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鼠耳アシスタントの決意

「いらっしゃい」


「……お、おじゃまします……」


「あれ、珍しいですね。てっきり……」


ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。

そこに、鼠耳アシが遊びにきた。


別に彼女が遊びに来るのは珍しくはない。

週に1、2回はやってくる。

だが、何時もはもう一人、Sなアシと一緒にだ。

どら子が苦手な彼女は一人で来ることはなかった。


それが今日、彼女は一人で来ていた。


「今日はお一人なんですね。一人分多く夕御飯を作ってしまいました」


「……ごめんなさい、ハッキリと言うべきでした」


鼠耳なアシは頭を下げる。

何度も何度も。


「いえいえ、こちらの勘違いなのですから、そんなに頭を下げないでください」


鼠耳のアシが来ると言うことはSなアシも来る。

Sなアシが来ると言うことは夕御飯を食べていく。

だから普段より一人前多く作ると言う流れが少年には出来ていた。


よくよく考えてみると、鼠耳な彼女から『おうちに行きたい』と言われたのは初めてだ。

何時もだとSなアシから二人で行くことを伝えられていた。

思い直せばあれは一人で行く決意表明だったのかも。

ここに来ることぐらいに決意表明も何もないと思うのですけどねえ、と少年。

そこまでしないと逃げてしまうぐらい、どら子が苦手なんでしょうか。


「一食分ぐらい、どら子さんが軽く食べますからね。それよりも何時までも玄関先でお話しもなんですね。入ってください」


「あ……はい……これ……どうぞ。出来れば食べる直前まで冷やしてください」


「これはどうも有難うございます。駄エルフさんもどら子も喜びますよ」


少年は履き物を鼠耳のアシに。

この家は土足厳禁である。

フロントガーデンでは珍しいが世界的に見ればそれなりにある。


居間では駄エルフが迎えた。

もちろん、オードリーの上で寝ながらだ。

人を迎える態度じゃないが、今さらだ。


「いらっしゃい。少年から聞いたけど遊びに来たいときはいつでも来ていいからね。私もどら子もこの家から出ることは殆どないから」


駄エルフによる引きこもり宣言である。


「いえ、駄エルフさんには、たまにぐらいは出て欲しいのですが。最近はオードリーに頼りきりで動きませんし、足腰弱りますよ」


「疲れるからやだよ」


「まったく……どら子さんを少しは見習ってください」


「お、よくきたナ、オカシさま」


どら子が腕立てをやめる。

こちらは引きこもっていても足腰が弱ることはないだろう。


彼女は鼠耳のアシをオカシさまと呼ぶ。

メシタキさまの座はすでに少年の物なので、どら子が新しく作ったのだ。

普通の竜人達にはそんな座はない。

甘いお菓子は美味しい。

食事としては小さいが食べると強くなる……気がする。

そんな物を作ったり持ってきたりする鼠耳のアシを、どら子は一目置いているのだ。


どら子、なんだかちょろい。


ただ、この考えがどら子特有のものじゃない可能性もある。

人類はそれを否定できるほど竜人との交流がない。

もしかすると天敵が隣人になる可能性がそこにあった。

まあ、餌付けできる機会自体が有り得なかったりもするが。


「……どら子ちゃん……こんばんわ」


「おウっ!」


こうして会っただけで鼠耳のアシは青ざめる。


鼠の獣人は弱く、臆病だ。

そんな彼らが生き延びるために身に付けた力。

それが強さ、魔力の感知だ。

鼠耳のアシが魔力解析のスキルを持つのも、種族の血の影響が大きい。

ただ、血の影響が大きすぎるため、どら子の強さに反応しまくっているのだが。


「オカシさま、いつモげんきないナ。めしたべテるカ?」


どら子は頭を撫でる。


どら子には兄がいる。

竜人は産まれて三年ほどで戦える体となる。

それまでは家族と暮らし、一人で生きていく術を学ぶ。

その術を教えたのがどら子の場合、兄だった。

その兄に撫でてもらった記憶。

あれは一人立ちする事が不安だったときだったか。

対人経験が少ないからこそ、してもらって嬉しかったことはよく覚えていた。


「ふえっ」


体格の差、鼠耳アシの怯えっプリ。

どら子の撫でている姿は鷲掴みしているようにしか見えなかった。


「ドラゴにはオカシさまがなにニおびえてルかわかラん」


それでも、撫でられている本人には優しさが伝わっていた


「ドラゴはまダまダよわイ。でもまもルちからはあるゾ。しんぱイするナ」


どら子の事は苦手だ。

本能が怯える。

血が逃げろと囁く。


でも。

どら子の自信ある言動は自分に無いもので憧れる。

お菓子を食べる姿は可愛い。

裏表のない性格が羨ましい。

一言で言えば、好きだ。


意を決して頭を撫でる手を掴む。

鼠耳アシ程度の力じゃどら子は止めれないが、その手に意思を感じて自ら止める。

その手を鼠耳アシは胸元に。


「ン、いやダたカ?」


ショボンとする。

どら子は子供だ。

いくら竜人はすぐに成長し、戦えると言っても。

体が大人と差ほど変わらなくても。

まだまだ子供だ。

ましてや対人関係は殆ど経験がない。

それも殆ど家族相手だ。

どういう時にどういう行動をするべきなのか経験が無さすぎた。


「ううん、あのね……どら子ちゃんに聞いて欲しいの」


「ナんダ? てきガいるナらドラゴがたおすゾ」


飯を食べていないから青ざめていると思ったがどうやら違うようだ。

なら、敵がいてオカシさまをいじめていると考えた。

どら子にとって悩みとは飯か敵の事だ。


鼠耳アシが両手でどら子の手を抱くように包む。

硬い鱗と鋭い爪。

一振りで自分の命を絶つことも出来るだろう。

その手が自分の頭を撫でていた。

優しく、傷付かないように。

脆い自分相手には色々と注意もあったはずだ。


「違うの……あのね、僕ね、どら子ちゃんの事怖いの」


その言葉にどら子はショックを受ける。

オカシさまを怯えさせたのはどら子だった。

どら子が敵だった。


「でもね……それが嫌なの。僕はどら子ちゃんが好きなのに。好きなのに怖いって感じる僕自身が嫌なの」


「ンん? どういうこトかわからン。ドラゴはオカシさまのてきカ? みかたカ?」


「どら子、友達になろうって言っているんだよ」


駄エルフが混乱するどら子へ手助けする。

本当にどら子の対人経験は少い。

まあ、この家に来るまで皆無だったのだか。


「……オカシさま」


「……はい」


「ともだチってなんダ?」


どら子は対人経験が無さすぎて友達を知らなかった。


竜人には上下間系が主で、殆ど友人関係と言った概念が無かったりもするが

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