第9話 迷宮都市ウェイブス②
「こ、こんなに、ですか……」
「ああ。粘壁で手に入れた物だ」
「武器の数が多い気もしますが……」
「途中で大きめの宝箱をいくつか開けたからな。そのせいだろ」
ウェイブスの冒険者ギルドの一角、そこには多くの魔水晶や武器が置かれていた。1つのパーティーが1回の探索で得た結果としては異常である。かなりの人目を集めていた。
なお、武器は鍛冶師に卸した方が高いのだが、既に形が決まっている物を買おうとする人は少ない。商人にしても、ダンジョンから出てきた武器は信頼性に欠けるため、買おうとはしない。結果的に、こういう武器はギルドが買い取ることになっていた。簡単なチェックをされた後、ギルド備え付けの武器になったり、領主や国に渡されるそうだ。
また当然ながら、魔法具はどこも高く買おうとする。大抵のパーティーは自分達で使うため、ダンジョン産魔法具の流通量は少ないのだが。
「やっぱり驚かれたわね」
「まあ、あの数だとな。質も悪いわけじゃないし」
「高く売れたんだよね?」
「まちまちだ。下の方で出た良いやつは高かったが、主に量が多いからだけどな」
「そんなものよね」
ソラが持ってきた硬貨を3人で山分けにし、ギルドを出る。その後は適当に通りを進んでいった。
「さて、どこに行こうか」
「そうね……何かあるかしら?」
「露店?」
「それはいつでまできるだろ。探してからだな」
「そうね……カジノにでもいく?」
「あ、良いかも」
「そうだな。向かうか」
話に聞いていたカジノの場所へ歩いていく途中、人混みを見つけた。またである。
「あ、何かやってるみたいだよ」
「お、行くか?……どこかであったよな、このパターン」
「この町に来てすぐの時ね」
「ああ、あの時は人間レルガドールだったか」
「もしかして、またかな?」
「またって言ってもなあ……俺達何日ダンジョンに篭ってた?」
「30日は超えてるわよね……またっていうほどじゃ無いわ」
「そっか」
あの時ほど混んでいるわけではないのでそのまま進んでいった先、そこには看板のようなものがあった。その看板に書いてあるのは……
「レルガドール大会?」
「この町、本当にこれが好きだな」
「開催は今日、終わらなければ明日もやるのね」
「面白そう」
「参加してみるか?」
「うん、やる!」
「見せつけてやりましょう」
「それじゃあ、俺もある程度は勝っておかないといけないな」
「目指すは優勝でしょ?」
「でもなあ……」
看板の近くには人が2人座っている長机もある。どうやら受付のようだ。そこへミリアとフリスは意気揚々と、ソラは少し諦めたような感じで歩いていく。まだ1度もミリアとフリスに勝てていないどころか、一方的に負けているのだから仕方がないのかもしれないが。
形式は総当たりでは無くトーナメントで、対戦順はくじ引きで決めるようだ。参加を決めた3人はすぐに登録し、くじを引いた。
「どうだった?」
「私は21番ね」
「わたしは49番だよ」
「俺は11番だ。最大64人だから……上手くいけば俺とミリアは準決勝、フリスとは決勝で当たるな」
「計算早いね」
「法則を知ればすぐにできるさ」
「それくらい早く指せれば良いんだけどね」
「無茶言うなよ」
「え〜」
「おいこら」
3人とも綺麗に分かれた形となった。ソラはそこまで勝ち残れるか心配しているが、ミリアとフリスはかなり強気だ。それに、ソラもこのやり取りを楽しんでいた。
「どんな人が出るのかしらね」
「さあな。俺にも勝ち目がある相手だと良いが」
「どうかな?この町の人がどれくらい強いのか分からないし……」
「やってみるだけよ。負けたってどうにもならないんだしね」
しばらく後、第1回戦が始まった。初戦のソラの相手は若いドワーフだ。見た目はソラと同じような歳だが、背がかなり低い。だが、ヒゲはそこまで多くなかった。
「よろしく」
「ああ、よろしく」
「どうしたのかな?そんな不思議そうな顔で」
「同じくらいのドワーフは初めて見たからな。20くらいか?」
「あはは、これでもまだ80になったんだけどね。人間と同じだとただの子供だよ」
「……すみません」
