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駄エルフさんと呪い

「だーかーらー、嫌だって」


駄エルフが愛用のクッションにしがみついて離れない。

クッションと自分を蔦の魔法で縛り付けてもいる。

この時代、魔法使いは少ない。

才能で限られた人しか使えない魔法よりも、殆どの人が学びさえすれば使える魔術の方が便利だし。

数少ない魔法使いさえも汎用性のある魔術を使っている位だ。


ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。

その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。


一向に動こうとしない駄エルフに少年は苛立っていた。

『怒髪、天を衝く』だ。

ちなみに少年の髪が逆立っているのは怒りと関係ない。

あれはただの癖毛だ。


「言うことを聞かないなら酷いことしますよ?」


「ふふーん。あのマッサージ機ならもう慣れた。自慢じゃないが、伊達に毎日肩こりしてないねっ」


大した自慢じゃない。

しかし、一部の持たざる者には殺されても情状酌量な自慢でもあった。


少年はポケットからある道具を取り出す。

それは40センチほどのマッサージ器具。

ただしこの前の低周波マッサージではない。


「少年、何だいそれは?」


「何って、駄エルフさんが言った通りただのマッサージ器具ですよ。アレよりは若干原始的ですけど」


少年はスイッチを入れた。

先端部分が振動を始める。

それは確かにマッサージ器具だ。

使い方としてもこった所をその振動で揉みほぐす物だ。

実際に使ってみると効く。

ただ、そのマッサージ器具は用途以外の使い方が有名だった。

それは本来の使い方以上に。

そのマッサージ器具は、そういう用途の為の器具と思って買う人もいるぐらいだ。


少年は振動部分を、駄エルフの敏感な所に押し当てる。


「ひっ、ひゃんっ。だ、ダメ。これはだめぇ。ひぃぃぃんっ。」


駄エルフはその振動から逃げようよする。

しかし、自分で出した蔦の魔法が邪魔をする。


「ら、らめえええええぇぇっ」


◻◼◻


「うう、少年に汚された……」


「今日は服を買いに行くと、前から伝えてあったじゃないですか」


「私はお出かけ出来るような服を、全然持ってないよっ」


「だからそのための服を買いに行くんでしょ。そんなヨレヨレじゃない綺麗な服を」


今、駄エルフが着ているのはTシャツだ。

胸にサイズに合わせて用意した結果、膝上まで長さがあり、半紙なのに七分袖みたいになっていた。


「綺麗な服はいっぱいあるよっ。でも古臭いって少年がバカにしたんじゃないか」


「バカにって……でもあんな服を着るのは、今時仮装行列か芝居ぐらいです」


駄エルフが持っているのは2000年前の服だ。

流行から外れているとか、そんなレベルの問題じゃない。

最早博物館に飾っておくレベルである。


生地にしてもいい材料は使っているが技術レベルが低い。

縫製にしても、2000年と言う時間の流れは偉大だとしみじみ思ってしまうほどだ。


「じゃあ、この服みたいに少年が適当に買って来てよっ」


「ちゃんとした服を買おうと思ったら、サイズとかきちんと測る必要があるんですよ。自分のおっぱいの大きさを自覚してください」


おっぱい言う単語に駄エルフは隠すように、自分の胸元を両腕で押さえる。


「見ないで下さい。この(のろ)いで穢れた体を。こんな穢れた姿で外を出歩けとは、少年は鬼か悪魔だっ」


駄エルフは2000年前に(のろ)いをかけられていた。

怠惰、弱視、肥満、変色。


怠惰の(のろ)いは体力が続かなくなる(のろ)いだ。

かけられた者は、一日の半分以上眠らないと倒れてしまう。


弱視の(のろ)いは視力低下の(のろ)いだ。

盲目の(のろ)いよりは軽いが、それでも一メートル先もぼやけて見える。


肥満の(のろ)いは余分な脂肪が身に付く(のろ)いだ。

運動や食事制限でも無くならない脂肪は、動きを阻害する。


変色の(のろ)いはその物の色を変える(のろ)いだ。

色は魔力と直結している。色が変わればその者の属性も変わる。


「だからそれも前に言ったじゃないですか。今は(のろ)いなんて無いって。今は(まじな)いって言うんです」


「何が違うんだい。言い方が違うだけで本質は同じだろ。確かに弱視の(のろ)いはこの眼鏡のお陰で助かっているけれど」


ちなみに駄エルフは視力低下……近視以外にも、若干老眼があったことは内緒だ。

不老長寿で2000年以上生きても、老眼には勝てなかったのだ。


「この脂肪もこの肌も、唾棄されるべき(のろ)いだっ」


少年は無言だった。

無言で例のマッサージ機を、振動レベル全開でおっぱいに押し当てた。


「ひゃああああんんっ」


「何を言っているんですかっ。そのわがままなおっぱいも 、プリンとしたおしりも、健康美溢れる褐色肌も。どれも素晴らしいのにっ。駄エルフさんは反省するまでそこで正座っ」


それはとても男らしい発言だった。

もちろんお爺さんの遺言を守った結果だ。


駄エルフは確かに(のろ)いにかかっている。

怠惰と弱視は生きていくには苦しいだったろう。

肥満と変色は確かに唾棄される物のだったろう。


当時であれば。


2000年後の今では事情がちょっと変わる。

怠惰は兎も角、弱視は今の駄エルフの様に眼鏡等でどうとでもなった。

そして肥満や変色は、病的なほど真っ白でやせっぽっちだったエルフの肉体を、豊満に、健康に見せていた。

正直エロい。

万人が……とは言えなくても、かなりの人が羨む体である。


「それに肥満と変色の(のろ)いですか。今じゃその二つは、健康エステや整形で使われる(まじな)いですよ」


2000年と言う時間の流れ。

マジで偉大である。

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