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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第11話 共和国首都エリザベート②


「誠に申し訳ない」


豪華な屋敷の中で、茶髪紫眼の壮年の男性、この屋敷の主人が頭を下げる。その対面にはソラ達が座っており、とても困惑していた。

だが、それも当然である。


「わ、わたし達だって紛らわしくしてたんだし……」

「そうであってもだ。この子が巻き込んだだけではなく、使用人も君達が誘拐したと本気で思っていた。これが私の非でないとは言えん」

「……分かりました、謝罪を受け取ります。ですので、今後から良い関係をお願いします、大統領閣下」

「今はリーリアの父、バーファ・アーノルドだ。個人的に仲良くしよう」

「恐縮です」


バーファは大統領と呼ばれる人としては若い、とソラは感じた。それは地球の感覚かもしれないが、30代くらいというのはベフィアでも若いのでは無いだろうか?少なくとも、表向き大臣であったオリクエアよりは若い。

とは言え大統領、3人が固くなるのも当然だった。


「なら、まずはその態度から直してもらえないか?」

「どういうことでしょうか?」

「君は今、私を大統領として見ているだろう?公の場ならばそれで良いが、私は市民の声も聞きたいのでね。敬いすぎないようにしてほしいのだ」

「自分達はこの国の出身ではありませんが?」

「それでもだよ。この国にいる間は、冒険者も我が国民だ」

「はは。正直、今まで会ってきた権力者の中で1番良い人に感じますよ」

「今まで会ってきた?例えば誰にだ?」

「最も上はオルセクト王国の国王一家、それに次ぐのがゴリアル帝国のゼーリエル公爵一家ですね」

「……本当に君は冒険者か?」

「ただのAランク冒険者ですが?」

「ただの冒険者が会うには格上すぎるだろう。しかも私で3人目じゃないか」

「まあそうですけど……」


……この世界の権力者は何なのだろうか。庶民的と言えば聞こえは良いが、考え無しとも取れる。だがそれを考えると、バーファはガイロンやオリクエアと比べるとマシなのかもしれない。


「では今日はありがとう。報酬はどれくらい欲しい?」

「いえ、それは……」

「それなら指名依頼を数回出すならどうだ?報酬には少し色を付ける」

「……分かりました。報酬はそちらでお決め下さい」

「うむ、ではそれについてはまた後日」

「はい、失礼します」

「失礼します」

「それじゃあ」


ソラが完全に押し切られた形となった。いくら現代日本の知識を持っていたとしても、本物の政治家に交渉では勝てないようだ。

なので扉を閉めると、3人は同時にため息を吐いた。


「何なんだよ……」

「どれだけ権力に縁があるのかしら……」

「3国全部にいるよね」

「直接言われたことは無いが……どこも雇いたいだろうな……」

「ここも?」

「あの使用人の群れから余裕で逃げ切った上に、捜索網に引っかからずこの屋敷まで辿り着いたんだぞ?少なくとも逃走・潜入系の能力は高いと思うだろ」

「逃げただけなんだけどね。あんな風にだけど」

「それは言わぬが花よ、フリス。それに、さっきの報酬の話だってそんな感じだったわ。指名依頼も、実力を確かめるためでしょうね」

「そんな感じだ。ん?あれは……」

「あ、リーリアちゃ、むぐ」

「フリス、ちょっと待て」

むーむー?(どうしたの?)

