駄エルフさんと女子会10
「ありがとう、おりがとうっ!!」
号泣の駄エルフ。
彼女は許されたのだ。
その罪を。
その悪行を。
許してくれた天使な二人に感謝を。
同時に誓う。
二人に何かがあれば必ず助けると。
如何なる時も生涯味方であると。
その二人はひきつった笑みを浮かべる。
重かった。
ひたすら重かった。
今回のは生涯を誓うようなことではない。
ドン引きしたことで冷静になった頭で考える。
もしここでここで喧嘩別れしていたとしても、だ。
その時はその時で冷静になったときに気付くはずだ。
駄エルフに常識がないことに。
やらかした事も植え付けられた変な常識……非常識が原因だと。
間違ったことをやらかしたのなら、それを正すのは友達の役目。
最初は気まずいだろうけど、また友達に戻っていた自信もあった。
だからここまで謝られると逆にこっちが申し訳ない。
過剰に反応しすぎた事でこっちが謝る結果もあり得たのだし。
「もういいですからっ。十分反省しているのは見て分かったし」
「……間違ったことをしたら僕とえっちゃんが止めますよ」
「ありがとう……どうも私、今の常識と違うところがたくさんあるみたいで……」
これまでは駄エルフと少年だけの小さな世界だった。
それでも、少年は少年で非常識なところは正していた。
だが、一人で目が届く範囲はたかが知れている。
それに、少年自体がどこか常識からずれているところもあるのだ。
本人は否定するだろうが事実である。
また、女性目線から常識外れな部分は少年には分からない。
今回の女性への過度なスキンシップやキスは少年は 何時までも気付かなかっただろう。
あれはかつての仲間達が駄エルフを気に入りすぎて植え付けらた非常識だった。
とんだ地雷が埋まっていたものだ。
まだまだ見付かっていないものもありそうだが。
「取り合えず、もうあんなことはしないでね」
「……したい時は係長にすればいいんですよ、キスなんて」
「何で少年に? しないよ、そんなこと」
「ひえっ?」
「……はい?」
「?」
全員が止まる。
どうも少年の事で食い違っているところがあるらしい。
鼠耳アシが恐る恐る聞く。
「……係長と付き合ってないのですか?」
「なんでそう思ったのかな?」
それは職場で噂になっていたことだった。
あの係長が世話をしている相手。
駄エルフは監視対象ではあったが、そう言う関係になってはいけない規則はなかった。
寧ろそのような関係の方がメリットがあるとさえ考えられている。
鼠耳アシは駄エルフを世話する少年を見て半ば確信していた。
ちょっと今回の疑惑で確信が怪しくもなったりもした。
だがそれも、最初に百合な人か確認して違うと分かった。
そして女同士のキスはカウントされないとの発言。
逆にカウントされるのもしていると思った。
妙に馴れたディープキスだったし。
そして駄エルフの回りに男は少年しかいない。
結果、付き合っていると確信してしまっていたのだ。
「び、びっくりしたー。そんな発想無かったから。ネーイはそんなこと考えてたかー。自信満々だからわたしはそんな事も気づかないほど女子力が低いのかと」
Sなアシは付き合っているとは全く思っていなかった。
噂は聞いたことがある。
だが、彼女は少年の次によくこの家に来る。
駄エルフと少年のセットを一番見てきた人間だ。
二人はそんな関係ではないと見て理解した。
噂は噂に過ぎないなーとも。
「付き合ってなんかいないよ。そりゃ少年には感謝はするけどね。私は一人で生きられるほど器用じゃないし」
別に一人で生きるのを器用とは言わないと思うが。
普通は必要があれば何とかするものだし。
だが、駄エルフとなると納得するしかない。
確実に孤独死コースだ。
「だいたい、私は今まで誰かと付き合ったことなんか一度もないし」
「えっ?」
「……え?」
駄エルフの告白。
駄エルフを見ていれば『まあ、そうだよな』とは思う。
だが、駄エルフは2000年以上生きている。
だったら……と思わなくもない。
間違いでもそれだけ生きていればあるんじゃないかと。
「信じれないかな? あ、そうだ。証拠があるよ。自分でも見たことないけど」
駄エルフがオードリーの上で両足を少し開く。
まだ駄エルフ達は裸にバスローブだ。
ちょっと開けば見せることはできるだろう。
具体的には言えない部分を。
「……?」
鼠耳アシは何の事か分からなかったようだ。
「はしたないから止めなって」
こっちは分かったようで顔を真っ赤にしながら駄エルフに脳天チョップ。
流石に駄エルフも冗談だったらしい。
叩かれた頭を押さえながら舌を見せる。
「……あっ……」
駄エルフが足を閉じるのを見て、鼠耳アシも駄エルフの冗談の内容に気付く。
「……」
脳裏には風呂で見た駄エルフの裸。
特に見えてしまった一部分。
そしてその先まで想像しそうになって首を降る。
顔はこれ以上ないぐらい真っ赤だ。
駄エルフはそんな彼女を見て「可愛いなー」と呟く。
そんな駄エルフを見てSなアシはセクハラだよなーとか思うものの、駄エルフに同意する。
忘れられ口だが彼女はSなアシ。
鼠耳アシの困った顔が好きなのだ。
「でも、駄エルフさん。係長の好意は分かってるよね」
見てきたから分かる。
少年の持つ駄エルフへの好意は一目瞭然だ。
それは色々と駄目なエルフの目からも。
「そりゃ……ね」
少年は性欲のこもった目を隠そうとしない。
流石に職場では隠しているのでアシ二人はこの家で驚いたりもしたが。
でも、二人にはこの家でもそんな目をしない。
向けるのは駄エルフだけだ。
まあ、色気が駄エルフよりも足りないのも理由かもしれないが。
でも、その目もカモフラージュ。
その奥にある気持ちに駄エルフは気付いている。
でも、隠しているつもりのようなので気づいていないふりをする。
自分からは物語を進める気はないのだ。
「そうだ、気になったんだけど」
駄エルフが露骨に話を変える。
その件には話すことはない。
話す気もない。
「えっちゃん、ネーイって何かな?」