駄エルフさんと試着
駄エルフさんのバストサイズは1メートル越え。
「ううー、恥かいたー」
今日も今日とて駄エルフである。
一般的なエルフ像から外れた駄目な感じのエルフである。
いや、無駄にエルフと言うべきか。
少なくとも今の姿を見て崇める者はいないだろう。
『今の姿』とは呪いで変わった姿と言う意味ではなく、今現在駄エルフがとっている行動と言う意味だ。
ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。
今日の駄エルフは愛用のクッションの下に潜り込んでいた。
駄エルフのクッションは店頭販売最大サイズ。
その重量は7キロもあるので、駄エルフは潰れたモチの様である。
「恥かいたー」
「……」
「こんな屈辱初めてだー」
「……」
構ってちゃん行動の駄エルフと軽くシカトする少年。
離れたソファーで『読書中だ、邪魔すんなボケぇ』というアピール。
こう言う時の駄エルフが面倒臭いのはすでに経験済み。
少年は相手にしないで飽きるのを待つ事にした。
割りこう言うのが得策であったりする。
得策であるのだが……
「……うう……グスッ……しょうねーん……グスッ……」
泣いていた。
駄エルフが泣いていた。
推定2000歳児が泣いていた。
つくづく面倒臭い。
今日も今日とて駄エルフである。
◻◼◻
「これあげますからいい加減泣き止んでください」
少年はポケットから飴玉一つ、駄エルフの口のなかに放り込む。
「あまーい」
駄エルフは甘味の少ない時代の生まれなので、甘い=旨い=正義なのである。
泣いた2000歳児も一瞬で笑顔。
全くもってチョロい。
チョロエルフである。
「で、いい加減忘れて下さい、あれぐらいの恥。駄エルフさんが生きている事に比べれば、あんなの恥でも何でもないですよ」
「あれっ、私自身が否定されてる?」
今日は服を買いに行ったついでに、下着も買いに行ったのである。
この駄エルフ、普段からノーブラである。
これはブラの無い時代の人だから……ではない。
今ほどの性能ではないがブラはあった。
単純に呪いにかかる前は、そんな物が全く必要の無い体だったからだ。
ストーン、ぺターンであった。
華奢なエルフの中でも、その絶壁度は幼女レベルであった。
ぶっちゃけ必要無さすぎて、ブラの存在も知らなかった。
少年は、普段ノーブラなのは怠惰の呪いの影響だと思っていた。
だが、真実を知ってしまった。
そりゃいかん、この乳が醜くなるのは許せない、と人通りの多い繁華街で叫んだ。
実に男らしい。
少年はランジェリーショップへ直行した。
そこでサイズを計り、ブラの意味、着け方をレクチャーしてもらった。
もちろん少年は男らしいので、全て隣で見ていた。
あの乳がより素晴らしくなる所を見逃すわけにはいかないのだ。
採寸後、見あったブラの試着となった。
大きいから合うサイズがない。
種類がない。
可愛いのがない。
そんなお約束はない。
獸人亜人がいるこの世界には、駄エルフレベルの超乳は少なからず居るのだ。
それは兎も角、試着だ。
そして事故はその時に起こった。
店員が上下は揃えた方がいいと言った。
なら、と駄エルフはパンツも試着することにした。
ここで話しておくことがある。
駄エルフは立ってパンツを履いたことがほぼない。
怠惰の呪いで、それぐらいでも疲れを覚えるというのもある。
バランス感覚が皆無という駄エルフらしい原因もある。
駄エルフの2000年前の生活では着替えは自分でするものではなく、メイドにさせるものだった。
一人で着替える事にまだ慣れていないのが一番の理由だった。
だが試着スペースには、座って着替える程広くなかった。
かつて座って着替える姿を少年に、『子供かっ』とバカにされた事がある。
これはチャンスだ、立って着替えて少年を見返してやろう。
そう駄エルフは思った。
思ってしまった。
立って着替える程度、少年には当たり前すぎて見返すも何もないというのに。
結果、パンツを履いている途中で、駄エルフの惰弱な足腰は限界を迎えた。
バランス感覚が皆無なので、一度崩れれば建て直すことは無理だった。
つまり転けた。
試着スペースからはみ出る様に転んだ。
運が良かったのは、崩れる様に転けたので下半身は試着スペースの中だったこと。
パンツは膝までしか履けていなかったので、大事なところは丸出しだったのだ。
運が悪かったのはブラを着ける前だったこと。
当然おっぱいは丸出しだ。
大きな音が立てば人は集まって来るもの。
駄エルフが唾棄すべき肉体と称した、少年がわがままなおっぱいと称したはそれは、衆目に晒されてしまった。
まあ、ランジェリーショップで客も店員も、一人を除いて全て女性だったけど。
それでも他人に裸体を見せてしまったのは、初めての体験だった。
これまでの人生で最大の羞恥であった。
着替えを手伝ったメイド?
自分の使用人は身内であり手足であるので。
さて、店内唯一の男だった少年。
彼はレジ前で待っていた。
さすがに試着スペースの前で待つのは、男らしくを越えてデリカシーが無い。
決して店員のおねーさんに睨まれたからではない。
仕方がないのでレジのおねーさんとお喋りしていたのだが、駄エルフの倒れる音には出遅れてしまった。
レジから試着スペースまで結構離れていたのと、野次馬の方たちが結構居たからだ。
だから少年が見たときには、既におっぱいは隠されていた。
駄エルフと少年が一緒に暮らして半年。
横乳、下乳、谷間。
それらを拝む機会は多々あった。
駄エルフは隙が多いのだ。
だがトップだけは、乳首だけはまだない。
「凄かった」「大きかった」「綺麗だった」
それらは勝者たちの声。
見たかった。
乳首を見たかった。
完全体おっぱいを見たかった。
床を叩く。
悔しいからだ。
涙を流す。
マジ泣きだ。
全力でそれらをする少年はとても男らしかった。
女性たちはドン引きしていたけれども。
◼◻◼
思い出すだけで心が苦しい。
ああ、店員の目に屈しなければ。
もっと足が早ければ。
後悔だけが心に残る。
「……あれ、駄エルフさんが恥かいたのって、自分は関係ないよね」
駄エルフはつくづく面倒臭い。
おかしい、試着だけで終わった。
次はたぶん『駄エルフさんとエルフ』
『ソレイユ ~白い少女と太陽の勇者~』って、
駄エルフとおなじ世界の話もやってます。
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