲムよりは短いが。

長くて面倒臭いので今ここで公開はしない。

決してきちんと決まっていない訳ではない。


いや、ホント。


「でもエルフの人のフルネームは長いと聞いていましたが本当に長いですね」


エルフの名前は今ではほぼ使われないエルフ語だ。

それを現代語に訳すと一つの文章となっている。

どこの士族の父と何処の士族の母が、何処で出会って、何の祝福を受けて結ばれたか。

その二人の間に何時産まれたか。

どの精霊の加護を受けているか。

持っているスキル……等。


『私こと一郎は東京産まれの田中太郎と大阪生まれの山田花子が名古屋で出会い天照大神の祝福を受けて結婚し3月12日に生まれてキリスト教の洗礼を受けました。普通車亮免と英検2級を持ってます……』


分かりやすく例をあげれば、だいたいこんな感じだ。

はっきり言って個人情報大開放である。

さらに言うなら駄エルフの名前は古代エルフ語で、同じ意味の単語でもエルフ語よりも長かったりする。


「やっと終わったよ……」


名前を書き終わっただけで憔悴していた。

名前は通常の欄だけで書ききれるものではなく、裏面に回っていた。

その裏面も最初から最後まで見ると、徐々に文字が小さくなっていることが分かる。

それでも裏面を端から端まで使いきっていた。


前言を撤回する。

ジュゲムよりも長いです。


「ご苦労様でした。後こちらとこちら、そうそうこれにもお願いしますね」


「ふえええええええええっ」


役所の書類とかって、同じ事を何度も書かせたりするよね。


◻◼◻


「ああー、手がパンパン。あんな長い名前にしたお父さんを殴ってやりたい」


「これぐらい我慢してください。この書類で今後はあなたの口座が、自由に使える様になるのですから」


2000年寝ていた駄エルフに、銀行の口座が有ることが分かったのは、つい先日のこと。

その日、少年に冒険者時代の事を話していた。

冒険者は冒険者ギルドを中心として活動していた事。

冒険者ギルドから依頼を受け、報酬を貰い、素材や必要備品の売買を行う。

その話の流れで駄エルフはひとつ思い出した。

冒険者ギルドにお金を預けていたのだ。


「勿体無いことしたわー。これでも冒険者として結構成功していてね。持ちきれないぐらいのお金持っていたんだ。必要な分以外は預けていたけど流石に2000年前じゃねー」


当時のお金に未練のない駄エルフが、それを笑い話として終らそうとした。

少年も「それは勿体無いですね」と一緒に笑おうとして気付いた。

冒険者ギルドは駄エルフはが眠りについて暫くして解散した。

冒険者が様々な専門職になった様に、冒険者ギルドも様々な機関となったのだ。


そのうち一つが『銀行』だ。


少年は一応調べてみた。

少年は駄エルフに関してなら、そう言うこともできる権限を持っていた。

伊達にスーツにネクタイじゃない、特殊な公務員様なのだ。


結論として、前途通りに口座が見つかった。

銀行の頭取が代々エルフだったのも、早い発見に繋がった。

駄エルフは、古くからのエルフには有名なのだ。

今の頭取は駄エルフの時代からは孫世代だが、おじいちゃんの昔話で聞かされていた。


2000年という時間の流れ。

それは人間の間では風化し消えてしまうことは多々ある。

しかし、人の10倍の寿命を持つエルフには、消えてしまうほどの風化とはならなかった。

程無くして口座に対する書類は出来上がった。


ちなみに駄エルフは原初(ハイ)エルフであり、寿命はさらに長い。

さらには眠りについたことで、寿命の消費も最小限であった。

若干目の方は、時間の流れに勝てなかった様だけど。


「へー、驚きだね。あの頃は預かってもらうのに手数料払っていたじぇど、今は預けたら逆にお金が貰えるんだね」


駄エルフは銀行の書類に目を通す。

今はちょうど金利の事が書かれた部分だ。


「どーれぐらい増ーえたのかなっ」


お金に困っているわけではない。

眠りにつくときに持っていた色々なアイテムが、現代ではかなりの価値を持ったものばかりだったからだ。

単純に高性能だったり、骨董価値だったり、今では作れないものだったり。

しかし、無くなったと思っていたものが見つかり、さらにはそれが増えているのだ。

嬉しくないわけがない。


書類の最後に、駄エルフの預金残高が書かれていた。

それを見て駄エルフは首を傾げる。

今の時代の通貨価値がよく分からないのだ。

数字が羅列されていても、それでどれぐらいの物が買えるか分からない。

少年は不躾だけど……と思いつつ、駄エルフの背後から書類を見る。


そして固まった。


駄エルフのお金には利子がついていた。

その期間、1000年以上。

平均すると年間0.63%。

単純に630倍。

利子で増えた分にも利子がかかってさらにドン。


何より元々駄エルフが預けていた金額。

それ自体が『結構成功していた』レベルではなかった。


見たことのない金額が、そこには書かれていた。

国が動かせるレベルだった。

一度に動かせば社会が混乱するレベルだった。


「ねー少年。これってあのクッション幾つぐらい買えるんだい?」


少年に答える事はできなかった。

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