駄エルフさんと少年
毎回2000文字ぐらいで軽い話です。時々エロいかも。
「駄エルフさん、起きてください」
とある昼下がり。
アントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。
昼を過ぎても惰眠を貪る一人のエルフと、スーツにネクタイ姿の一人の少年。
エルフは肌が褐色で眼鏡をかけている。
眼鏡の奥の瞳の色は赤。
眼鏡で髪の色は緑。
眼鏡で巨乳より上の爆乳……いや、それ以上の超乳か。
そのエルフがマイクロビーズの入ったクッションの上で丸まっている。
所謂人を駄目にするクッションだ。
少年は小柄だ。
年齢は17だが小柄のためもっと若く、ぶっちゃけ幼く見える。
スーツ姿が似合っていない。
大人ぶって背伸びをしている感じで微笑ましくもある。
髪と瞳の色は黒。
髪質は相当固く癖毛も酷い。
朝にかなりハードな整髪料で整えたはずなのに、この家に来る頃には爆発していた。
ここからはエルフを駄エルフ、少年はそのまま少年とする。
「起きないと酷いことしますよ」
「んー、もう10分ー」
「ダメです。駄エルフさんは10分甘やかすと一時間起きませんから」
少年はゴソゴソとポケットを探る。
鉛筆、クリップ、コップ、おにぎり、錠剤、文庫本、避妊具、水槽用ヒーター……
本当にポケットに入っていたのか? と言う量の品々が、無差別ジャンルで次々ち積み上げられる。
「あ、ありました」
それは携帯用低周波マッサージ機。
端末をマッサージしたいところに貼るとビクンビクン来るやつだ。
少年はそれを駄エルフの両頬に貼る。
「んー?」
「三つ数える前に起きないとスイッチを入れます」
「んんー?」
「321、はい、アウトー」
起きない奴を起こすのに、情けも容赦も要らない。
このマッサージ機は電源スイッチと低周波の強弱は一体型だ。
電源が入ると同時に最大に。
「ぴぎゃあああああああああっ」
文字通り駄エルフは飛び起きたが、少年はスイッチを切らない。
のたうち回る駄エルフ。
特に胸の辺りがバインバインに。
「ひぐっ、やめっ、あああうっ、おきっ、起きたっ、ひんっ、やめてえええっ」
その姿を充分堪能したあと、少年はスイッチを切る。
「ああああ……ああ……」
ビクンビクン来るのが減って安らいだ表情の駄エルフ。
口元のヨダレとかエロい。
なのでもう一回スイッチを入れた。
「ひぎゃぎゃぎゃぎゃーーーーー」
うん、ヨダレと弾けるおっぱい、涙目と乱れる髪がエロい。
充分堪能したと言うのは嘘だ。
こんなのいくらでも行けるって。
◻◼◻
「酷い目にあった……」
「最初からそう言ってたじゃないですか『起きないと酷いことする』って」
「起きてからもしたじゃないか。何だい、あの魔法は。痺れた感じだけど雷じゃないし」
「ただのマッサージですよ。肩がこった時とかにあれで揉みほぐすんです」
「あ、だったら後で貸して。何か何時も肩が凝っちゃうんだ」
それは当然だろうと少年は駄エルフの胸を見る。
少年はチラ見なんかしない。
男らしく生きろと言うのが死んだじいちゃんの遺言だからだ。
「それよりも早く食べて下さい。麺が伸びてしまいますよ」
「うん、そうだね。食べ物は美味しくいただかないと、その命に冒涜だ。特に少年の料理は美味しいし」
駄エルフは結構遅めのお昼ご飯を食べ始める。
今日の献立は暖かい汁に具材も入った素麺、にゅうめんだ。
駄エルフは汁を啜る。
汁は鰹だしがよく効いて醤油と良く合う。
どちらも昔は無かった物だ。
でもまあ、醤油は分かる。
発酵した調味料なんてものは昔からいくらでもある。
でも鰹節。
アレを考え付いた奴は頭がおかしいと駄エルフは思う。
美味しいけどね。
具はチャダ菜と鳥肉だ。
どちらも醤油ベースの味と良く合う。
この鳥も昔じゃ考えられない。
ケルタ鳥。
非常に美味だが数が少なく、一羽捕まえれば1ヶ月暮らせる金貨が手に入る、そんな鳥だった。
それが店に行けば山のように売っていると言う。
それも非常に安価で。
養殖と言う技術でなし得た事で、その事を知るまではなんと言う贅沢をしているのかと少年に詰め寄った事も。
このにゅうめん。
一つの器に海のものと陸のものが入っているのも驚きだ。
余程の土地環境じゃないとあり得ない。
しかし、今じゃ当たり前と言う。
山間部でも新鮮な海の魚が手に入るのだとか。
少年も言うことには嘘も多いのだが、これに関しては毎日食べる物の種類の豊富さには信じる他無かった。
「この料理一つでも時代の流れを感じるなあ」
「そりゃ駄エルフさんの時代じゃ、狩って焼いて食うぐらいですしね」
「ちがうよっ? きちんと料理って概念あったよ?」
「でも駄エルフさんは料理出来ないじゃないですか」
「それは私の問題で2000年前の問題じゃないよっ」
◼◻◼
舞台はアントリア大陸中央にある大国フロントガーデン。
その外れの新興住宅地の、そのまた外れの一軒家。
これは2000年の眠りから覚めた駄エルフと、それの世話をすることになった少年とのカルチャーショックなお話である。