「いいよいいよ、ただの種族差じゃないか」
長命なため成長も遅いようだ。本人に言われたため、ソラは気にしないことにした。
そしている間にレルガドール大会は開始した。この2人、序盤は拮抗していたが……
「それなら……アーチャーをDの4へ。ナイトへアタック」
「うーん……ナイトをBの4へ」
「よし、マジシャンをFの3へ。チェンジしてキングへアタック」
「あ……参りました」
最終的にソラが押し切った。
キングは隣接していないと取られないが、周囲の駒は違う。範囲攻撃ができるマジシャンにより、守りの駒が全滅した。さすがにこうなっては勝ち目が無いため、降伏しかない。
「よし勝った」
「ソラ、ちゃんと勝ったわね」
「おめでと〜」
「ああ、ミリア、フリス……いつから見てたんだ?」
「ソラがDの5のアーチャーでGの6のファイターを取ったところからよ」
「……結構前だな」
「早く終わったもん」
「私もね」
やはり実力差がかなりあるようだ。むしろ2人とも、他の優勝候補を一掃できるくらい強いのでは無いだろうか。ソラは一瞬、このままトトカルチョに参加した方が良いのではないかと思っていた。
その後、ソラはの2回戦と3回戦もなんとか勝つ。そして次の対戦相手は老齢よエルフ男性だった。
「よろしくな、若いの」
「ええ、よろしくお願いします」
「ほほ、そんなに硬くならんでもよいわい」
センスが同じなら経験の差が勝負の差になる。この勝負ではそれが確かに証明されることとなった。
「アーチャーをGの7じゃな」
「フェンサーをEの3へ」
「トルーパーをDの7じゃ」
「トルーパーをCの6へ。トルーパーにアタック」
ソラは序盤から苦しい展開に持ち込まれる。ソラの打つ手の内、半数は先を見越されて対応されていた。
「ファイターをIの11、そのままナイトをアタックじゃ」
「く……参りました」
「ほほ、ワシもなかなか危なかったわい」
守りを崩され、負けてしまう。ミリアに勝てるとは思っていなかったソラだが、戦ってはみたかったようでかなり悔しがっていた。
「すまんミリア、負けちまった」
「良いわよ。初めてすぐなんだから、仕方ないわ。仇は取ってあげるわね」
「ああ、頼む」
ソラが負けたというのに、ミリアは冷静だ。だがソラは、歩いていくミリアの背中に不動明王を見た気がした。
「お主が次の相手かの?」
「ええ、ソラがお世話になったわね」
「ソラ、とは先ほどワシに負けた若いののことじゃな。お友達かの?」
「私の夫よ?文句があるなら言いなさい」
「ほほ、怖いのう」
一方的に剣幕を突きつけている状態だが、これはレルガドールでも同じとなる。
「く、ここまで追い込まれるとは……ランサーをKの7へ」
「ふふ、次はヒーローをJの10へ。チェンジしてフェンサーにアタック」
「な、何じゃと……」
一方的な状態だった。ソラと戦えなかったことに相当鬱憤が溜まっていたのか、中盤から手前に来させていない。そしてミリアの駒は敵陣深くまで進んでいた。
また、フリスの方も……
「ファイターをDの9へ。チェンジしてトルーパーにアタック」
「ま、参りました……」
「うん、お疲れ様」
フルボッコにした。盤の上に残っている駒の8割はフリスのものだ。レルガドールは将棋のように取った駒を再利用できるとはいえ、やりすぎである。
そんな2人に、周囲も騒然としていた。
「おいおい、何だあの2人……」
「相手は前回のベスト4だぞ……」
「一方的すぎないか?」
「ああ。でもあの娘、綺麗だよな」
「あっちの娘の方が可愛いだろ」
「あの2人、多分旦那持ちだぞ?」
「それでも花になるからなぁ……毎回参加してほしい」
今の3人は普段着なため、冒険者とは分からない格好だ。そう思うのは仕方が無いかもしれないが、無駄な願望である。
「ソラ君、勝ったよ!」
「ああ見てたぞ。やっぱり凄いな」
「これは負けられないもん。あ、ミリちゃんも終わったね」
「準決勝には思えないほど早い気がするんだが?」
「そんなこと無いわよ。レルガドールだと、勝負が動けばすぐに決着がつくもの」
「とか言いつつ、攻め立てただけだろ?」
