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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第15話 共和国首都エリザベート⑤



「時間稼ぎがどこまでできるか……他の門へ行ったら厄介だな」

「そうね……ここに(とど)めるなら、早く行動した方が良いわよ」

「やっぱり……魔人を倒しに行く?」

「いや……でも今なら行けるか?……突破口を一部にすれば……」

「ソラ?」

「ソラ君?」


エリザベートの北門の内側、死屍累々(疲労困憊)の惨状の中を歩いていく3人。ソラ達は周りの様子を見ながら、今後について話している。……この3人がもっとも疲れてるはずなのだが。

するとソラの視界の端に、駆け寄ってくる紅色が入った。


「ソラ!」

「ん?リーリア⁉︎」

「お父様が他の貴族の私兵も纏めたわ。すぐにこっちに来るわよ」

「数は?」

「全部で1万人くらいね」

「補充としては十分か……無茶をすればいけるな」


貴族の私兵は家により強さや練度がバラバラとはいえ、今喉から手が出るほど欲しい戦力であることに代わりはない。町の存亡がかかったこの時に、他の家の足を引っ張るような馬鹿はいないだろうし。

そしてこれは良いチャンスとばかりに、ソラはこの場の最高指揮官である騎士団総団長、金虎獣人のルレイア・メルフィーネへ話に向かった。


「ルレイアさん」

「ソラ殿ですか。どうかいたしましたか?」

「突撃しましょう」

「なんですって?」

「この規模なら確実に魔人か高ランクの魔獣がいます。そいつを叩きに行くべきです」

「……確証はあるのですか?」

「ハウルの時はこれより少ない数でしたが、Aランクの魔人が率いていました。10万を大きく超えている今は……」

「確実にいる、と。問題は相手の実力ですが……Sは確実にありそうですね」

「もしかしたらSSかもしれません。AやSの取り巻きがいる可能性も十分ありますし」

「……勝てますか?」

「いえ、勝ちます。大将には俺達3人で行きましょう。他には取り巻きの相手をする人達も連れて……中核となるのは100人くらいかと」

「では残りはどうするので?恥ずかしながら……貴方方がいなければ、すでにこの町の中も戦場になっていたでしょう」

「今この門の前は俺の作り出した氷で覆われています。それを壁として使ってみては?」

「……なるほど、陣形を作ると」

「ええ。俺は専門家では無いので、お任せできますか?」

「分かりました。細かいことはこちらから通達します」


一気に慌しくなった臨時指揮所を出て、ソラは2人の元へ戻る。そして2つのほぼ透明な球体を渡した。


「ミリア、フリス、これを使え」

「これって……」

「Sランクの魔水晶だよね?使っちゃうの?」

「使うしか無いだろ。A以下を大量に使ってでも、魔力を回復させるべきだ」

「勝ったとしても大損になりそうね」

「命があればそれで良い。勝ちに行くぞ」

「ええ、当然よ」

「うん、頑張る」


ソラは2人に渡した後、自分も魔水晶を取り出して魔力を回復する。ミリアとフリスも指輪から魔水晶を出して魔力を回復させた。


(縁が出来すぎて、逃げるなんてできないからな。絶対に勝つ)


決意を新たに、3人は戦場へ立つ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「覚悟は良いな?」

「ええ、大丈夫よ」

「このまま行って大丈夫なんだよね?」

「他の門はほとんど戦闘が起こってないらしいからな。せいぜい迂回していった連中が来ただけ、そこから攻め落とす気は一切ないようだ」

「やっぱりこの門なのね。だから敵指揮官も近い……」

「ああ。細工も含めれば、ここだけだ」

「うん……大丈夫、行けるよ」


魔人討伐を目的とした150人の決死隊、その先頭にソラ達はいた。この部隊は全員が志願者で実力は最低でもBランク相当、基本はAランク相当以上となっている。さらに指揮はルレイア・メルフィーネ、騎士団総団長自らが取ることになっていた。


「ソラ殿、貴方方が(かなめ)です。お願いします」

「当たり前です。それにしてもルレイアさん、ここにいて良いんですか?」

「ええ、指揮は先代に任せました。私を含めついて行ける者は行くべきという結論に至りましたので」

「なるほど。そういえば、何故俺達の名前を知っていたんですか?いくら派手にやっていたとはいえ」

「マリリアから聞いたのですよ。ご存知でしょう?」

「元パーティーメンバーだったとは聞きました。まさか伝わっているとは思いませんでしたが」

「彼女だけでなく、昔の仲間全員と交流は保ってますから。呑みの席で話題に上がりました」

「そんな風で良いんですか?」

「当たり前ですが、機密は守っていますよ……どうやら、準備ができたようですね。ではお願いします」

「ええ、任せてください」


ソラは決死隊全員を、作り出した岩の舟に乗せる。……舟というよりは改造(追突用)トラックと言った方が正しいような気もするが。そして……


「さあ……突撃だ!」


後ろから巨大な氷をぶち当て、加速した。さらに舟の進路上には常に氷の道を作り出し、風を当て続けることで速度を維持する。そしてソラは追加で、氷の壁を注文通りの形に溶かしていった。この舟が突き進む道だけでは無く、陣形を作りやすいように。

