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異世界成り上がり神話〜神への冒険〜  作者: ニコライ
第4章 絶望と希望と新星と

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第8話 粘壁①



「終わったぞ。そっちはどうだ?」

「こっちも終わったわよ」

「わたしの所もだよ〜」

「この程度には苦戦しないか。強いて言えばミリアが心配だったが」

「ソラが鍛えてくれてなかったらダメだったかもね」

「へえ、纏めて切ったんだ」


ダンジョン内部のT字路、3方から押し寄せた魔獣を殲滅したソラ達。何気ないように話しているが、3人の前に広がっているのは元粘液の塊だ。


「こんなにスライムばっかり出るなんて、ある意味新鮮ね」

「そういうダンジョンなんだから仕方ないし、俺にとってはそうでもないけどな」

「そうなの?」

「俺の世界だと、スライムは雑魚の代名詞だったからな……」

「え?ソラの世界って魔獣は出てこないのよね?」

「ゲーム、遊びの中の話だ。それがこんなに面倒な相手になるとは……」

「そうだね。色ごとに使えない属性が決まってるし」

「魔法は大変ね」

「俺やフリスの威力なら耐性の上からでも倒せるけどな」


スライムは使える属性が1つに限られるが、その属性に対する耐性はかなりのものがある。複数種類のスライムが集団を組んでいると、かなり大変となる。ソラやフリスならそれぞれ別属性の大規模魔法2連発、もしくは耐性ごと潰すような威力を出せばいいため、あまり変わらないが。

なお倒したスライムが消えていくのは、ダンジョン内部でよかったとソラが思うところだ。これが外だと、どうしても粘液が飛び散ってしまい大変なこととなってしまう。血も似たようなものだが、ソラはこちらの方が嫌だった。


「ミリア、罠は?」

「右には石弓があるみたいね。左は……上から石板が落ちてきそうよ」

「石板と言うよりはタイルだけどな……左にするか」

「ちなみに、何で?」

「矢の処理が面倒だ」

「確かにそうね。壁の奥にある石弓を壊すのは大変そうだし」

「実際大変だからな。ダンジョンに魔力を通すのは難しいし」


このダンジョンの内装は全面に白いタイルを埋め込んだ、少し近未来といった感じである。ミリアとフリスが最初に入った時はかなり驚いていたが、もう慣れたようだ。異常はソラで慣れているのかもしれないが。

そして罠だ。そのタイルが落ちてくるかもしれない。それだけならそう警戒はいらないように聞こえるが、タイルの厚さがどれくらいあるか分かっていないのだ。天井はそう高くないので、最悪の場合でも死にはしないだろうが、相当痛いだろう。


「さて、どんな仕掛けなのやら」

「多分感圧式よ。ソラ、私の5つ前2つ左の板に何か乗せて」

「了解。まあ、氷でいいか」


ソラが指定された場所に大きめの氷を生み出すと、天井のタイルが音もなく落ちてきた。そのタイルは落下地点に移動していたミリアが受け止める。


「お、落ちたな」

「外れて次が用意されるだけみたいね。この板自体が薄いし」

「これだけ薄いなら痛く無いよね?……一気に走っても問題無いかな?」

「……いや、やめよう。もしかしたら魔獣を呼び寄せるかもしれない」

「スライムが来るってこと?」

「あいつらの目は見えないだろうが、音がちゃんと聞こえている可能性はあるからな。ミリアが安全だと思う道を進んで、俺達が同じルートを通っていく。それでいいだろ」

「それが良いわ。それとソラ?」

「どうした?」

「安全だと思う、じゃなくて安全な道よ」

「はは、大きく出たな」


ミリアは宣言通り、1つとして罠にかからずに進んでいく。ソラとフリスもしっかり後ろをついていき、歩みはとても順調だった。スライムが出てきても簡単に倒していく。


「あ、この先広間になってるよ」

「反応は?」

「ちょっと待って……普通のスライムが4匹と、大きいのが3匹、もっと大きいのが1匹だね」

「そこまで大きいっていうことは、メガスライムか?」

「多分そうだよ。大きさも聞いてたのと同じくらいだし」

「広間ね、あれじゃない?」

「うん、あそこだよ」

「後は罠が無いことを願うだけか」

「多分大丈夫よ。広間の少し前で終わってると思うから」

「……よく分かるな」

「何だか最近、よく分かるようになってきたのよ。どうしてかは分からないけど、信頼できるわ」

「まあ、原因を探すのは後で良いな。今はそれを信じよう」


ミリアの言った通り、広間に入る少し前のエリアには罠が無かった。何故ミリアがこんなことをできるようになったのかは何の心当たりもないが、今はそれを気にしている場合では無い。