「あれって……」


豪華な赤絨毯の上を歩いていると、少し離れた扉が開いていた。そこからリーリアが見えたのでフリスは声をかけようとしたが、ソラ達によって止められる。リーリアの対面に茶髪黒眼の熊獣人のメイド服を着た女性がいたからだ。


「お嬢様、2度と勝手な行動はしないでくださいね?」

「ごめんなさい、マリリア」

「いつもそればかりではないですか。本当に反省しているのですか?」

「も、もちろんよ!」

「目を見て言えますか?」

「それは……」

「お嬢様?」


小説で見たことがあるような展開が繰り広げられていた。あそこまで言い(ども)るリーリアなど珍しい、と3人同時に思った。会ったその日とはいえ、あの活発娘と言えるくらいには分かってきている。

なおこのやり取りの間、フリスは口を塞がれたままだった。


「あれ、リーリアの護衛役の人よね?」

「護衛役というよりは……お目付役だよな?」

むー(離して)

「どんな状態なのかしら?」

「怒ってるんだよな……」

むー(ソラ君)

「いつもいつもお転婆で、我慢の限界だったとか?」

「ああ、それだ」

むー!(離して!)

「あ、フリスすまん」

「ぷふぁ!酷いよ〜」


ソラが納得した後、ようやく開放されたフリス。だが、その音に気付いたリーリア、そしてリーリアの変化に気付いたマリリアの2人と目が合った。


「あれ?ソラ」

「え、ソラ様?」

「げ、見つかった」

「まあ、諦めなさい」

「いつものことじゃん」

「どうせ2人も捕まるぞ?」


リーリアは(すが)るような、マリリアは憧れ()のような表情をしてソラ達の方へ向かってきた。マリリアの目が怖すぎて、逃げるという選択肢は初めから無い。


「この度は申し訳ございませんでした」

「いえ、こちらも楽しんでいましたから大丈夫です」

「そうですか。お嬢様はいつもいつも何らかの問題を起こしますので……」

「マリリア!いつもじゃないわよ!」

「そうでしょうか?」

「う……それは……」

「はぁ……話は変わりますが、どうして逃げ切れたのですか?執事やメイドはともかく、我が家の私兵は弱いはずがありませんので」

「どうせリーリアから聞くこともできますから良いですけど……身体強化で屋根の上に登っただけですよ」


無茶苦茶である。普通ならこんなことができるとは思わないので、見逃したのも仕方が無いかもしれない。魔力探知も使って逃げていたのだから、私兵側が不利すぎる。

それを言ったら優位性が完全に失われるため、言わないが。


「冒険者だとお伺いいたしましたが、ランクはいかほどに……」

「まあ、Aランクですね」

「実力はより上なのでは?」

「あ、やっぱり分かるんですか」

「ええ、これでも元Aランク冒険者ですので」

「なるほど、似たような方を見ましたか」

「はい。彼女は今騎士団の総団長をしています」

「なるほど。そういった人もいるんですね」

「ソラ様はどうしてお強いのですか?」

「技が主ですね。それに身体強化も、要所要所で出力を変えています」

「素晴らしいですね。それでは、我が家の私兵の訓練に参加していただけませんか?」

「まあ、指名依頼を受けてくれとご当主様には言われましたが……」

「では!旦那様に話を通して来ますね」


嬉しそうに駆け(スキップし)ていくマリリア。リーリアはそれを呆然として見送った。


「……あんなに嬉しそうなマリリア初めて見たわ」

「普段はどんな人なんだ?」

「氷の侍女とか、冷徹なるメイドとか呼ばれてるわよ。護衛役のはずなのに……」

「それで、お目付役とか家庭教師みたいな役割も持ってると?」

「……うん。本当は無いはずなんだけど……」

「それがああなる、か。そりゃあ困惑するな」

「予想はできるけど……ね、フリス」

「うん。変わりすぎだよ」

「ソラ様ー!旦那様が許可を出されましたー!」

「……逃げられなくなったな」

「ソラ、諦めましょ」

「押しが強すぎるもん」


先ほどまでリーリアに怒っていた人と同一人物とは思えない。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「だぁぁぁ!」

