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駄エルフさんと女子会11

えっちゃん。

ネーイ。

駄エルフでも、Sなアシと鼠耳アシのお互いの呼び方とは分かっている。

分かっているがが一応。


「わたしがえっちゃん」


「……僕がネーイ。お互いのあだ名ですよ」


ちなみに『えっちゃん』も『ネーイ』も名前の略称ではなかったりする。

『えっちゃん』は昔の口癖からで『ちゃん』までがあだ名だ。

だから『さん』付けするときには『えっちゃんさん』である。

『ネーイ』の場合は元々は名前のもじりだった。

だがそこからの派生を繰り返した結果、元の名前がなくなったパターンだ。


「へー。いいね、それ。私もそう呼ぶね」


「別にいいよー。特別な呼び方って訳でもないしね」


昔からの呼ばれ方だ。

同僚も親しい娘は「えっちゃん」と呼んでいる。


その隣で鼠耳アシことネーイが思案顔。


「あれ、ダメ?」


「……いいえ、あだ名で呼ばれるのはいいのですけど……」


なら、何の問題が?

お互いでしか使わない特別な……というのならまだしも。


「……駄エルフさんに、名前で呼ばれた覚えがないなって」


駄エルフは露骨に視線を外した。


二人を呼ぶとき、駄エルフは『君たち』とか『あなた』と呼ぶ。

ネーイの言う通り名前で呼んだことがない。

と言うか、少年もどら子もあだ名だ。

きちんと名前を呼ばれているのはオードリーだけである。

そのオードリーも駄エルフが名付けた名前だが。


Sなアシ……えっちゃんが気付く。


「あ、駄エルフさん……わたしたちの名前、覚えてないな」


「……初めて会った時、自己紹介しましたよね?」


世の中、顔と名前がなかなか一致しない人がいる。

名前を覚えられない人がいる。

駄エルフがモロにそれである。


「だって、今みたいに仲良くなると思ってなかったし」


実際、駄エルフに会ってきた人間は事務的なやり取りだけだ。

例外は少年だけだった。

半年間もそんな状態だと自身のおかれている状況も察することも出来る。

だからえっちゃんとネーイにしても本当にただのアシスタント。

そんな認識していなかった。

今さら友達が出来るとは思ってなかったのだ。

もっとも、彼女達の意思だけで友人関係になったとも思っていないが。


いや、彼女達の本心には嘘偽りはないと思う。

それぐらいはこれまでの付き合いで分かる。

だが、彼女らの意思を誘導した者ぐらいは居るだろうな、とも思う。

古代秘宝(アンティーク)関連か、過去の仲間達関連か、はたまた魔王関連か。

彼女らを通して何らかの情報を得たいのだろう。

ご苦労様なことである。

彼女達に引き合わせてくれたことには感謝するけど。


「今さら名前を聞けないから、わたしたちの呼び方に便乗しよう……って感じ?」


「まあ、そうなんだけどね」


「……じゃあ、改めて自己紹介を……」


ネーイの発言に駄エルフは首を降る。


「いいよ、メンドイし」


本当に苦手なのだ。

自分の名前を覚えるので精一杯なのだ。

その名前も新しいスキルに目覚めると長くなるし。


「ひどっ」


「酷いかなあ? あ、だったら私の名前を覚えるのなら努力するよ。全部、ちゃんと覚えるなら」


「うっ……」


「……あう……」


二人は駄エルフの名前は仕事の関係上知っている。

職場だとDEシリーズ001とか王女で済ましてはいるが。

とんでもなく長いことを知っている。

それに長いだけじゃなく古代エルフ語で発音も難しいのだ。


「後ね、私の名前は最近も長くなってるから」


テイム系スキルを覚えて名前が長くなったのはオードリーが動き出した直後。

実はそれ以外でも目覚めてから単語五つ分ほど長くなってたりする。

駄エルフはスキルを得やすくなるスキルを持っていたりするのだ。

戦う気も働く気も無いのでスキルが増えても邪魔なんですけど。

駄エルフは常々そう思っている。

チート能力があっても本人にやる気がなければこんなもんである。


「駄エルフさん、わたしの事はえっちゃんって呼んでね」


「……分かりあっていれは、今さら自己紹介は必要ないですね」


「うん、名前なんて些細な問題だよね」


妥協と言うのは必要なことです。


「でも良かったよ、本当に。何時までも君とか呼ばわりもなんだったし、脳内での呼び方もどうだかなーって感じだし」


「へー、そんなのあったんですか」


「……僕、ちょっとそれ気になります」


言ってみれば駄エルフのつけたあだ名だ。

気になる。

それに、それで呼び続けたのならそれでいいのではないかと思う。


「え、たいしたものじゃないよ?」


「いいから教えて下さいよー」


うーん、と少し考えたあと、まあいいかとネーイを指差す。


「鼠耳アシ」


「……」


あだ名ってやつは色々とワクワクするものだ。

あだ名は自分をどう思っているかも分かるのだ。

何処に注目しているかとか。

何処を見ているかとか。

どう感じているのかとか。

そして名付けたあだ名でセンスも分かる。


そのまんまだった。

見たまんまだった。


沈黙するネーイを他所にえっちゃんを指差す。


「Sなアシ」


「何それっ、何か酷くない!?」


鼠耳アシはそのまんま過ぎて分かりやすい。

だが、何でそれが自分のことなのかえっちゃんには分からない。

Sって何だ?

サイズ?


「だって、ネーイの困る顔を見て喜んでたよね」


「うっ」


自覚はあった。

だって、それが一番可愛い表情だと思うし。

ネーイの方をみるとジト目だった。

うん、これはこれで。


「……今後はネーイでよろしくお願いします」


鼠耳アシなんてあだ名と言うより代名詞だ。

それならネーイと呼んでほしい。

ネーイは自分ためだけの呼び名だから。


「わたしもえっちゃんで。もし外でSなアシって呼ばれると恥ずかしすぎる」


性癖を言い触らされているようなものだ。

いや、Sじゃないけどね。


「そして私は駄エルフ。それ以外で呼んでも今後は返事も反応もしないから」


えっちゃんは思う。

やっぱり駄エルフと呼ぶのはどうなんだと。

呼ぶ方も呼ぶ方で恥ずかしいし。

だって駄エルフだよ?

どっからどう聞いても悪口だ。

Mなのかな、この人は。

それでもまあ。

呼んでというから呼ぶけれど。


これが三人の自己紹介。

今さらながらの自己紹介。


この後三人の女子会は日付が変わるまで続いた。

たわいない内容だった。

それでも充実していた。

それだからこそ、かもしれない。


駄エルフが起きていることを限界ギリギリまで頑張ったのは、初めてのことかもしれない。

鼠耳アシ、Sなアシからネーイ、えっちゃんに変わるための話でした。

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