第4話 海都シーア①
季節外れですが
青い空、白い雲、照りつける太陽。
そして白い砂浜と蒼い海。
「海だー!」
「フリス、待ちなさい」
「急に入るな。というか、他にも人がいるのを忘れるな」
他にも観光客がいるがほぼ無視し、フリスは騒ぐ。それを注意するソラとミリアだが、興奮を抑えられていなかった。
「それにしても……これって大丈夫なのか?」
「どういうこと?」
「魔獣が出たら危険だろ?」
「そういうことね。大丈夫よ、魔獣がほとんど出ないからこそ、海水浴場になってるんだもの」
「なるほど、そういう場所もあるのか」
海は水生魔獣の住処だが、全てが占拠されているわけでは無い。環境や縄張りなどの影響で、人が活動しても問題無い場所は結構ある。ここシーアもその1つで、夏の観光地としては1、2を誇る町だ。
「それで、どうよ?」
「似合う?」
「ああ。綺麗だぞ、2人とも」
ベフィアにおける水着は、水棲魔獣の皮を専用の海藻類で着色した物が主らしい。撥水性があり色落ちしない、というかなりの発達を見せていた。そのせいで、軒並み高いが。
そんな中で2人は、抜群のセンスを見せていた。
「どう言ったら良いか、なんて分からないが……本当、似合ってる」
「良いわよ。褒めてもらえるだけで嬉しいもの」
「そうか。それで、どっちのセンスだ?」
「2人ともよ」
「わたしがミリちゃんのを選んだんだよ」
ミリアの水色をしたビキニは、スレンダーな彼女にとても良く似合っている。フリスは黒色のワンピースで、ある程度大人らしい物を選んだおかげか、逆に可愛らしく見えていた。
「普段着もセンスが良いし、その感じか?」
「そうだね。水着の選び方は違うけど、前に来たことあるし」
「そういえばそんなこと言ってたな。好きなのか?」
「うん」
「ええ、海は好きよ。前も結構楽しんだもの」
「それであんなに長くなったのか?」
「うん……まあ、そうだよ」
「結果として、こんなに綺麗な2人を見れたから良いけどな」
「ちょっとソラ君!」
「本当のことを言っただけだぞ?」
この町に着いた時、宿探しを素早く終わらせた2人は、早速水着を選びに行っていた……しかも、ソラ抜きで。ソラは自分のを買った後も、長い間待たされてしまい、結局その日は砂浜を見るだけとなったのだ。驚かせたかったのだろうが、張り切りすぎだろう。なお、買ったのは1着では無いらしい。
なお、ソラは普通のトランクスだ。決してブーメランでは無い。
「ねえソラ君!泳ごうよ!」
「ああちょっと待て。ミリア、行くよな?」
「ええ。勿論よ」
……爆発しろ。日本なら、そんな怨念を言われても仕方がない光景を広げていた。
泳ぐといっても遠泳はせず、他にも人がいるため大騒ぎはできないが、遊ぶだけなら問題無い。
「久しぶりだけど、本当に気持ち良いわね」
「楽しいよね!」
「俺も泳ぐのは久しぶりだな」
ソラ達は本当に楽しそうに泳いでいた。そしてしばし泳いだ後、3人は砂浜へ戻る。
「楽しかった〜」
「何か食うか?」
「うん、欲しい」
「ええ、お願いね」
「分かった。ちょっと待ってろ」
ソラは海から上がり、海の家に似た店で焼きそばを買ったのだか……
「なあ、俺たちと一緒に行かないか?」
「人を待ってるのよ。当たるなら他にしたら?」
「邪魔だよ」
「まあまあ、そう言わずに」
ミリアとフリスにナンパ師が来ていた。そしてソラは焼きそばを近くにいた人に預け、2人のもとへ歩いていく。
退くのならそのまま放置、退かなければ……殺しはしないが、手加減もしない。
「おい」
「あ?何だお前は」
「人の嫁をナンパして、大丈夫だと思ってるのか?」
「何だこのガあぁぁー!!」
ナンパ師の1人が殴りかかろうとしてきた瞬間、ソラは一本背負いの真似事で投げ飛ばし、空中散歩と飛び込みを同時経験させた。
そして呆然と見送る相方。
「あ、兄貴ー!」
「お前も行くか?」
