第7話 連携①
「ソラ君、今日はどうするの?」
「そうだな……そろそろ連携とかの練習をしておいた方が良いかな?パーティ組んでるんだし」
「そうね。じゃあ、Cランクの依頼を受けて練習しましょうか」
「賛成〜」
「へえ、Cランクまで上がったんだね。早いじゃないか」
「マーヤさんですか。やっぱりこれ早いんですか?」
「まあそうだね。ああそうそう、今日が宿の利用期限になってるけど、更新するかい?」
「はい。では、毎日夕方に払う形でお願いします」
「まいど。これからもよろしく」
ソラの冒険者ランクがCに上がった翌日、霧隠亭で朝食をとりながら会話を進める。
「そう言えば、Cランクの依頼ってどこでやるんだ?昨日までの森はE・Dランク以外は殆ど居なかったが」
「あっちは南の森だけどね、反対側の北の森にはCランクばっかり居るのよ。まあ、あそこは入り浸れる人が少ないから、数も多いけどね」
「それは大丈夫だろ。むしろ、練習相手が多くて良いじゃ無いか」
「木が燃えなかったら、大きな魔法も使えるもんね」
「それもそうね」
「じゃあ、幾つか連携のパターンでも話し合っておくか」
「賛成」
「そうしよ〜」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝食を食べた後、ソラ達は議論をしつつ、冒険者ギルドへとやってきた。
「さて、どの依頼にしようか……」
「オーガとかオークはどう?上がりたての人には定番ね」
「それとも、ブラウンウルフとかキラービーにする?Dランクの時と同じ感じでやれるよ?」
ソラ達の目の前にある依頼板のCランクの部分には約50枚の紙が貼られており、その殆どが討伐の依頼書だ。
そこには、オークやオーガを始めとした10種類程の魔獣の名前が並んでいる。
「そうだな……出来るだけ種族が被らないように受けていかないか?訓練するなら、色々なパターンの相手がいた方が良いだろ?」
「そうしょうか。じゃあ、これとこれと……」
「あ、あれも取って〜」
「お、これも良いな」
ちなみに、周りの冒険者達は……
「おい、あいつ」
「もうCランクだと?早すぎないか?」
「この町に来て5日目か……こんな奴他にいるのか?」
「ルーチェに聞いた話なんだが、ゴブリンの集落2つを1人で落としたらしいぞ。上位もいるのに、だ」
「でもまあ、来て直ぐにあの面倒くさい6人をぶっ倒してましたしね〜、そこまで驚くことじゃないかも」
「まあそうなんだが……それよりも重要な事があるだろ?」
「ん?」
「重要な事?」
「何だ?」
「そんな事あったか?」
「我らがアイドル、ミリアちゃんとフリスちゃんがいつも一緒にいるではないいか!」
「「「「あ!」」」」
「どうやらパーティーを組んだらしいぞ」
「妬ましい」
「死んでしまえ」
「ウルフに食われちまえ」
「いやオークに食われろ」
……ソラへおっさん達の怨念を向けていた。
その時、ソラの周りに風が吹いたり、足下に氷が張ったりしたとかしていないとか。
そんなこんなで5分後……
「相変わらず、この量ですか……」
「流石に1日でやる訳じゃ無いけどな」
「何日かに分けてやるわよ」
「3日位かな?」
ルーチェの前に置かれたのは15枚の依頼書。十分多い。
「取るのは良いですけど、失敗したら罰金が有りますから、注意して下さいね」
「大丈夫だ。じゃあ、行ってくる」
「行ってくるわね」
「行ってきまーす!」
そうしてソラ達はギルドを出て、昨日とは通りを反対側に歩いて行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここか……南の森より、木が少ないかな?」
「そうね。まあ、1本1本は高いけど」
「間が空いているから、大きな魔獣も通れるんだよ」
「見つけ易いが見つかり易いと。囲まれたら面倒だな」
「私達なら十分勝てるんだけどね」
「BとかAランクが出たらどうする?」
「勿論戦ってみるわよ。ソラもいるしね」
「負けそうだったら、逃げれば良いんだよ」
「その場合は、俺がフリスを連れてくのか?フリスの身体強化の特性上、逃げるには不便だろ?」
「当然!お姫様抱っこだからね!」
「はいはい」
たわいない会話をしながら、森の中を歩いて行く3人。それでいて、しっかりと周囲の警戒はしている。
「お?何かいるな」
「どれどれ?」