そうしているうちに、氷のエリアを抜ける。その先の魔獣は……


「フリス!」

「うん!」


ソラの光刃とフリスの雷炎が薙ぎ払った。前方だけでなく、周囲にも次々と攻撃が突き刺さる。進路上の死体は岩の舟が()き飛ばし、さらに被害を拡大させた。


「後ろはどうです?」

「予定通り、上手く壁を使って止めています。あれならしばらくは保つでしょう」

「なら、後は大将を倒すだけですね」

「ええ、お願いします」

「任せてください」


ソラは舟の制御に集中しているため、魔獣は多くをフリスが倒していった。そのため索敵には余念がなく、それに気付いたのも1番最初だった。


「見えたよ!」

「Aランク魔獣100体以上!魔人10人!そして……大将らしき魔人も発見!」

「総員、攻撃開始!」


フリスが発見した、高ランク魔獣や魔人がいる場所へ向けて魔法や矢が放たれる。当然ながらソラとフリスのものがもっとも効果が高く、広範囲への爆撃でAランク魔獣の半分以上を倒していた。だが魔人は魔獣を盾としており、ほぼ無傷と言っても良い。


「各個戦闘開始!」

「ミリア、フリス、行くぞ!」

「ええ!」

「うん!」


決死隊は全員が飛び降り、舟はそのまま魔獣を薙ぎ倒しつつ森へ突っ込んだ。そうしてそれぞれが取り巻きに攻撃し、大将から引き離すように動いていく。大将の魔人も自身があるのか、それを放置していた。

そして3人は対峙する。


「あなた達が私の相手なのですかねぇ?」

「そうなるな。お前が大将か?」

「ええ、私はノールドと申します。以後、お見知りおきを」

「知っておく必要は無いな。ここで殺せば良い」


相手は片手に1振りずつ大剣(クレイモア)を持った、青い肌の魔人だ。身長はソラより少し大きい程度の細マッチョで、額には赤い結晶のようなものがついている。


「そんなこと、できますかねぇ」

「できるかできないかじゃない。やるんだ、よっ!」


意表を突くように振るわれた薄刃陽炎。だがそれは綺麗に避けられた。傷をつけることも無く、大きく避けて体勢を崩すことも無く、だ。


「無駄なく避けた?」

「そこが……狙い目よ!」

「待て!ミリア!」


背後からのミリアの双剣も完璧に避け、大剣が首を狩るように振るわれる。ミリアは双剣を重ねて防御したが、吹き飛ばされた。


「全然当たらないよ⁉︎」


フリスの弾幕も大半を避けられ、直撃コースのものは闇の付加がかかった大剣でかき消される。ソラも光魔法で攻撃するが、優先して避けられていた。

弾幕で発生した砂煙が止むと、そこには無傷のノールドが立っている。


「全部避けたわよね?」

「当たりそうなのには最初から大剣を重ねてた。完璧だな」

「どうしてあんなことができるの?何で?」

「落ち着け。絶対にタネがある」


動きから読み取ると、技に関してはソラ達の方が上だ。身体能力は高いようだが、それだけでは今の攻撃を無傷で切り抜けることはできない。

まるで全てを知っていたかのように動いていた。


「予測?先読み?いや……未来予知か」

「バレてしまっては仕方がありませんねぇ。その通り、あなた達の動きは全て分かっていますよ」

「なら、分かっているのと対処できるのは違うって事を教えてやるよ」

「どうするの?」

「そんなもの決まってる……」


自身の技が試される。その状況に、ソラは不覚ながら興奮していた。


「純粋に技で狩りきる。2人は援護を頼むぞ」

「そんなこと、できると思っているんですかねぇ」

「できるから言ってるんだ。覚悟しろ」


だがソラの意気込みとは裏腹に、状況は良くならない。蓮月を本気で使い、身体強化を全力で、無拍子の打ち込みをしているにも関わらず、ノールドは余裕を持って避けていた。数十合続けて、かすり傷1つできていない。


