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駄エルフさんとエルフ

「今日は良く動いたー、もう歩けなーい」


何時もの様に愛用のクッションに倒れこむ駄エルフ。

駄エルフはこのクッションの上で、一日のほとんどを過ごす。

寝ても覚めてもこのクッションの上。

ただ怠けているだけに見えるが、一応怠惰の呪いの影響だ。

一日の半分以上寝て過ごすのも。

一日に立って行動できるのが数時間なのも。

もう一度言っておく。

呪いの影響である。


一日中クッションの上に居るが、きちんとカバーは毎日交換している。

曜日で色を変えている程だ。

汗で汚れたものを使い続けるなんて、飼育係の少年が許さない。

いや、適度な体臭はむしろいい匂いですけどね。


アントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。

少年は今日買って来た物を広げていた。

足りなくなってきた食材や調味料。

本来は獸人向けの服や下着。


食材等は冷蔵庫などのあるべき位置に。

服や下着は洗い方のチェックだ。

自分の衣類なら適当に洗うだけだ。

しかし買って来た服や下着は、そのさわり心地だけでそんな扱いは冒涜になると理解した。

取り扱い方は熟知しなければならない。

それが駄エルフのおっぱいを守ることにも繋がる。


「それにしても何だろう、この大きさは」

買って来たブラのうち一つを、目線の高さまで持ち上げる。

視界いっぱいに広がる薄い緑色のブラ。

駄エルフが最後まで悩んだ奴だ。

ブラより先は何も見えない。

ブラってこんな物だったろうか?

記憶の隅にある姉のブラを思い出す。

流石に姉のブラを洗ったり畳んだ事は無いが見たこと位はある。

うん、違う。

姉のはこんな風にメロンやスイカを持ち運べそうな大きさじゃない。

精々ミカンレベルだ。

すると何か。

駄エルフのわがままなおっぱいはスイカレベルか。


「少年が気持ち悪い」


おっといけない。

少年は買って来た衣類を洗濯籠に入れる。

衣類は殆ど洗濯機でオッケー。

下着は……手洗い。

一度は駄エルフの肉を包んだ下着を手洗いか。

ゴキッゴキィッ。

腕がなるぜぇ。


「やっぱり気持ち悪いぞ少年」


◻◼◻


下着は全てぬるま湯で優しく手洗いしてきた。

今は窓を開けた脱衣場に干してきた。

少年の顔は何かを成し遂げた大人の顔だった。


「そう言えば本当に獸人や亜人が、普通に暮らしているんだね」


「そんなに珍しい事ですか?」


だいたいのアントリア大陸では人族とその他の人種の人口比率は一対一だ。

違うのは最西のカツーや最東のエンドゥぐらいか。

そこにしても人種差別があるわけでもない。


「んー、かなり国ごとに偏見が凄かったからねー。と言うか自分の国の種族至上主義だったよ」


2000年前は人は人の、エルフはエルフの、獸人にいたっては何の獸人かごとに別れているのが普通だった。

他国の種族は奴隷にしてもいいと法で定めている国さえもあった。


「だからいっつも何処かで戦争があったなー」


「戦争ですか。もう100年ぐらい起きてませんよ。駄エルフさんも他の種族に何か思うところが?」


「旅に出る前はね。でも旅に出て冒険者として生活してると、そんな考えじゃやって行けなかったよ。完全な実力主義だからね」


「冒険者ですか。おとぎ話の中のお話ですね」


今の世の中、自らを冒険者と名乗る者は居るが、職業冒険者は居ない。

地下迷宮や魔境、魔物討伐等、かつて冒険者が引き受けていた仕事はまだある。

しかしそれらは細分化され、それぞれの専門家が引き受けている。


「何でも屋さんの冒険者が、何でもが出来なくなった世の中なんだねえ」


「オールマイティーよりも、今はスペシャリストが必要なんですよ」


「そう言う物ですかー。あ、聞いてなかったけど、今の世の中ってエルフはどうしているだい?獸人やドワーフとかは街でも見かけたけど」


「エルフですか……それこそ神話や伝説、おとぎ話の世界ですよ」


「えっ?」


「何時か言わなきゃと思っていた事ですが……駄エルフさん、今聞いてもらえますか?」


真面目な表情の少年。

そこにブラをいじって気持ち悪い少年は居なかった。


「ええ、聞くよ。エルフに何があったんだい?」


◼◻◼


1500年ほど前。

アントリア大陸には世界国家アントリアと一部の弱小国家があるだけだった。

その弱小国家の一つがエルフの国だった。

みんなで協力していこうという世界国家に対して、エルフの国はエルフ至上主義を貫き通した。

一時期、一触即発の危機にまでになったが戦争は起こらなかった。

エルフの国は鎖国を行ったからである。

それも結界魔法で次元的に隔離して。

以降今までその結界が解かれた事はない。


◻◼◻


「……そう」


脳裏に浮かぶ数々の顔。

その中には両親のもあった。

あの頑固頭……最後には世界から隔離しちゃったか……


「じゃあ、少年は私が初めて見たエルフなんだね。どうだった、神話や伝説、おとぎ話の住人に出会えて?」


「はぁ?」


そこには真面目な少年も、気持ち悪い少年も居なかった。

居たのは『何言ってるんだ、この駄エルフは?』と言いたげな少年だ。

とても残念なものを見る目だ。

あれぇ?


「エルフなら、週に一回は見ますよ。土曜日にはショッピングモールでライブしてますし」


あれぇ?


「だって、エルフの国は鎖国したって」


「はい、エルフの国は鎖国しましたよ。でも駄エルフさんの様に冒険者だったり、鎖国に反対して国を出ていたエルフはそれなりに居ますよ」


「じゃあ、神話って」


「老いを知らず、何時までもその美貌が絶えないアイドル達。中には300年以上トップチャートにいる方さえも。それが神話や伝説、おとぎ話ではなく何だって言うんですか?」


それだけでなく、老舗と言われる会社等のトップには社長や会長として、エルフがいるのも珍しくないのである。


「え、ええー。じゃあ、私は?」


「駄エルフさんは駄エルフですから」


そう言った少年は、真面目でも、気持ち悪くも、残念な物を見る目でもなかった。

それはとても優しい、普段なかなか見ることの無い表情だった。

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