ソラは広間を覗き、数と色を確認した。


「普通は赤、茶、緑、黄色がそれぞれ1ずつ、デカ物は赤3つと緑1つ、1番デカいのは赤だ」

「火ばかりね」

「火と風の計6、こいつらがメインだろう。土が防御、雷が牽制って形か。連携すれば、の話だがな」

「連携、か……ソラ君はどう思うの?」

「普通ならありえない。ありえないんだが……」

「ありえそうなのね?」

「ああ」

「どうして?メガスライムだってAランクだよ?」

「陣形だ」

「陣形?」

「このパーティーのリーダーは赤いメガスライムだ。こいつが1番奥にいて、その前に土、さらに前がビックスライムを中心とした半円形の火と風、そして最先頭が雷。この入り口から敵が来ることを想定した陣形だ。それにこの陣形を崩していない。どう考えても、な」

「じゃあ、メガスライムが指揮官?」

「いや、それも定かじゃない。可能性としては……ビックスライムのどれかも、後隠れてる場合もあるな」

「そうなんだ……」

「でも、方針は単純なのよね?」

「当たり前だ。殲滅すれば良い」

「あはは、確かに単純だね」


厄介のやの字も感じさせない発言だが、ある意味では正論だ。どのみち殲滅しなければ進めないので、敵の強さは上方修正しておいて不利益は無い。

3人は簡単な打ち合わせをした後、広間の入り口に立つ。


「さてじゃあ……行くぞ!」

「ええ!」

「うん!」


ソラが上から氷の柱を落として雷と土のスライムを倒すと、その柱を使ってミリアはメガスライムの元へ飛ぶ。


「ふっ!」


ソラによって氷のエンチャントを施されたルーメリアスを使い、対処していく。メガスライムから放たれる火の魔法を避け、本体を斬って削っていく。


「ソラ君!」

「ああ!」


ソラとフリスは連携して対処した。ソラが氷、フリスが水の魔法を使って水氷の嵐を作り出し、スライムを飲み込んでいく。ビックスライムは火や風で対抗しようとしたが、無意味とばかりに消し飛ばしていった。


「フリス、ナイスだ」

「うん。ミリちゃんは?」

「終わったわよ」

「お、流石だな」

「本当、無茶させるわね」

「でも、ミリちゃんだから上手にできたんじゃないかな?ソラ君が行っちゃったら、こっちはもっと時間かかるもん」

「適材適所ってやつだ」

「便利な言葉よね、それ」

「でも、悪い気はしないだろ?」

「まあそうね。頼られてるんだから」


この程度ならソラ達には問題無いり3人はこの調子で奥へと進んでいった。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「っ、止まれ!」

「どうしたのよ?」

「何も無いよ?」

「嫌な予感がする……というか、どう考えてもこれはおかしいだろ」


階段を降りた少し先、大抵の場合十字路となっているそこが1本道だった。ベフィア的に見れば、ここは少し変ではあるもののおかしいというわけでは無い。ソラの感じた違和感、それはベフィアではなく地球のゲームのものだ。


「今までの通路、ここまで広かったか?」

「そう言えば……もう少し狭かったわよね?」

「でも、何がおかしいの?」

「あり得るのは…….やっぱり罠か。絶対あるぞ」

「罠なんて見当たらないわよ?いえ、でも……」

「このダンジョンの見た目からしても、簡単には見破れなさそうだからな。仕方が無い」

「どういうこと?」

「糸みたいな簡単なものはほとんど無いだろうって意味だ。ん?この感じ……ここか?」


他より拾い1本道など疑ってくださいというようなものだ。他の部分とは異なる感覚を(とら)えたソラが、土魔法をそこに撃ち込むと……


「うわ……」

「スライム一杯の落とし穴って……」

「……趣味が悪いな。しかも両開きの扉とは気付きづらいものを……しかも魔力探知にかからないか……」


床が半円2つに割れて内側に落ち、3mほどの穴が出現した。しかもその底付近にはスライムが数匹おり、引っかかる者を待ち構えている。

もしここに落ちたら……想像したくもない。


「スライムは黄色……雷ね」

「また嫌なやつを選んだな」

「痺れて出れなくなっちゃう?」

「ああ、そしてそのままスライムに……いや、考えたくない」

「そうね……そう言えばソラ、ここに落とし穴があることに、どうして気付いたのよ?」

「独特な魔力パターンがあるからな。まだ完全じゃないから少し待ってほしいが」

「それなら分かるの?」

「ああ、どうやら開閉には魔力を使っているみたいだ。魔法具の1種なんだろうな」

「へえ。それで、回収できる?」

「無理だな。広範囲に広がってる上にダミーも多い。俺程度じゃあニセモノをつかまされるだけだ」

「そっか……じゃあ、先導はソラ君にお願いできる?」

「ああ、任せろ。怪しい所には土弾を撃つから、開いた場所は覚えておいてくれ」

「ええ、大丈夫よ」


この1本道を無事通り抜けたソラ達。同じように性悪の悪い罠はいくつもあったが、しっかり回避していった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「……デカすぎだろ……」

