駄エルフさんと竜人
『人』『人類』と言う言葉がある。
駄エルフ達の世界において、 人族、妖精種、獣人が『人』『人類』と呼ばれる。
『人』『人類』はそれぞれの種族で交配が可能だ。
妖精種はエルフ、ドワーフ、フェアリー、巨人等の種族で、人族とは容姿は近いが色々とサイズや寿命が違うのが特徴だ。
人族と妖精種の間にはハーフと言う、それぞれの種族の平均の能力を持った子が生まれる。
獣人は獣頭獣尾を持つ種族で寿命は人族とほぼ同じ。
人族と獣人の間にはダブルと言う、それぞれの長所を受け継いだ子が生まれる。
ダブルは人族の顔に獣の耳を持つので獣耳族と呼ばれたりもする。
妖精種と獣人の間に生まれるのは母親の種だ。
ただ、神話レベルの話では両種を超越した子が生まれた事があると言う。
神代種や超越種と呼ばれているが今のところ確認されたことはない。
◻◼◻
「たぶんコレが襲撃者だよね」
「偶然ここにいた可能性も在るかもしれませんが、普通に考えればコレですね」
ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家の玄関先。
荒れ果てた土地のなかで発見した誰か。
そいつを発見後暫く見ていた。
だが全く動かないので恐る恐る近づいてみた結果、動かない理由がわかった。
倒れていた。
この襲撃者は魔力切れでぶっ倒れていましたとさ。
襲撃時の魔力攻撃を限界以上使用したのだろう。
とりあえず起きたときに暴れない様に拘束する。
駄エルフの蔦魔法だ。
そして改めて襲撃者を観察する。
「んっ? 何でしょうか、鱗が生えてますね。だとすると、人類じゃない……あっ、角……まさか……」
「間違いない。昔戦ったこともあるよ」
鱗を持つ人類は特殊な例以外存在しない。
そしてその中には角があるのはいない。
たが、人類以外にはその条件の種族がいた。
「竜人」
それは両足で立ち、両手で道具を使う、人に似た姿をしている。
全身のいたる所を鱗に包まれ、は虫類的な尾。
顔は人よりだが角がある。
角以外ならリザードマンと呼ばれる種族の特徴に似ているが、リザードマンの顔は蜥蜴よりだ。
竜を人のサイズにした種族。
人類の天敵とも呼ばれるのか、竜人だ。
竜人は生まれついての簒奪者だ。
時折町や村を、極希に国を襲い、破壊し、奪っていく。
人類が栄えていくのを穂が実ってきたと言い、収穫と言って襲うのだ。
さて、駄エルフによってミノムシ状になった竜人だが……。
「家に運ぶ? 正気ですかっ」
「うるさいね。もちろん正気さ。でも女の子を外に放置って訳にはいかないでしょ」
「え、女?」
少年が竜人を見直すが蔦で体つきは分からない。
顔を見ると……そんな感じはする。
初めて竜人を見たので、見た目が当てはまるのか分からないが。
「でも、竜人です。駄エルフさんが危険なんですっ。ちょっと前にカツーが竜人に襲われて、かなりの被害が出たと聞きますよ。しかも襲ったのは竜人一人だって」
カツーはアントリア大陸の一番西にある国だ。
竜人は王都に攻め混み、王の目前までいって撃退された。
年に数ヵ所村や町が襲われることがあるが、国にとなるとなかなかない。
しかも王の目前となると、竜人一人に国が落とされかけたことになる。
「大丈夫、大丈夫。少年も守ってくれるんだろ?」
「そうですが……」
駄エルフは自分が守る。
その決意は揺るがない。
だが、少年は現実主義だ。
出来ることと出来ないことはハッキリさせる。
だから出来ないことの場合はあっさりと人の手を借りる。
さて、今回の場合はどうだろう。
相手は国相手に喧嘩できる種族だ。
自分がどうにか出来る物ではない。
だからと言って、誰の手を借りられる?
「それにそんなのを放置して暴れられる位なら、家の中に閉じ込めた方がいいんだよ」
そう言うとオードリーに頼んで竜人を家に運ばせる。
確かに竜人が町で暴れられたらどんな被害が出るかわからない。
一方、この家なら閉じ込めておけるのは間違いない。
でも……と少年は思う。
駄エルフさんが危険なのは何も解消していないですよ。
◼◻◼
少年の心配は杞憂だった。
駄エルフは竜人を家に連れ込むと、そのまま食料保管庫に放り込んだ。
異界化している家の中で特に異界化しているのが食料保管庫だ。
異界化している物は他からの影響は受けにくくなる。
逆に、異界化した中からは外に影響はほぼ出ない。
「鍵をかければ中からは開きませんし、これで大丈夫ですね」
少年のことばに駄エルフは首を振る。
「ひとつだけ心配はあるかな」
「何ですか?」
駄エルフの表情がかつてないほどシリアスで深刻そうだ。
何があると言うのか。
駄エルフにそんな表情をさせてしまう心配とは?
ゴクリ……と唾を飲む。
だが頭の片隅でささやく声が。
わりとよく見る表情だよね。
あれ?
駄エルフが口を開く。
「ご飯どうしよう。食料保管庫使えない」
うん、よく見る表情だ。
◻◼◻
10日後、再び竜人がらみの事件が起こる。
竜人が目を覚ましたのだ。
通常、魔力切れの昏倒は魔力が回復すればすぐ治る。
だいたい一晩もすれば大丈夫。
しかし、竜人は10日もかかった。
何故か。
少年は気付いていなかった。
駄エルフは完全に忘れていた。
食料保管庫の中の時間の流れは緩やかだったのだ。