「無駄だということが分かりませんか?」

「やってみなけりゃ分からんだろ!」

「それではこちらも、攻めさせていただきますねぇ!」

「ちっ」


どこがそれではなのか分からないが、ノールドが開始した攻撃、それは厳しいものだった。未来予知は攻撃にも転用できるようで、最も対処しづらい場所へ正確に剣を振るってくる。

それを避け続けているソラも相当だが、不利なことに変わりは無かった。


「ソラ……」

「ソラ君……」


援護を頼まれたとはいえ、このレベル(ソラ並の技)の戦闘に介入できるほどの実力はこの2人には無い。できるのは周りの魔獣を排除することと見守ることだけだった。


「よく粘りますねぇ。無駄だというのに」

「無駄無駄うるさい。しゃべるしか能が無いのか?」

「当たってないのによく言えますねぇ」

「当たってないのはお前も同じだろ。それに……今だ!」


ノールドが踏み込むできたタイミングでソラも踏み込む。そして薄刃陽炎を振るった。


「この程度……え?」


刀の軌道、ノールドは今回もそれが完璧に見えていた。だが回避しようにも体は動かず、未来が確定してしまう。

ノールドの体は斜め一線に斬り裂かれ、膝をついた。


「な、何故……」

居着(いつ)き、未来が読めても武術が分からないお前の弱点だ。動きすぎて咄嗟(とっさ)の反応ができなかったんだよ」


日本の武術において、居着きは最も嫌われる状態だ。筋肉の硬直とも表現できるそれは、一瞬を争う勝負では敗因となりやすい。これはある程度以上意識して訓練すれば無くす、もしくはバレないようにすることができるので、ソラは当然ながらミリアとフリス(格は下がるが)も身につけている。

だがノールドにはそれができなかった。


「ふふ、(おご)りすぎたということですか」

「努力の仕方を間違えたのかもな。スペックだけなら、もっと上を目指せただろうに」

「そんなことを言われたのは初めてですねぇ。敵ですよ?私は」

「もうすぐ死ぬ相手に、何を言おうと変わらんだろ」

「変わった人だ……もう時間が無いようですし、好きにしてもよろしいですか?」

「勝手にしろ」

「ありがとうございます。ですが……魔王様、申し訳ござ……」


力が抜け、地面へ倒れ込むノールド。ソラはそれに近寄り、首を切り落とした。死者を冒涜するかのような行為だが頭を掴み上げ、同時に価値の高そうな大剣も回収する。

周囲では魔獣が逃げ出し、魔人も混乱しつつ逃げているような状態だった。そしてソラへ向けてミリアとフリスが駆け寄ってくる。


「ソラ君!」

「っと、フリス、どうした?」

「心配したんだからっ!」

「……すまんな、心配させて」

「本当ね。1人だけであんな無茶苦茶なことして」

「援護は頼んだじゃないか」

「無理よ。あんな中に入れるほど強くは無いわ」

「そうだよ!」

「……すまなかった」


これだけ心配していた2人に対し、実は楽しんでいたなんてソラは言えなかった。いや、言ったらまた酷いことになりそうだ。

しばらく3人だけで話していると、次第に決死隊に参加していた人達が集まってきた。まだ集まりきっていないのかもしれないが、50人近く足りない。だが全員、笑顔を浮かべていた。


「ソラ殿」

「ルレイアさん。ご無事でしたか」

「それはこちらの台詞(せりふ)です。ですが……我が国を救っていただき、ありがとうございました」

「俺は俺の役割を果たしただけです。そこまで大袈裟になる必要はありませんよ」

「ですが相手をできたのはソラ殿だけでしょう。私も、部下も、確実に負けます」

「俺が1番強いからこの役目を担ったんです。それに俺達は、この町を守りたくて戦ったんですから」

「分かりました……では、町の人達にも伝えましょう。状況は分かっていると思いますが、確証が欲しいでしょうし」

「そうですね……」


ソラは拡声の魔法をかけ、息を吸い込み、叫んだ。


『魔人、討ち取ったりぃ!!』


古風な言い方だが、ソラはこの類以外にどう言えば良いか知らない。だが周囲の反応を見る限り、良かったのだろう。全員(ルレイア含め)が歓声を上げていた。

さらに少し遅れて、巨大な歓声が伝わってくる。


「……後が怖いな」

「仕方ないわよ。それだけの功績を上げたんだもの」

「一気に有名人だね」

「言っておくが、2人も同じだからな?あれだけ派手に暴れたんだし、絶対に逃げられないぞ」

「覚悟の上よ。守るためだったんだし、後悔は無いわ」

「ソラ君と一緒だもん。大丈夫だよ」

「ありがとな」


ソラ達は再び先頭となり、エリザベートへの道を歩み始めていた。



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