「お前!兄貴にいぃぃー!!」
これまた豪快に飛び、盛大に水飛沫を上げる。周囲の人は、呆然とするか笑うかの2択だった。……やりたいと騒ぐ子どもを抑えるのに、苦労している親もいるが。
「お、飛んだな」
「飛んだね〜」
「飛んだわね……じゃないわよ!こんなところで何やってるの⁉︎」
「大丈夫だ。風魔法で死なない程度には遅くした。痛いだろうがな」
「そう……まあ、こっちに泳いできてるし、たぶん大丈夫ね」
「じゃあ……釘でも刺しておくか」
さらにソラは砂浜へ泳いでくるナンパ師二人の先へ歩いていく。トドメを刺すために。
「ハァハァ……やっと着いた」
「兄貴……全身痛いです」
「おい」
「「ヒィ⁉︎」」
「何言いたいか分かってるな?」
「はい!すいませんでした!」
「もうしません!」
「なら良し」
と、ソラからは解放されたが……
「「「「「(ジー)」」」」」
周囲にいる全員から白い目でみられ、ナンパ師達は逃げ出す。この2人組はかなりの迷惑をかけていたそうで、予想以上にソラを褒める人が多い。
そのためソラは人に囲まれてしまい、ミリアとフリスに合流できたのは少し後だった。
「すまないな。ちょっと我慢できなかった」
「大丈夫だよ。ねえ、食べ物は?」
「ああ、人に預けた。取ってくる」
「一緒に行くわよ。同じようなのが来ないとも限らないしね」
たいぶ時間が経ってしまったため焼きそばは冷めてしまったが、こういう場で食べるものだから気にしない。むしろ先ほどの騒動が話の種になっていた。
「それにしても……左手の薬指に指輪をつけているのにナンパが来るなんて、思って無かったわ」
「それだけ2人が美人だってことだろ」
「ソラ君ったら〜そんなこと言っても何も出ないよ?」
「事実じゃないか。少なくとも俺はそう思ってるぞ?」
「上手くなったものね」
「ミリアだって、慣れたな」
「ミリア面白かったのにな〜」
「フリスは変わらないわね」
「本当、そのままだよな」
仲のいい3人。そうして水着のまま話しながら砂浜の近くの通りを歩いていると、フリスが急に立ち止まった。
「ねえ、ミリちゃん。あれ」
「あれ?へえ、面白そうね」
「どうした?って……おいおい……」
フリスが見つけたのは、特徴的な水着の店だ。なお、ソラが言い淀んだのは別に扇情的だからというわけではなくーーコスプレなのだ。そういえばビーチにもこんな水着を着ていた人がいたな、とソラは現実逃避的に思い出す。
「入ってみる?」
「ええ、行きましょ」
「じゃあ俺は外で「待って」……」
「ソラは試着した後の私達を評価しなさい」
「どんな風に言ってくれるか、楽しみにしてるからね」
このテンションと昨日の例を考えれば、おのずと結果は予想できるからだ。
「あ、こんなのもあるんだ」
「こういうのはちょっと無理ね」
「……色々あるんだな」
水着だけでなく、更に上から着るコスプレ衣装もあった。それも水着と同じ素材でできており、かなりの値段がする。ミリアとフリスなら余裕で払える金額だが。
「ソラ君はどれが良いと思う?」
「こういうのを選ぶのは苦手なんだが……とりあえず、あの辺りはやめてくれよ。似合わないだろうしな」
「ええ、私もあれは着たくないわ」
「わたしも、嫌いかな」
コスプレ衣装には、亜人がモチーフの物や騎士や冒険者系の物など、様々な種類があった。ソラは知らないが、もしかしたら有名な劇の登場人物の物もあるかもしれない。
その中には……露出が極端に多い物もあるが、2人とも着ないと言ってソラは安心していた。
「ミリちゃん、これとかどう?」
「それだけと言うよりも、この辺り全体的に良いと思うわよ」
「ソラ君は?」
「まあ……これくらいなら、良いんじゃないか?」
「そう?じゃあ試着しましょう」
「うん!行こ行こ」
「……さっさと決めさせるか」
ウキウキの2人に、ソラの願いは届かなかったが。