「まあ、ね。結構分かりやすい打ち方だったもの」
「……流石だな」
「ミリちゃんはいつもだよ」
ミリアは理詰め、フリスは感覚で指すという違いはあるが、どちらも強かった。指し方が違うのに2人で息を合わせられるのは何故かは分からないが。
そうしている間に、決勝戦が開始される。
「フリスと本気で指すのは久しぶりね」
「うん、負けないよ?」
「勝ち越してるのはフリスじゃない。それはこっちのセリフよ」
ミリアとフリスの対戦成績はだいたい2〜3:8〜7といったところだ。だが、ミリアも弱いわけでは無い。
「ナイトをFの8へ」
「そうするのね。ならマジシャンをJの7へ。トルーパーをアタック」
「だったらファイターをEの7へ。トルーパーをアタック」
「それなら、アーチャーをHの7へ。ランサーをアタック」
準決勝と打って変わって接戦となっていた。この2人の対決は主にフリスの動きをミリアが読みきれるかどうかにかかっている。
そしてソラも、それを注視していた。
「フリスの狙いは主力の分断と各個撃破か?誘い込んでいる気がするが……ミリアの方は3つに分けての波状攻撃……まだ何かありそうだが……」
ソラは状況分析をしようとするが、完全には読み切れていない。慣れの問題だろう。
「このまま続けるの?マジシャンをGの4へ」
「いいえ、そろそろ動くわよ。ランサーをAの6へ。トルーパーをアタック」
「あ、そうするんだ。じゃあ、ファイターをBの5へ。トルーパーをアタック」
3つに分けていた攻撃部隊の後ろから、さらに大規模な部隊が送り込まれた。だがフリスは最初から構えていたため、上手くさばいていく。
「一気に動いたな……今はミリアが攻めてフリスが守り……フリスはどうするつもりなんだ?」
宿にてミリアやフリスとレルガドールをしていたソラは、フリスの対応に疑念を持っていた。誘い込むにしても、前はもっと中盤に近い場所で行っていた。だが今は自陣の中にまで入り込まれている。このまま放置しては押し切られるだろう。
「攻めるんだね。アーチャーをCの5へ。ファイターをアタック」
「マジシャンをCの7へ。アーチャーをアタック。このまま押し切るわよ?」
「じゃあ、わたしもやるね。ヒーローをIの8へ。ランサーにアタック」
「え⁉︎ フェンサーをHの9へ」
「それだと止まらないよ?アーチャーをDの7へ。マジシャンをアタック」
だが、フリスの狙いは分散からの一点突破だった。今まで攻めていたミリアは急な変化に対決しきれず、自陣まで攻め立てられてしまう。
「ナイトをCの9へ。チェンジしてフェンサーをアタック」
「あ……参りました」
「うん。ミリちゃんもお疲れ様」
「やっぱり負けちゃったわね」
「だって負けられないもん。ソラ君にいいとこ見せないといけないしね」
「それは私もなんだけど?」
「ミリちゃんはソラ君の所に行ってきたら?出なきゃいけないのは優勝者だけみたいだし」
「そうするわ」
負けてしまったミリアは、ソラの座る長椅子へ歩いていく。それに対しソラは普通に迎え入れた。
「ミリア、お疲れ様」
「ええ……悔しいわね。何度も負けてるはずなのに」
「本気だったってことだろ?悔しいって思えるのは、それだけ勝ちたかったことの証明なんだからな」
「ええ……ちょっと動かないでね」
「ああ。フリスが来るにはまだかかりそうだからな」
ミリアはソラの胸に頭をつけ、泣く。ミリアがここまで泣くのは初めて見たが、ソラに困惑は無い。こうなることが分かっていて移動したことを、ソラは一切言わなかった。
しばらくこうしていると、いきなり興奮したフリスが走ってくる。
「ソラ君!ミリちゃん!見て!」
「どうしたんだ?フリス……これってレルガドールのセットだよな?」
「フリス、これどうしたのよ……」
「優勝商品だって」
「こんな物が出てくるなんて……」
「何なんだ、これ?」
「樹齢1000年以上の森精樹を特殊な製法で作り上げた物よ。何百年も保つから、少なくとも金貨3枚分の価値があるわ」
「はぁ⁉︎」
「本当に凄いものよ」
「……とんでもないものだな……」
最後にとんでもない爆弾を残された大会であった。