「ほいっと」

「うらぁぁぁ!」

「そっと」

「おらぁぁぁ!」

「はいっと」


人が、飛ぶ。飛ぶ。とぶ。投げ飛ばされていく。

ここはアーノルド家の私兵訓練場、そこの中心で、ソラは流派に幾つか存在していた投げ業を使って、私兵達の相手をしていた。もちろんミリアとフリスにも仕事はある。


「ほらほら!遅い遅い!」

「もっともっと!」


ミリアは細剣や短剣などを持った護衛役の人達(マリリア以外)を、フリスは魔法使い達を相手にしていた。彼らも弱いわけでは無い。だが2人の方が上だった。

ミリアは圧倒的なスピードで、フリスは圧倒的な弾幕で、子どもを相手にするのように一方的だ。


「…………」


それを見ていたリーリアの口は塞がらず、


「流石です」


マリリアは何故か感涙しつつソラに突撃し、


「これは……惜しいな……」


何故か来たバーファは少し悔しそうだった。


「はぁぁぁ!」

「甘い」

「まだまだぁぁ!」

「ふん」

「お願いします!」

「よし来い!」


……ソラの所は何故か道場のような雰囲気になっている。ミリアやフリスの3倍近い数を相手にも関わらず、完全に手のひらの上で踊らせていた。


「もう1回!」

「次だ次!」

「お願いします!」

「まだ甘い」


やられても向かっていく私兵達の根性も凄いが。勿論こんなに向かってきて、タダでは済まない。訓練が終わった後、そこは死屍累々(ししるいるい)の惨状だった。


「ふう、こんなところか。俺達の実力は分かってもらえましたか?閣下」

「ああ、素晴らしいな。そして惜しく思った」

「お父様?」

「はっきり言おう。我が家に雇われないか?期限付きでも良い」

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

「やはりか……理由を聞いても?」

「はい。まず俺達の立場が微妙なところと言うことがあります。オルセクト王家からは森の中での王女殿下の護衛を、ゼーリエル公爵家からは短期間ながらご子息の指南役を、既に行っています。こちらのご令嬢と親しく私兵の訓練に参加したというのはほぼ同条件ですが、俺達が雇われるというのは、他の2家にとって見逃せないことかと」