「肌が見えすぎかしら?本物とは随分違うみたいだけど……こういうのも良いわね」
カウガール風のミリアだったり。ビキニに短パンといった感じの服装で、さらにカウボーイハットを被ってヒールのついたブーツを履いている。
ソラは水着姿よりむしろ、2人がカウボーイやカウガールを知っていることに驚いた。どうやら遊牧民の中には、そういう人達もいるらしい。流石に銃は無く、|走って牛を追い立てる《牛飼いとどう違うのか?》そうだが。
「ちょっと……変、かな?」
修道女風のフリスだったり。水着なので露出が多く、修道服としては意味がないが、物凄く可愛らしい。ソラがしばらく静止してしまうほどだ。
「普通なら、こんな格好の海賊はいないわよね」
海賊風のミリアだったり。これは基本が普通のビキニだが、他が凄い。頭の海賊帽や右胸の所には髑髏が描かれており、腰には海賊らしい小物を下げている。踵の低いブーツを履き、さらに片目を眼帯で隠すというこだわりっぷりだ。そして何故か、短めのマントを羽織っていた。
だがミリアは気に入ったようで、着替えつつも常に1番近くに置いている。
「これ、凄く可愛いよ」
何故かある魔法少女系のフリスだったり。今フリスは白を基調としたドレス風の物を着ているが、持ってきた物の中には黒いセーラー服風の物や紫が中心の和服風のものまである。それ以外にも無数にあるという状況で、とてもバリエーションも豊富だ。
恐らく、過去の転生者が広めたのだろう。というか、その手のオタクなのかもしれない。そしてフリスは気に入ったのか、何度も着替えてソラに見せる。
「こんなところかな?」
「そうね……他に良い物は無さそうよ」
「じゃあ、この中から選ぼっか」
「私は、そうね……この3つを買うわ」
「じゃあわたしは、これとこれと……これだね」
「……ご自由にどうぞ」
そんな物を買ってどうするんだ、とソラは言えなかった。
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「楽しかったわね」
「朝からずっとっていうのは、流石に予想外だったけどな。楽しめたようでなによりだ」
「でも、わたしは遊び足りないかな?」
「なら、明日も来ましょうか」
「またか?」
「違う水着の私達、見たく無いの?」
「今日買った水着でも良いよ?」
「……分かった。好きにしろ」
夕方、1日遊び倒したソラ達は普段着に着替えて通りを歩いている。だが2人はまだまだ遊びたいようで、ソラもそんな2人に折れたーー決して色仕掛けに負けたわけではない、と自分を説得するーーため、付き合うことにした。
「ん?……なるほど、またか」
「どうしたの?」
「あれだ」
「あの人達……宿を探してるのね」
「さっき宿から出てきていたな。肩を落として、だが」
「安宿を探そうとするのは、少し無謀だよね」
「ええ、すぐに埋まっちゃうもの」
「奮発して、少し高いところを選べばあるんだがな」
「その分を節約して、遊びたいんでしょうね。きっと」
「わたし達は気にしなかったけどね」
「まあ、金があるし、収入もあるからな」
「それでも、結構高いところじゃないの。1泊銀貨1枚よ?」
「このままだと、金が貯まる一方だからな。十分な貯蓄はあるし、こういった時に一気に使うべきだろ」
「楽しめるから、わたしは良いよ〜」
「フリスも……まあ、良いけどね」
そして3人はいくつか店を回りつつ、宿で夕食を食べるために戻っていく。
「そうそうフリス、夜にもう1回買った水着を着るわよ」
「そうだね。夜も暑いだろうし、ちょうど良いかな」
「おい待て2人とも」
「せっかく買ったのよ。何度も着てみたいじゃない」
「嫌い、なんて言わないよね?」
「……反則だぞ、それ」
この後、ソラは完全に手玉に取られていたとだけ記す。女海賊と魔法少女のノリについていけなかっただけだが。
書いてて思った、爆破したい