「あれは……オーガよね。こっちには気付いてい無いみたいだけど、どうする?」
ソラ達の前約30mの所にいるのは、全高2m程で額に角が生えた人型の魔獣、オーガと呼ばれる種族が4体だ。
手には長い棍棒を持ち、少し気の抜けた状態で集まっている。
「出来れば奇襲したいんだけどな……普通に行ったら絶対バレる」
「だよね〜」
「どうしようかしら……」
「ガァ?」
「「「グガー!」」」
「……見つかったわね」
「ソラ君、行こっか」
「そうだな。町での打ち合わせ通りに、行くぞ!」
オーガ達に見つかった為、ソラ達は走り出す。前からミリア、ソラ、フリスの順で、身体強化は使わず、ミリアは直線的に、ソラは木を使って回り込みながら、フリスは魔法を放つ準備をしつつ、走る。
「ソラ君、ミリちゃん、今だよ!」
「オーケー!」
「分かったわ!」
フリスの合図と共に、2人は身体強化を使ってオーガ達へと突っ込んでいく。
「はあ!」
「「グガ!」」
ミリアは正面から突入し、すれ違いざまに脚の腱を斬り裂き、転倒させる。
「おりゃ!」
「「ガフ!」」
ソラは側面から行き、水球を頭に放って目くらましをした後、肩を斬り、首を蹴って行動を止める。
「とどめ!ライトニング!」
「「「「ギガ……」」」」
最後にフリスが雷を何条もオーガの胴体へ向けて放ち、絶命させる。
「初めてにしては上手く行ったな。あ、オーガは角だったか?」
「本当ね。そうそう、切りにくいけど頑張って」
「息がぴったりだったよ!」
3人はオーガを処理した後、また森の散策を始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今度はブラウンウルフか?……ギルドで話してた奴が出てきてるな」
「何よ、その通りならオークとキラービーにも会うって言うの?」
「偶然そうなったってだけだろうがな。それにしても……」
「囲まれたわね」
「囲まれたね」
「俺達、シャドウウルフにも囲まれたよな」
「狼は相性悪いのかな?」
「それは関係無いんじゃないの?」
「ただ俺の探知が未熟だった、って方が楽だからそうしてくれ」
ソラ達はシャドウウルフよりも更に一回り大きく、毛皮が茶色い狼13匹に囲まれていた。
完全に包囲されており、3人は背中合わせの状態になっている。
「それで、どうするの?」
「このまま居るのも嫌だしな」
「さっさとやっちゃう?」
「じゃあアレやるの?」
「そうするか。楔役は俺がやるから、後は頼む」
「任されたわ」
「分かったよ〜」
相談が終わった後、ブラウンウルフ達が距離を詰めて来る。
「今だ!」
「「キャウン!」」
ソラはブラウンウルフが攻撃しようとしたタイミングで包囲の中へと飛び込み、2匹を斬り殺す。
ソラ達との間が狭まると同時に、ブラウンウルフ同士も近づいていたため、起こった混乱は大きい。
「はぁっ!」
「「「グキャン!」」」
ミリアは、焦ってバラバラに攻撃を仕掛けてきた3匹のブラウンウルフを双剣で狩っている。
「行くよ!ウォーターカッター!」
「「「「グルル……」」」」
フリスは長杖の先に水球を作り出し、そこから細い水の線を放ってブラウンウルフ4匹を順に切り裂いていく。これは高圧水流を利用した魔法であり、元からベフィアにあった物だ。
「ふっ!はっ!」
「キャウン!」
「キャン!グキャン!」
ソラは左右から来たブラウンウルフの内、右を回りながら斬り、そのままの勢いで左の側頭部を柄で殴る。止まったところを蹴り飛ばし、木に当てた。内臓破裂と肋骨粉砕骨折、頭蓋骨陥没でもう死んでいる。
「終わりだ。アイスアロー!」
「「キャオン!」」
残った2匹は逃げようとしていたが、動き出す前にソラの放った氷矢で頭を貫かれて死んだ。
「こんな感じで良いかな?」
「大丈夫じゃ無い?」
「良いと思うよ〜」
3人は後処理を始める。何度もやっているので、ソラも慣れてきたようだ。
「うーん、こいつはどうしようか……」
「ん?このブラウンウルフ、怪我が無いの?」
「殴り殺したからな。なあ、ギルドって討伐証明部位以外も買い取ってたよな?」
「そうだよ。物によっては高い物も有るらしいの」
「こいつの毛皮取って売れないかな?」
「出来たらね。私達は無理だから」
「前にやって失敗しちゃったし」
「まあ、やるだけやってみるか」
2種類のナイフを使ってブラウンウルフの毛剥ぎに挑戦するソラ。
初めてだが、結果は……