「こういうのもいるっていうのは知ってたけど……実物を見ると凄いわね」

「大きすぎないかな?」

「だからアレ(・・)があるんだろ」


ここのボスは巨大なスライムだった。30畳以上の広さを占めるのでは無いかと思うほどのサイズ、マトモにやっては核まで攻撃は届かないだろう。


「マザースライム……Sランクか」

「青だから水……やりやすい相手で良かったわね」

「属性的にはな。この後が問題だろ」

「それはわたしがやるから、ソラ君は本体をお願い」

「まあ、そっちの方が良いか。ミリアはフリスのサポートを頼めるか?」

「ええ、良いわよ」


ソラ達が打ち合わせを終えたのと同時に、マザースライムから大量のスライムとビックスライムが生み出される。これがマザースライムの能力で、自身と同じ属性のスライムとビックスライムを生み出すのだ。普通は最大でも2桁なのだが、ここには3桁台のスライムが存在する。ビックスライムもそれなりにだ。


「多すぎだ!フリス!」

「任せて!」


ここはフリスの本領発揮、無数の雷を作り出し、スライムの核を正確に撃ち抜いていく。ミリアはそのサポート……のはずが、完全に暇している。


「……ミリア、行くか?」

「……ええ、仕事が無いもの」

「ま、そうだな!」


雷鳴をBGMに、ソラとミリアは駈け出す。

マザースライムから放たれる魔法はソラの火魔法が迎撃し、ミリアが伸ばされる触手(攻撃腕)を切り裂いた。すぐに核の近くまで到着する。


「それで!どうするのよ!」

「そうだな……飛ばす(・・・)から援護頼む」

「……新技ね?」

「ああ。大技ならともかく、1対1用は無かったからな」

「私も使える?」

「……エンチャントで使えるようにしよう」

「お願いね」


火のエンチャントを受けたルーメリアスでミリアが迎撃している間に、ソラは構える。その薄刃陽炎の刀身の周りには、風と雷が濃くまとわりついていた。


「走れ!」


よく使う薙ぎ払い用とは異なり、細く鋭く絞られた(やいば)。それはマザースライムの体を何も無いかのように突き進み、核を両断する。


「流石、凄いわね」

「まだまだだけどな。溜めを無くさないと。それに、単一属性でできた方がエンチャントには良いし」

「ごめんなさい、無茶言っちゃったわね」

「いいさ。有効なのは事実だしな」


スピードがあるとは言え、ミリアには遠距離攻撃が無かった。これが簡単に使えれば戦いの幅が広がる。より楽な手を取れるかもしれない、より強い相手と戦えるかもしれないのだからそのための苦労は惜しまない。


「奥に行く?」

「ああ、フリス……こいつなかなか消えないな」

「端の方は消えてきてるわよ。時間がかかるみたいね」

「ということは、しばらく休憩か」


しばし待ち、魔水晶を回収する。その後奥の扉へと進んだ。いつも通り、その中には宝箱が安置されている。


「剣だね」

「ああ……光か」

「へえ、良いわね」

「ダンジョンに挑む順番、間違えたか」

「関係無いと思うよ。ミリちゃんはソラ君がエンチャントしてたし」

「そうね、終わったことだから良いじゃ無い。それよりも、それはどうするのよ?」

「そうだな……ミリアが持ってるか?」

「えっと……良いのよね?」

「俺に剣は使えないからな。ミリアの方が上手く使えるだろ」

「そうね。持っておくわ」


刃渡り1mほどの長剣、それは光を纏い輝いている。影窟の時にこれがあったらボス戦が楽になったかもしれないが、エンチャントされていたのだから無意味かもしれない。

勇者の持つ剣のような見た目だが、会ったとしても渡すつもりは無い。聖剣とやらがあるのだから不要だろうが。


「これでしばらくスライムに会わなくて済むわね」

「出た方が会わないぞ?」

「それでも、よ。ここまで多いと気持ち悪いわ」

「まあそうだな。見た目的にも」

「そうかな?」

「……そういえば、フリスはアンデット相手てもそんなに変わらなかったな」

「うん。そういうの気にしないよ?」

「そういう人もいるし、ありえないわけじゃないのか」

「ちょっと羨ましいわ……」


ミリアの呟きには2人とも気付かなかった。




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