「なるほど……ならばどうすれば良い?」

「冒険者として指名依頼なら受け取れますので、今と同じ関係でよろしいのではないでしょうか?それなら、他の2家とも同じですし」

「そうだな、そうしよう。もうこんな時間であるし、夕食も我が家でとっておくといい。宿はどこかな?」

「まだ決めていません」

「なら今日は泊まっていきなさい」

「……はい」


またもや完全に押し切られた。だが、利用し合う関係に落ち着けられたので、ソラとしては満足だ。むしろこれ以上は無理だろう。

ソラ達は着替えた後執事に案内され、食事の準備がされた部屋へ行く。すると何故かリーリアが中にいた。


「何でリーリアがここにいるんだ?」

「お父様から、ソラ達が食事のマナーを知らなかったら教えろって言われたのよ」

「それってリーリアの役目じゃないわよね?」

「多分、他にやらせたいことがあるんだろ」

「ええ……ソラ、ミリア、フリス、今日はごめんなさい」


大統領令嬢が一介の冒険者に頭を下げるなどとんでもないこと(大統領はそれ以上)だが、ここは非公式の場なのだから問題無い。

そしてソラ達は、リーリアが頭を下げていることに不満があった。


「リーリア、頭を上げてくれ」

「でも……」

「良いから上げろ。第一、何で頭を下げてる」

「それは、その……ソラ達に迷惑をかけたから……」

「俺達が迷惑だなんていつ言った?」

「確かに厄介ごとを持ってきたのはリーリアよ?でもね」

「わたし達も楽しんでたもん。最終的には良かったしね」

「大統領と知り合えるなんてとんでもない幸運だよな」

「わたし達、そんな幸運を何回やってるのかな?」

「幸運かどうかは定かじゃないけどね」

「私……良いの?」

「ああ、大丈夫だ」

「もう友達だよ」


リーリア自身、権力者の娘だからと威張っていたわけでは無い。友人と呼ぶには十分な関係だった。


「それで、何でずっとこんな口調なの?」

「あ、敬語の方が良かったか?申し訳ありません、ご令嬢」

「いやいや、無くていいよ敬語なんて……私にお兄ちゃんがいたら、こんな感じなのかな……」

「すまんが、俺には弟はいても兄はいないからなあ。ああ、ミリアとフリスにはいたか。どうなんだ?」

「聞かなかったことにして!2人も言わないで!」


しばらくリーリアと談笑していると、バーファが入ってくる。だが扉の外にはまだ人の気配があった。


「遅れてすまないな」

「いえ、それほど待っていませんので」

「そうか、では紹介しよう。私の妻のケーラ、その後ろは息子のバーツとオルタだ」


そう紹介されて入ってきたのは、紅髪緑眼の女性と金髪翠眼の少年、そして茶髪紫眼の児童。ケーラと紹介された女性は、かなり痩せ細っており、健康とは言えないだろう。

ソラがそんなことを考えていると、リーリアが母親へ向けて走っていった。


「お母様!」

「あらあらリーリア、また何かしたそうね?」

「あの……それは」

「良いのよ、言わなくても。私は貴女の元気な姿を見れて何よりなんだから」

「お母様……」


一見すると普通の母娘なのだが、ソラは何かしらの違和感を感じた。そのため、バーファに近づく。


「閣下、奥様はもしかして……」

「ああ、病弱でな。家の外には出られないのだ」

「ご公務もあるでしょう?どうなさっているので?」

「リーリアが代わりに行ってくれている。自分から率先してな。申し訳ないとも思うが、ありがたいのは確かなのだ」


日本でも総理大臣の娘が公務を代行、ファーストレディを行っていた例はある。その人はリーリアほど幼くは無いが、ベフィア(中世ヨーロッパ)なら大丈夫なのかもしれない。

話はそこそこに席に着くと、出されたのはドイツ系のコース料理だった。これもまた豪華なものである。


「ん!」

「……美味しい」

「……美味い」

「どうだね、我が家自慢の料理は」

「最高です。本当に美味しい……」

「あの人の料理、何でも美味しいのよ」

「あの子は私達への恩返しだって言ってますけどね」

「過去になにかあったんですか?」

「そこは個人情報だから言えないな」


がっつくような真似はしないが、3人とも食べるスピードが早くなった。それだけ美味しかったということであるため、バーファ達も笑っている。流石に料理人(料理長?)のことは言ってくれなかったが。

なおソラ達3人の食べ方は、やはり注目された。


「マナーがしつかりしてるな。もしかして貴族の出か?」

「いえ、平民です。ミリアとフリスの実家は大きな商家なので知ってますし、俺も縁があったので」

「なるほど。これならパーティーに出ても恥ずかしく無いだろうな」

「流石にダンスはできませんが」

「知りたいなら教えるわよ?」

「……ミリア、やっぱりできるのか」

「フリスもできるわ。少しくらいはできないといけなかったもの」

「だ、そうだぞ?」

「……ご縁がありましたら」


商家の出、しかも領主のパーティーに招かれるほどだったため、ミリアもフリスも一通りのパーティーマナーを知っている。もしソラがパーティーに出ることになったとしたら、2人にリードされる形となるだろう。


「それで、この後はどうするのかね?指名依頼も訓練以外はすぐに出せないが」

「この後ですか……ダンジョンに向かいたいと思います」

「冒険者だから仕方ないか。それで、どれくらい時間がかかる?」

「そうですね……明日は情報収集などに費やし、その後15〜30日といったところでしょうか」

「ふむ、長いのだな……よし、情報はこちらが持っているものを出そう」

「よろしいのですか?」

「ああ。これで明日もここにいれるのか?」

「いえ、現役で潜っている人達の話も聞きたいので、予定は変わりません。情報を下さるのはありがたいことですが」

「それなら仕方がない。必ず帰ってきてくれ」

「はい、勿論です」


なおこの間、ミリアとフリスはリーリアやケーラ達と話し込んでいた。そしてまた女子会のような形となり、ソラとバーファははばにされてしまう。






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