「失敗か……」
「ドンマイ」
「仕方ないよ」
「この結果だと、売り物にできるくらい上達しそうにないんだが……」
ソラが持っている毛皮は、ボロボロで穴が開き、至る所が血で汚れている。
大失敗だった。
「冒険者じゃあ、できる人はそんなに多くないわよ。そんなことに時間を使うより、特訓した方が良いしね」
「これからは気にしないで行こうよ」
「いい追加収入になれば良かったんだがな……まあ良い、諦めるか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あれは…もしかして?」
「……オークよ……何で言った通りになるの……」
「何でだろうね?」
ソラ達の先40mには、全高2.5m程で棍棒を持った、ファンタジーそのままのオークが3体居る。
「脂肪が厚そうだな……」
「腹は無意味よ。首を狙うしかないわ」
「魔法なら楽だよ」
「ここから魔法だけで倒すか?」
「それだと私の出番が無いじゃない」
「ミリちゃん、オークが相手の時はわたしに全部やらせてるでしょ?」
「そ、それはおいといてよ!」
「落ち着け。それじゃあ、魔法で良いか?」
「そ、そうね。頼むわ」
「やろっか〜」
流石に遠いので、魔法を放つためにしっかりと見て、イメージを整える。
「右と真ん中は貰うぞ。ホーリーアロー!」
「じゃ、わたしは左ね。サンダーアロー!」
ソラからは16本の光矢が、フリスからは7本の雷矢が放たれる。それらの内、17本はオークに当たり、心臓か頭を貫いて殺した。
「当たりは7本と6本か」
「凄いね。わたしは4本しか当たらなかったのに」
「そんな事はいいから、早く行きましょうよ」
オーガに近づいて行ったソラ達は、右耳を切り取った後、土魔法で埋めて処理をした。そして、また森の奥へと進んで行く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー、あれは……」
「はぁ……」
「キラービーだね」
「やっぱり出てきたか……」
「何でなのよ……」
「ねえ、早くしないと囲まれるよ?」
「そうだな。ミリア、行くぞ」
「分かったわ……行くわよ!」
「わたしは後ろからね〜」
ソラ達が動き出した時、前方20mの所から、全長80cm程の蜂ーーキラービーが向かって来ていた。
数は8匹で、半円形に広がっている。
「まずは端からだ、な!」
「「ビー⁉︎」」
「その通り、ね!」
「ビ……」
ソラは左、ミリアは右に周り込み、端に居たキラービーに攻撃する。
ソラは2匹の羽を斬り落とし、ミリアは腹の針を左手の双剣で弾き、右手の双剣で首を斬る。
キラービー達は2人を警戒して中央に集まる。
「ついでだ、アースランス!」
「「「ビビー」」」
ソラは追加で群れの後方に岩の槍をわざと外れる様に放ち、キラービーを1ヶ所に集める。
「フリス!」
「トドメは頼んだ」
「は〜い、ハリケーン!」
ソラとミリアが退いた瞬間に、集まったキラービーへフリスの作り出した竜巻が襲いかかる。
竜巻が収まった後、そこにはバラバラに切り裂かれたキラービーの死体が残るだけだった。
「バラバラになってるな。証明部位は大丈夫か?」
「アゴだけど……大丈夫みたいね」
「良かった〜」
「さて、さっさとやるか……あ」
「どうしたの?」
「何かあった?」
「いや、水が無くなっただけだ」
「そうなの。わたしのいる?」
「ちょっと待ってくれ。試してみたい事があるから……できるかな……アクアクリエイト」
ソラが金属製の水筒へ向けて魔法を放つと、どんどん水が溜まっていく。そしてすぐに、水筒は満杯になっていた。
「凄い……」
「うわぁ……」
「ま、こんなもんか」
「ねえ、どうしてこんな風に出来たの?この水、水魔法で作った物じゃ無いよね?」
「これは水魔法で集めた水だからな。空気中を漂ってる水だけを集めて、この中に入れたんだよ。結構大変だったけど……」
「いくら魔法がイメージ次第っていってもね……」
「これって良いの?」
「前の世界の知識のおかげだよ。理論立てていけば、ある程度は出来るからな」
「ズルいわよ」
「反則だね」
「そう言うなって。さて、そろそろ帰るか?日も真上を越えているし」
「そうね、帰りましょうか」
「戻ろ〜」
帰り道に出てきた魔獣も狩っていったため、ギルドでルーチェにまた驚かれたのは言うまでも無いだろう。