駄エルフさんと新生活
「ぼすおきロ」
「もうちょっとねるー」
「ぼすおきロ。ドラゴめしたべれないゾ」
「オードリー」
オードリーの攻撃がどら子を襲う。
竜人の持つ反射と俊敏でなんとかかわす。
少年なら潰れていた。
「あぶないぞ、おーどりー、やるカ?」
その場でステップ。
竜人に伝わる独自のステップで、尻尾がダッシュをより鋭くするのだ。
「……ん、ぼすノむねでかいナ。すごクきたえテるのカ?」
「え……あれ、ちょっと、まった……んくっ」
どら子は遠慮なく駄エルフの胸を触った。
敵意のない行動だったのでオードリーは反応しない。
「ふわ、なんダこれ。すごクやわらかいゾ」
どら子は驚愕する。
こんな柔らかい物は知らない。
強いて言えば小さい頃遊んだスライムか。
だが温かく、吸い付くさわり心地はスライムとは違う。
竜人にとって胸とは筋肉だ。
硬いのだ。
ガッチガチなのが普通なのだ。
竜人は卵生で乳をやる習慣はない。
なので乳房が膨らむ事がない……所謂おっばいを持たない種族だ。
なのでどら子はこれからどれだけ成長してもおっばいが育つことはない。
ちなみに臍もない。
「くんんっ、やめっ、あっ」
「ぼす……こレすごいナ。これガぼすのつよさノひみつカ?」
どら子は触るのを、揉むのを止めない。
「だからっ、止めなさっ、いっ」
「あレ、なんカここだけかたいゾ」
駄エルフのトップで突部で敏感な所を摘まむ。
「ひあっあっ、あぁっ……オードリーっ」
「ひぐっ」
ご主人様のピンチにオードリーがどら子を潰す。
さっきの一撃とはスピードも強さも段違いに違う。
オードリーは駄エルフの危機レベルに応じて強くなるのだ。
一瞬で蛙の轢死状態だ。
少年は一部始終見ていた。
どら子に駄エルフを起こしにいってもらったのだ。
飯炊きである少年にどら子は素直に従った。
駄エルフが起きなければ昼飯は食べれないし。
うん、百合も悪くないかも。
◻◼◻
ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。
駄エルフの生活は新たにどら子を加えて一週間が経っている。
その間に大きく変わったことは殆どない。
せいぜい少年の作る食事量が大幅に増えたことだろうか。
どら子はかなりの量を食べるのだ。
少年を1とすると、駄エルフは2、どら子は10だ。
いきなり少年の手間は三倍以上となった。
それでも少年からすればたいした苦労でもなかった。
昔やっていた食堂のアルバイトからすればちょっと手間が増えただけだ。
あの昼の混雑時に比べれば……。
あの頃を思い出すと少年の目からハイライトが消えた。
「おーどりーハほんとつよいナ」
潰れていたどら子は少年がチャーハンを持ってきたら復活した。
今日の昼飯は焼豚チャーハンだ。
米一粒一粒に卵が絡み、刻んだ焼豚から出た旨みが染み込んでいる。
それだけでも美味しいが『肉』感が欲しかったので、少年と駄エルフにはスライスした焼豚が乗っている。
どら子には残った焼豚全てを切らずに添えてある。
と言うか大きさ的に焼豚がメインだ。
「くくくくく。メシもうまいガ、にく、さいこーだナ」
超山盛りチャーハンをペロリと食べ、いまら焼豚をガジガジかじっている。
どら子は好きなものを最後に残す派らしい。
少年はバランスよく食べ、駄エルフは気まぐれだ。
「本当に美味しそうに食べますね。どら子さんは旅の時、食事はどうしていたのですか?」
「つかまえテ、やいテ、くウ?」
「何で疑問系? 」
「それ、美味しいの?」
「ンーん。ドラゴやるト、こげルか、なまダ」
どら子は火加減が苦手だ。
どら子の使う火は口から吐く火炎。
駄エルフの家を攻撃するのにも使っていたやつだ。
人を一撃で炭にするそれで、狩ってきた獲物を焼くのだ。
当たれば焦げ、外れれば生。
そんなレベルである。
「味付けの概念も無さそうですね」
「メシタキさまのメシ、いままデたべたこトないほドうまいぞ」
「そんな料理じゃ当然だよ」
そういう駄エルフも似たようなレベルだ。
塩をかける分だけましか、塩をかける分だけ更に酷いか意見が別れるところだ。
「りゅーじんにこんなことばアル。メシタキみつけレバ、いいいちにち。メシタキなれバ、いいいっしょー」
大半の竜人はどら子と似たような料理レベルだ。
だが、料理の大切さは知っている。
食は強さと考えている。
そのため、他種族……人類から料理人を拐う事さえある。
だが拐われた者が美味い料理を作り続けるのは難しい。
ただでさえ竜人は人類の天敵と言われる。
そんな中に放り込まれて冷静で居られる者がどれだけ居るのか。
殆どが発狂したり逃げ出して殺され、料理が作れなくなる。
だから『飯炊きを見つければいい1日』。
一日しかもたないって意味だ。
時々料理が出来る竜人がいる。
その竜人は自分が料理して美味い物が何時でも食べられる。
だから『飯炊きになればいい一生』なのだ。
「ドラゴはメシタキさまあエて、まいにちガいいいちにちだゾ」
嬉しい事を言う。
料理を作っていると、それは良く日常となる。
日常となるとなかなか感謝の言葉は聞かなくなるものだ。
だからこういう素直な言葉は素直に嬉しい。
いや、駄エルフの事じゃないよ?
駄エルフは素直に「おいしー」と言います。
ただ、言われるほどそれも日常になる。
だから新たな人物からの感謝が新鮮なのだ。
「よーし、夕御飯はどら子さんが食べたい物にしますか」
「ほんとカ? ドラゴはにくがイイ」
どら子の答えは予想ができた。
ならどんなのを食べさせようかと考える。
『こげルか、なまダ』
なら、きちんと焼けた肉がどういうものか教えてやろう。
いい肉ってのを教えてやろう。
「うわ、少年が変な顔してるよ」
夕飯も三人でちゃぶ台を囲む。
それも今の駄エルフの生活。