駄エルフさんと洗い場
お風呂回、その2。
洗い場編。
時間が取れず普段よりも短いです。
入浴まで行ってないし。
ここはアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家の浴室。
この家の浴室は結構広い。
10人とかはさすがに無理だが、それでも5、6人は入れる大きさだ。
浴槽に3人、洗い場に3人ぐらいで。
掃除もソレだけの広さだと大変だが、少年は毎日行っている。
嬉々として行われている。
……まあ……なんだ……少年の性癖は気にするな。
駄エルフは浴室に入れる。
眼鏡はかけたままだ。
と言うか、かけたままじゃないと非常に危ない。
それぐらい目が悪い。
ついでに言うと足元は胸で死角。
ただでさえドンくさい駄エルフだ。
ほぼ見えない状態で浴室を歩けと言うのは、死にに行けと言っているのに等しい。
石鹸に滑るか、わずかな段差で転ぶか。
切りもみ入れつつ頭をぶつけたり、浴槽に落ちて溺死さえあり得る。
なお、眼鏡はくもり防止仕様になっている。
まずは体を洗う。
洗い場で何時も使っている蛇口の前に座る。
鏡が設置されているが、出来るだけ見ないように意識からはずす。
ハンドシャワーで頭からお湯を浴びる。
かけ湯がわりでもある。
かけ湯無しで湯船に入るな。
タオルを湯船に入るな。
長い髪は束ねてから湯船に入れ。
この辺のルールは長い旅の中で叩き込まれたものだ。
守らないと実際に鉄拳制裁もあったし。
その頃を思い出すと、自然と笑みが浮かぶ。
色々とあった。
きついこと。
苦しいこと。
裏切りもあった。
知り合った人が死ぬこともあった。
自分達も死にかけた。
でも楽しかった。
だから笑みが浮かぶ。
例え結果がこの体だったとしても。
スポンジにボディソープを付けて、よく泡立てる。
仲間たちが作った石鹸よりもよく泡立つ。
初めて使ったときはあれでも革命かと思ったのだけど。
でも、2000年の進化でさえこの肌は元の色に戻らない。
右腕から洗い始め、そこが終わると右脇、右脇腹。
左右の手を入れ換えて、左腕、左脇、左脇腹と洗う。
「洗いにくい」
体を洗うのに胸がいちいち邪魔になる。
脇腹を洗うのに視界の邪魔になる。
そして、この胸自体が洗いにくい。
目が届かないところだからこそ洗わないと。
結構汗がたまるし。
スポンジで優しく触るように洗う。
ぴくんっと反応し、洗う手が止まる。
一息ついた後に再び洗い始めるが、また同じような反応で手が止まる。
認めたくないが、今の体、特に胸は感じやすい。
屈辱だ。
森の木々の様に穏やかに。
それがエルフの在り方なのに。
今の自分は非常に肉欲的だ。
浅ましいとさえ思う。
これは変色の呪いの影響。
変色は肌の色を変え、属性の色を変えた。
そして、心の色も変える。
大罪の系譜。
「暴食」「色欲」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「傲慢」
どの呪いも突き詰めていけば、このどれかに当てはまると言う。
駄エルフの怠惰の呪いなどそのまんまだ。
だからこそ、駄エルフの呪いの中で一番強力だ。
弱視は強欲だ。
見えにくくなるからこそ、より多く見たくなる。
肥満は暴食。
食べ過ぎると言う結果に生じる物。
変色は嫉妬。
羨まれた髪や肌、瞳、魔力、心が色褪せる。
だが、最近思う。
この身の変色の呪いは色欲に通じるのではないかと。
変色はその名の通り、色へと変える、色へと走らせる。
髪や肌の色の変化はただのおまけではないかと。
色々と我慢をして、全身が洗い終わる。
感じやすいと言っても、肉欲に、色欲に溺れるほどではない。
ただし、今はまだ、だ。
呪いは何時どうなるかは分からない。
少年は呪いは呪いになったと言う。
駄エルフはそれは気休めでしかないと思っている。
たしかに現代の呪いは服を着替えるように使えるのかもしれない。
だとしたら簡単に解呪も出来るのだろう。
だが、駄エルフの呪いは解けない。
呪いは何れ強まるかも知れない。
強さは同じでも自分が負ける日が来るのかもしれない。
◻◼◻
腰よりも長い髪も、シャンプーとコンディショナーで丁寧に。
色々と変わり色々と嫌ったこの体。
だが、髪の場合はそこまで嫌っていない。
むろん、以前の方が好きだ。
しかし緑の髪はエルフの中で悪くない。
やはり、木々や草の色だからだ。
駄エルフはタオルでそれをまとめる。
腰まである髪はまとめるだけでも大変だが、それが入浴のルール。
さあ、キレイになった体で入浴を楽しもう。
次回こそ入浴編