表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/45

駄エルフさんとヒエラルキー

どら子は夕食を食べ終わった頃、目を覚ました。

魔力切れから数時間で目を覚ますのは、人類では有り得ない。


「どんだけ回復能力が高いんですかね」


「私、骨折を一晩で治したの見たことがあるよ」


何処で見たのか聞いてみると、竜人と共闘したこともあるのだと言う。

人類の天敵と共闘ってどういう状況か聞いてみたが、その辺は言葉を濁らせた。

やっぱり2000年前の詳しい事は、駄エルフ自身が話してくれるまで待った方が良さそうだ。

細かい情報だけでも繋ぎ合わせると、どうもとんでもない状況だったことが伺える。

それこそ天敵と共闘しなきゃならないレベルの危機。


その頃の文献とかあまり無いんですよね、と少年は心の中で呟く。

2000年前に何かあったのは間違いない。

古代秘宝(アンティーク)もその頃の物が非常に多い。

しかも強力なのが。

伝承も記録も遡っていくとその辺りで途切れるのだ。

2000年と言えばかなりの時間だ。

途切れて当たり前と言う部分も確かにある。

だが、人族の何倍も生きる種族も居る。

そんな彼らの伝承でも、その頃に何があったのか語られない。

それ以上前の事が残されていたりするのに。

ここまで行くと誰かか、誰か達が意図的に隠したとしか思えない。


歴史は過去からの教訓だ。

2000年経ってもその再来が無いのなら、もう起こらないのかも知れない。

だが、逆に2000年以上かかって再来するのかも知れない。

いかなる文献からも、2000年前の事を知ることはできなかった。


だが、半年前に駄エルフが見つかった。

2000年前を見て聞いて過ごしてきた者が。

途切れた時代の記憶は秘宝とされた。

だから駄エルフは人でありながら古代秘宝(アンティーク)とされている。

DEシリーズ001。

それが国に登録されている駄エルフの名前だ。


◻◼◻


「どら子。あなたには暫くここに住んでるもらうね」


「なんでダ? ドラゴ、とーちゃによばれてル。はやくいかなかゃだめだゾ」


「あなたは私に負けた。だから言うこと聞かなきゃ駄目だよ」


「ナラしかたないナ。はいしゃはしょーしゃのものっテ、にーちゃいってタ」


それで良いのかと、問い詰めたい。

だが、竜人は強者至上主義であり勝者至上主義だ。

弱者は強者に、敗者は勝者にしたがうのだ。


ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。

少年と駄エルフは話し合い、どら子はこの家に住まわせる事になった。

もちろん少年は反対だ。

封印されていても竜人は竜人だ。

危険きわまりない。

さっさと兵に引き渡すべきだと考える。

その後の事は国とか偉い人達にお任せだ。

一方、駄エルフの言い分は次の通り。


「やだ。うちで飼うの」


人類の天敵竜人を拾ってきた犬猫の扱いである。

何を気に入ったのか全く分からない。


「何を言っているのですか。だいたい駄エルフさんに生き物を飼うなんて不可能です」


「何でっ。何でそんなに断言できるかなっ」


「だって、駄エルフさん。自分自身をも生かせないでしょ」


駄エルフは少年が居なければ死ぬか、また眠りにつくだけなのは明白だ。

そんな生き物が生き物を飼うなどとは、烏滸がましいとは思わんかね?

これほどの説得力はなかった。

駄エルフも言い返す言葉が見当たらない。

駄エルフ自身が自覚しているのである。

駄エルフなのは伊達じゃない。

自覚してなお、駄エルフであり続けるのだ。


「それにどうせ飼うとなったら世話をするのはどうせ自分でしょ?駄エルフさんじゃご飯も用意出来ませんし」


少年も竜人の扱いが犬猫のレベルである。


「あ、オードリーが居るよ。オードリーならやってくれる」


「結局他力本願じゃないですか。自分で出来ないなら捨ててきてください。だいたいオードリーに何をやらせるつもりなんですか?」


強く、駄エルフに従順なオードリーにも、出来ないことは沢山ある。

と言うか、オードリーは魔物とは言え元々クッションだ。

駄エルフはクッションに色々と信用を置きすぎだ。


「うー、でも……」


「でもじゃないですよ。だいたい、飼ってどうするんですか? 駄エルフさんが危険なんですよ?」


「うちで保護しないと、どら子死んじゃうでしょ」


「う……」


竜人は人類の天敵だ。

そう言われるほど、竜人は敵視されている。

兵に明け渡したらどうなるかは分かりやすかった。

もちろん少年も分かっていた。

カツーを襲った竜人も、最後は処刑されたと聞いている。


「知らない人が知らない所で殺されても何とも思わないけど、この娘は知っちゃったからね」


「でも竜人ですよ?」


「知ってる。話せば結構面白いって事もね」


それは少年は知らない。

確かにどら子の話し方は面白いけれど。

ここでの面白いは別のことだ。

駄エルフが面白いと思った相手が過去に居たのだろう。

それが戦った相手か、共闘した相手か、それとも両方か。

2000年前の事を知らない少年には分からない。


でも、これから経験できる相手は目の前にいた。


◼◻◼


「いい、どら子。ここに住むからには上下関係はハッキリしないと駄目」


「おう、つよいやつガぼすダ。よわいのはそれにしたがうゾ、ぼす」


「いい娘、いい娘。飴あげる」


「くくくくく。そっちのあかいのほしいゾ、ぼす」


駄エルフとどら子の上下関係はすでに構築されていた。

駄エルフはどら子に勝ったので自分より上だと。

後、飴をくれる人とも認識していた。

その飴は少年の持ち物だが。


「私の次はオードリー。私の手足だからね」


「ぼすノてあしカ。それはドラゴよりうえだナ」


これでオードリーの格付けが決まった。

竜人の族長には手足とされるものが居る。

補佐的な者達だが、その事を知っていて駄エルフはオードリーを紹介したのだ。

まあ、オードリーは本当に手足みたいなものだけど。


「それニつよいナ、おーどりーハ」


オードリーからは大量の魔力を感じる。

駄エルフからこぼれ落ちる魔力をずっと浴び続けたからだ。

持っている魔力総量はどら子よりも高い。

この世界では魔力が多い者は強者である。

魔力が多ければ多いほど他のポテンシャルも上がるのだ。

もっとも、実際の戦いでは強者が勝者とは限らないが。


「最後は少年」


「こいツはよわいナ。ドラゴのしたカ? げぼくカ?」


さっそく侮られている少年。

そりゃ仕方がないですけど、と少年。

実際、どら子と少年が戦えば瞬殺される。

普通に戦えば駄エルフも負けるが。

ちなみにオードリーは圧勝します。

それぐらい強いです、このクッション。


「この中でのヒエラルキーは自分が一番下ですか」


「違うよ」


「ちがうのカ? こいつよわいゾ」


「少年は飯炊きだよ。私たちのね」


「それってやっぱり、下っぱじゃないですか……あれ?」


どら子が腹を見せて倒れていた。

少年は竜人の風習は知らない。

だが、一目で服従のポーズだと分かった。


「もうしわけないデス、メシタキさま」


「なんで?」


竜人のヒエラルキーは強い者順だ。

それは下の者が上に勝てば順位は変わる。

しかし、ヒエラルキーの枠外が存在する。

それが『飯炊き』だ。

彼らは強者を産み出す『飯』を作る。

飯無しでは強者は産まれない。

そればかりか、飯がなければ死んでしまうのだ。

そう、別格なのだ飯炊きは。


竜人は基本的に料理ができないのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